閑話:友達2
子供には子供の世界があります。
朝、目が覚めたリルルは気が重かった。
起こしに来たアークにぐずる。
「起きたくない。行きたくない」
わがままを言った。
ベッドから出ない。
こんなこと、王宮ではしたことがなかった。
分かりやすく、アークに甘えている。
そんなリルルがアークは可愛いかった。
許したくなるが、それはリルルのためにはならない。
リルルには学習しなければならない理由があった。
「駄目です。無理に2人と親しくなれとは言いません。ですが、ちゃんと勉強はしてください」
アークは頼む。
「そうしないと、ランスローにいられなくなりますよ」
軽く脅した。
リルルはびっくりする。
「どうして?」
首を傾げた。
思いもしないことを言われて驚く。
「ランスローではリルル様が十分な学習を出来ないということになったら、王宮に戻れと言われる可能性は高いと思います」
アークは説明した。
その可能性は十分にある。
リルルもそれは理解できた。
「勉強する」
ランスローに居たいリルルはそう言う。
覚悟を決めたように、起き上がった。
「いい子ですね」
アークは誉める。
リルルは嬉しそうに笑った。
アークに連れられて、リルルはランスロー家に向かった。
そこでは父のアルフレットと共にルークとユーリが暮らしている。
なんとなく、相手のテリトリーに入るような気まずさがあった。
だが、リルルが暮らすあの家に2人を呼ぶことが出来ないこともわかっている。
あえて部屋数を少なくして建てた家には書斎なんてなかった。
3人で勉強する場所がない。
だがその部屋数が少なくてこじんまりした家をリルルは気に入っていた。
ランスロー家では当主である男爵(マリアンヌの父)がリルルを出迎えた。
アークとは玄関先で別れる。
「それでは、よろしくお願いします」
アークが自分のことを頼む声が聞こえた。
リルルは一人になることに不安を覚える。
顔が青ざめた。
それに男爵が気づく。
「大丈夫ですよ」
囁いた。
「ルークもユーリもいい子です。仲良く出来ますよ」
優しい笑みを浮かべる。
励ましてくれているのはリルルにもわかった。
だが、そんな言葉は何の慰めにもならない。
子供には子供の世界があり、それは大人にはわからない世界だ。
大人の言葉は子供の世界では効力を持たない。
(仲良くなんて、なれなくていい。勉強できれば、それでいい)
リルルは後ろ向きなことを考えた。
男爵はリルルをルークたちがいる書斎に連れて行く。
「家庭教師の先生はもう来ているので、2人は勉強を始めています」
男爵は説明した。
実は約束の時間にリルルは遅れている。
歩いたら、予想以上に時間がかかってしまった。
トントントン。
男爵はノックをしてから、ドアを開ける。
部屋の真ん中には大きなテーブルがあった。
そこに椅子が置かれている。
ルークとユーリは椅子に座って、書きものをしていた。
下を向いて、ペンを走らせている。
大人が一人、2人の前に立っていた。
家庭教師だろう。
ルークとユーリはリルルを見た。
その視線に居心地の悪いものをリルルは感じる。
2人とはほとんど話をしたことがなかった。
自分のことをどう思っているのかわからない。
分からないのは怖いことだ。
「先生。リルル様です」
男爵は家庭教師にリルルを紹介する。
だが、ルークやユーリにはしなかった。
2人はリルルと一緒に旅してきたので不要だろうと判断する。
「はじめまして、リルル様。これからよろしくお願いします」
家庭教師は挨拶した。
3人は少し年が違うが、同じ内容を学習する。
貴族の子弟には必ず覚えなければいけないことがいくつかあった。
その基礎を学ぶことから勉強は始まる。
すでにリルルは学習した内容だ。
覚えている。
教師の質問にすらすらと答えた。
そんなリルルに同じくらいの年のルークは面白くない顔をする。
一方、少し年下のユーリは尊敬の眼差しをリルルに向けた。
「リルル様って凄いんだね」
小声で、そんなことを言う。
打算のない賞賛は初めてだ。
リルルは戸惑う。
そんなリルルをユーリは不思議そうに見た。
「どうかしたの?」
尋ねる。
リルルは自分より年下の相手とちゃんと話をするのはほぼ初めてだ。
友達候補として連れてこられるのは同い年か年上が多い。
リルルの世話をすることを前提としていた。
彼らにとってリルルは友達ではなく、世話を焼く対象だ。
年下に慕われるのは初めてで、感動する。
友達の必要性はよくわからないが、慕われるのは悪くないと思った。
仲良くなれそうです。




