閑話:幼馴染(後編)
なんだかハワード、不憫です……
お妃様レースの話は貴族の間に直ぐに広まった。
ハワードにも妹がいるので、無関係ではない。
貴族なら適齢期で独身の女性は全て参加できた。
ハワードはマリアンヌのことを思い浮かべる。
参加資格はマリアンヌにもあった。
だが心のどこかで、マリアンヌは参加しないとハワードは思っていた。
溺愛している弟の元を離れるはずがない。
だから、お妃様レースの結果を知った時には驚いた。
マリアンヌが王子の妃になるという。
しかしその話を聞いても、ハワードには信じられなかった。
何かの冗談だと思う。
マリアンヌを他の誰かに取られるなんて、ハワードは考えもしなかった。
マリアンヌが社交界に顔を出さなくなってから16年余り。
ハワードはマリアンヌのことを忘れられなかった。
しかし、ほかの貴族の口からマリアンヌの話が出ることはない。
それはマリアンヌの弟が社交界にデビューしても変わらなかった。
誰ももう、マリアンヌのことを覚えていない。
マリアンヌは地味で、目立つタイプではなかった。
他の子供たちと一緒に遊ぶこともほとんどない。
誰かと親しく話していた様子を見た覚えはなかった。
いつも一人で本を読んでいる。
そんなマリアンヌに興味を持ったのはハワードくらいだった。
他の貴族たちはマリアンヌのことを気にもかけない。
ハワードも誰にもマリアンヌのことは語らず、秘めていた。
好き好んでライバルを増やす必要はない。
自分以外の誰もマリアンヌに恋をすることはないと油断していた。
しかし、マリアンヌはレースに優勝したので王子の妃に決まる。
マリアンヌなら優勝しても不思議ではない気がした。
同時に、王子が結婚を希望しているとは限らないとも思う。
第三王子のラインハルトは優秀で見目麗しいらしい。
次期国王だとも言われていた。
そんな王子が年の離れた地味なマリアンヌを気に入っているかどうかは怪しい。
もしかしたら、結婚を望んでいないかもしれない。
まだチャンスは残されているのではないかと思った。
王子が望んでいなければ、婚約の解消もありえる。
マリアンヌに傷がつくことになるが、それは自分が結婚すれば問題がない気がした。
そんなことを考えていると、マリアンヌが戻って来たという噂が広まる。
何故か第三王子や第二王子もランスローに来ているらしい。
一緒に来たのではなく、王子たちは追いかけてきたようだ。
ハワードは困惑する。
状況が理解出来なかった。
だが、周りの貴族や父はどういう状況なのかなんて興味がない。
王子が近くにいることに興奮していた。
王族が西側地域に足を運ぶことなんて今までない。
西側地域は豊かだ。
しかし、王都からは遠い。
中央とは縁が薄かった。
そのことを西側地域の貴族たちは不満に思わないわけではない。
だがそれを口には出来なかった。
不満は心の中にぐっと押し込める。
そんな土地に王子が来たのだ。
貴族たちは浮き足立つ。
なんとしても、この機会に縁を作らなければと躍起になった。
ハワードの父は王子のためにパーティを開くことにした。
男爵家に招待状を送る。
王子が参加するかどうかはある意味、賭けだった。
王子からは出席の返事が来る。
父はとても喜んだ。
ハワードも王子と会えるのは嬉しい。
マリアンヌのことをどう思っているのか、確認できると思った。
パーティ当日、やってきた王子は噂以上に眉目秀麗だった。
若く溌溂としていて、相手は選び放題だろう。
ますます、マリアンヌを選ぶとは考え難くなった。
マリアンヌの良さは付き合って初めてわかる。
一目で分かる容姿の綺麗さとは種類が違った。
王子がそれに気づいているのか、ハワードは探ろうとする。
だがその必要はなかった。
王子は聞かれる前に自分からお妃様レースの話題を口にする。
マリアンヌを誉め捲くった。
それはどう聞いても惚気にしか聞こえない。
周り貴族はその話を聞いて驚いていた。
自分が知っているマリアンヌと王子が語るマリアンヌが繋がらないのだろう。
だが、ハワードには知っていることばかりだ。
王子はどうやら本気でマリアンヌのことを愛しているらしい。
ハワードは自分の初恋が本当に叶わずに終わったことを悟った。
本当はパーティで再会するまで書きたかったのですが。
長くなりそうなので切りのいいところで。




