表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
214/651

結論

考え込んでいます。




 国王は考え込んだ。

 黙りこむ。

 いろいろ検討しているのだろう。

 話しかけてはいけない雰囲気があった。

 わたしは黙って待つことにする。

 正直、退屈だ。

 あくびが出そうになる。

 そんなわたしの手にラインハルトの手が触れた。

 手を握られる。

 急に握られてびっくりした。


「ラインハルト様?」


 ラインハルトを見る。

 ラインハルトは微笑んだ。


「父上は考え込むと長いから放っておいていいですよ」


 そう言って手をぎゅっとされる。

 わたしはふっと笑った。


「こういうこと、結構あるんですか?」


 わたしはちらりと国王を見る。

 国王は正面を向いているが、わたしもラインハルトのことも見ていなかった。

 遠くを見ている。


「そうですね、たまに」


 ラインハルトは頷いた。

 珍しいことではないらしい。


「考えが纏まったら、こちらに戻ってきますよ」


 そう言って笑った。

 わたしをじっと見る。


「少し、疲れた顔をしていますね」


 心配した。


「今日はいろいろあったから疲れたんじゃないですか?」


 問われる。

 国王の存在を無視して、普通に会話し始めた。

 本気で国王を放置するらしい。

 だがわたしはやはり気になった。

 ちらちら国王を見てしまう。

 国王はずっと考え込んだまま固まっていた。

 こちらの声は全く届いていないように見える。

 わたしはラインハルトの方に身体を向けた。


「疲れたといえば疲れたんですが。基本、何もしていないので大丈夫ですよ」


 微笑む。

 家事を自分でやらなければいけなかった前世と違い、わたしの一日は寝て起きてご飯を食べての繰り返しだ。

 家事は全て使用人がしてくれる。

 楽な生活だ。

 基本的に疲れることはしていない。

 むしろ何もしていない罪悪感で心が苦しいくらいだ。

 身体が平気なら何かしらしたい。


(その何かしらは王族の仕事というよりは畑仕事とかだけど)


 心の中で笑った。

 さすがにそれはわたしに甘いラインハルトでも許してくれないだろう。

 だがわたしは人が生きていくために必要な何かしらに携わっていたかった。

 自分が生きるために頑張っている気になりたい。


「何もしていないということは何かしたいことがあるのですか?」


 突然、問われた。

 国王がこちらを見ている。

 いつの間にか戻ってきたようだ。

 わたしだけではなく、ラインハルトもびっくりしている。

 想定より、戻ってくるのが早かったようだ。

 国王はわたし達の話を聞いていたらしい。


(ポンポコ、まじ狸)


 わたしは苦笑した。


「わたしのしたいことなんて、畑で野菜を作るとかですよ」


 答える。

 国王が気にするような類のことではなかった。


「ああ、でも。お米を加工するというのもありますね。お餅を作ったり、おせんべいを焼いたり、おかきを揚げたり。そういう、米の加工に着手できたらいいですね」


 自分が食べたくてそう言った。


「それは全部食べ物なんですか?」


 ラインハルトは尋ねる。

 当然、餅も煎餅もおかきも知っているわけがなかった。

 米から作るので食べ物だと判断したのだろう。


「そうです。今度、作ってご馳走しますね」


 わたしは約束した。

 ラインハルトは頷く。


「マリアンヌは食べ物の話が好きですね」


 国王に呆れられた。

 わたしもそれは自覚している。

 だが、美味しいものを食べたいのは人間としての当たり前の欲求だろう。


「美味しいものを食べたら、人は幸せになれるんですよ。食は生きていくために必要なとても大切なことです。人間、お腹がいっぱいならたいていのことは頑張れますから!!」


 わたしが力説するとラインハルトは苦笑した。


「さすがにそれは言い過ぎではないですか?」


 やんわりと窘められた。


「そうですか? 人々が飢えることなく全ての民の腹が満たされていたら、そこは良い国だと思いません?」


 わたしは問う。


「確かに良い国だね」


 国王は頷いた。


「ところで、マリアンヌが作りたいのは何故、野菜なんだね?」


 そんなことを聞く。


「自分が生きるために必要なことを自分でできる人間になりたかったからです」


 わたしは微笑んだ。

 自分が何も特別な力を持たないその他大勢であることをわたしは自覚している。

 何も出来ないから最低限、生きていくために必要なことは自分で出来るという自信が欲しかった。

 わたしの望みなんてそんなものだ。

 世界を救おうとか、誰かの役に立ちたいとか、そんなこと考えたことはない。

 わたしはわたしを生かすことだけで手一杯の人間だ。


「マリアンヌは本当に変わっているね」


 国王はなんとも複雑な顔をする。


(誉められているかどうかは微妙な感じだな)


 わたしは心の中で呟いた。

 そんなわたしの手をラインハルトはまたぎゅっと握る。

 そのことに国王は不思議な顔をした。


「ところで、どうして二人は手を繋いでいるんだね?」


 尋ねる。

 わたしとラインハルトは顔を見合わせた。


「仲良しだからです」


 わたしは答える。

 その言葉にラインハルトは何故か赤くなる。

 照れた顔をした。


(え? なんで??)


 そのことに逆に、わたしの方がどぎまぎする。


(何か恥ずかしいことを言ったかしら?)


 不安になった。

 心当たりは何もない。

 だが、わたしの貴族としてのレベルはまだまだ低い。

 知らないところでやらかしている可能性はあった。


「ところで父上。結論は出たのですか?」


 ラインハルトは尋ねる。

 話題を変えるつもりのようだ。


「ああ、そうだね」


 国王は頷く。


「明日、フェンディやマルクスと話し合うよ」


 そうとだけ答えた。

 どんな結論を出したのかはここで口にするつもりはないらしい。

 わたしも余計なことに巻き込まれるつもりはないので、それ以上は聞かないことにした。





結論は簡単には教えてくれません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ