表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
222/651

閑話:心の声

書き損ねた部分です




 具合が悪くなって横になっている時、わたしはクリシュナといろんな話をした。

 その中で、母の話題が出る。

 クリシュナ的には母に妃になって欲しかったようだ。

 実際、王宮ではそういうつもりで準備が進んでいたらしい。


(その話は初耳)


 わたしは驚いた。

 まだ内定の状態で母は家を出たと聞いている。

 準備らしい準備はしていないと思っていた。

 だが、違ったらしい。


「フローレンスが妃になってくれていたら、王宮も今とは違っていたでしょうね」


 クリシュナはぼそっと呟く。

 遠い目をした。

 わたしは少し想像してみる。

 とりあえず、クリシュナと張り合うことはないだろう。

 地位とか権力にはまったく興味がない。

 だがそれはそれで問題も起きそうな気がした。

 物事には常に良い面と悪い面が両方ある。

 良いだけのことなんてありえない。

 もちろん、悪いことだけというのもなかった。


「違っていたと思いますが、良い方向に変わっていたとは限らないと思います」


 わたしはやんわりと否定する。


「どうして?」


 クリシュナに驚いた顔をした。

 そういう返事は予想していなかったらしい。


「母は自由な人だったので、王妃になっても自由に振舞っていたでしょう。辺境地の男爵夫人の我侭なんてたかがしれているし、影響力も小さいです。しかし、王妃になれば影響力も権力も桁違いに大きくなります。母に悪意がなくても、母の行動で誰かが困ることは十分に考えられます。権力や地位には頓着しない人でしたが、それが利点かと言われたら、微妙かもしれません」


 わたしの言葉に、クリシュナはなるほどと頷く。


「それに、わたしには母が黙って王家に嫁ぐとは思えません。嫌なことは頑なに嫌だと主張する人でしたから。直前で逃げ出して大騒ぎになることも十分にありえたでしょう。そうならなくて良かったです。体面を傷つけられたら、王家もだだですますことが出来なくなりますから」


 貴族にとって尤も大切なのはプライドだ。

 プライドを守るためなら、貴族は無茶なこともする。

 母が王家に嫁ぐことが公表される前に逃げ出したのは、ある意味、どちらにとっても僥倖だったのかもしれない。

 お互いに傷を負わずにすんだ。


「フローレンスはそんな人だったかしら?」


 クリシュナは首を傾げる。

 そういうイメージはないようだ。


「母を知る人は皆、母との思い出を美化しすぎている気がします。母はけっこう勝手で、思いつきで行動する子供で、我侭な人でしたよ」


 わたしは笑う。


「でも、それを周りが許せるくらい魅力的な人でした」


 そう続けた。


「そうね」


 クリシュナは微笑む。


「レティシアでなくフローレンスが妃になってくれていたら、みんなが楽だったのにというのはこちらの勝手な話よね」


 渋い顔をした。


「そういう雰囲気をレティシア様は感じ取っていたのかもしれないですね」


 わたしはぼそっと呟く。


「え?」


 クリシュナは戸惑う顔をした。


「レティシア様が頑なに権力に固執するのは、自分が母の身代わりだと思っているかもしれません。本当に辛い思いをしていたのは、レティシア様だったのかもしれませんね」


 わたしの言葉に、クリシュナは考え込む。


「……」


 何も言わなかった。


「……」


 わたしも黙り込む。

 沈黙が流れた。

 誰が辛い思いをしているかなんて、周りから見てもわからない。

 人の気持ちを推し量るのには限度があった。

 たいていの場合、他人の気持ちは本当の意味では誰も理解出来ない。

 理解できたつもりでいたとしても、それはたぶん気のせいだ。


「辛かったのは、レティシアの方だと言うの?」


 クリシュナはわたしに問う。

 わたしは小さく首を横に振った。


「わかりません」


 そう答える。


「わたしはレティシア様ではないので、レティシア様の気持ちはわかりません。ただ、周りが母を望んでいたことをレティシア様は気づいていたようです。そのことに、傷つかなかったことはないと思います」


 わたしの言葉に、クリシュナはため息を一つついた。


「レティシアが頑なな理由はそれなのかしら?」


 首を傾げる。


「……」


 わたしは答えなかった。

 それだけとは限らないが、何も知らないわたしに答えられることは何もない。


「今度、レティシア様に聞いてみたらいかがですか?」


 しれっと、提案した。

 わからないことは、聞くしかない。

 対話はコミュニケーションの基本だ。


「……」


 クリシュナはびっくりして、固まる。

 わたしをまじまじと見た。


「マリアンヌはすごいことを言い出すわね」


 呆れるのを通り越したらしく、感心する。


「でも、聞かなければ分からないままです。わたしたちは相手の心の声を聞くことは出来ないのですから」


 わたしは説得するように囁いた。


「そういう機会があったら、考えてみましょう」


 クリシュナは頷く。

 そんな機会なんてないと思って返事をした。

 そういう機会が今後は出来そうなことは後で知る。


「仲良くすることが出来たら、素敵ですね」


 わたしは心からそう思った。








話したから仲良く出来るとも限りませんが^^;

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ