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気がかり

気になることは放っておけません。





 ばたばたと慌しく、マルクスは旅立って行った。

 あまりに忙しそうだったのでアルフレットを捕まえることは出来なかった。

 仕方なく、わたしはルイスを捕まえることにする。

 ラインハルトの執務室に突撃した。


「聞きたいことがあるの」


 マルクスから聞いた話を確認する。

 ルイスは仕事中に迷惑だという顔をした。

 わたしもそれはわかっている。

 だが、ルイスを確実に捕まえられるのはこの時間しか無い。

 もう一度、同じことを聞いた。

 ルイスは諦めた顔で答える。

 執事を引退してアルフレットに同行するのはやはりセバスだった。


「なんでそんなことに?」


 わたしは首を傾げる。

 何がどうなっているのか、理解不能だ。

 急な展開についていけない。

 何かあったのかと、勘ぐってしまう。


「さあ? 詳しい話は私も知りません」


 ルイスは素っ気なかった。


「薄情ね」


 わたしは責めるように言う。

 むーっと頬を膨らませると、やれやれという顔をされた。


「大人が自分で考えて決めたことですよ。理由を聞いたり反対したりする必要がありますか?」


 正論が返ってくる。


「そうだけど……」


 わたしは口を尖らせた。

 ルイスが言うことは正しい。

 わたしが気にする必要のないことだ。

 だが、わたしは自分に関わった人のことは気になってしまう。

 幸せになって欲しいから、自分が出来ることは何でもしたかった。

 お節介なことは自覚している。

 だが何度シエルに怒られても、これは直らない。


「普通、気になるでしょ?」


 眉をしかめた。

 そんなわたしに、ルイスはため息を一つ吐く。


「ずいぶん前から、引退を考えていたそうです。どこか田舎ののんびりしたところで暮らしたいと思っていた時に今回のランスロー行きの話を聞いて、自分から同行を願い出たそうですよ」


 教えてくれた。


(知っているじゃん)


 わたしは心の中で突っ込む。


「じゃあ、何かあった訳ではないのね?」


 確認した。


「違います」


 ルイスはきっぱり、否定する。

 わたしはほっとした。


「それじゃあ、ランスローに居っぱなしになるの?」


 そんな気がして尋ねたら、ルイスは驚いた顔をする。


「よくわかりましたね」


 そう言われた。


「わかるわよ」


 わたしは苦笑する。


「ランスローと王都を行ったり来たりするのは大変だもの」


 馬車で三日の行程はなかなかハードだ。

 それを何回も繰り返すのは高齢には差しさわりがあるだろう。

 ランスローにずっといる方が楽に違いない。


「それなら……」


 言いかけて、わたしは止めた。

 口を閉ざす。

 そんなわたしの不自然な行動を、ルイスは気にした。


「どうしました?」


 問いかける。

 わたしは苦く笑った。

 せっかく途中で止めたのに、聞かれたら答えないわけにはいかない。


「ランスローにいるなら、暇な時に家を手伝ってもらえばいいかなと思ったの。でもさすがにそれは余計なお世話だと思ったので、止めました」


 わたしは正直に話す。

 自分が口を出すことではないと気づいた。

 必要であれば父やシエルが自分でセバスと話をするだろう。

 わたしが言うべきことではない。


「……大人になりましたね」


 ルイスは感心した。

 軽く馬鹿にされている感じがする。


「とっくの昔から大人です」


 わたしは反論した。

 失礼なことを言うなと噛み付く。


「年齢的にはそうですね」


 ばっさり切り返された。


「うっ……」


 わたしは呻く。


「ルイスってわたしには意地悪よね」


 恨みがましい目を向けた。

 そんなわたしをルイスはふっと鼻で笑う。


「気のせいです」


 しれっと否定した。


(ムーカーツーク~)


 わたしがううーっと唸っていると、ぽんと肩に手を置かれた。


「私にはむしろ仲良く見えます」


 ラインハルトにそう言われる。

 わたしはラインハルトの執務室でルイスを捕まえた。

 基本的にルイスは離宮には来ない。

 捕まえるのには、ラインハルトの執務室にわたしが向かうのが手っ取り早かった。

 ラインハルトに挨拶だけして、ルイスと話す。

 ルイスに用事があって来たのだから、わたしとしては当然の行動だ。

 だが、ラインハルトは気に入らないらしい。


「私を無視して、二人で楽しそうですね」


 作り笑顔を引きつらせた。


「聞きたいことがあっただけです。直ぐ、帰ります」


 わたしはさっと踵を返す。

 だが手を掴んで、引き止められた。


「そう言わずに、せっかく来たのだからゆっくりしていってください」


 今度はにこりと本当の笑顔を向けられる。

 引き止めたいのは本心のようだ。

 だがその後ろでルイスが怖い顔をしている。

 仕事が溜まっているのだろう。


(邪魔するなって言いたいのね。わかっているわ)


 わたしは心の中で返事をした。


「そうしたいところですが、お仕事の邪魔はしたくないので。頑張ってお仕事を終わらせて、早く帰ってきてくださいね」


 わたしは自分からラインハルトの頬に触れるだけのキスをした。

 予想外の行動に、ラインハルトは驚く。

 掴んでいた手が離れた。

 その隙にわたしはさっとラインハルトから距離を取る。


「ではわたし、帰ります。お仕事の邪魔をして、ごめんなさい」


 そそくさとラインハルトの執務室を出た。

 扉の外で待っていたメアリと合流する。


「話は終わったのですか?」


 メアリに聞かれた。


「ええ。何事もなかったわ」


 わたしは頷く。


「それは良かったですね」


 メアリは困った子を見るような目でわたしを見た。

 執務時間中に行くのは止められたのに、強行したのはわたしだ。

 困らせた自覚があるので、ちょっと気まずい。


(今後からちゃんということをききます)


 心の中でそっと約束した。






意外と猪突猛進です。

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