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閑話:幼馴染(中編)

自分の知らないところでモテているマリアンヌです。




 ハワードはマリアンヌと顔を合わせるたびにケンカをした。

 泣き虫の女の子がいて、その子をからかうとマリアンヌがとんでくる。

 その子はわりと可愛い子だった。

 だがちょっとからかわれただけで泣く。

 ハワードはそれが気に入らなかった。

 マリアンヌなら黙って泣くようなことはしないだろう。

 嫌なら言い返す。

 それを直ぐに泣いて誰かに助けを求めるのが、ハワードにはずるく感じられた。

 ハワードは泣き虫の少女に興味はない。

 だがからかえばマリアンヌが来るので、からかった。

 そうしなければ、マリアンヌが自分に絡むことはない。


 マリアンヌはどこか大人びた少女だった。

 子供が関心を示すような遊びや物に興味を持たない。

 他の子供たちと遊ぶことはほとんどなかった。

 子供の遊びをくだらなく感じていたように思う。

 本が好きなようでたいていは本を読んでいた。

 パーティが開かれる家から借りて、帰るまでに読み終えて返す。

 彼女を跡継ぎと決めている両親はそんな娘の行動を止めることはなかった。

 跡継ぎとして、知識を深めるのは有用だと考えているのだろう。

 ある日、ハワードは本の何がそんなに面白いのか聞いてみた。

 すると彼女は、自分が知らないことを知るのは楽しいと答える。

 知識はないよりある方がいいのだから、本を読むべきだとハワードにも勧めた。

 初めてけんか腰ではなく、まともにマリアンヌとハワードは話す。


 ケンカばかりしていたので、てっきり嫌われているとハワードは思っていた。

 質問しても、まともな返事が返ってくるなんて期待していない。

 だがマリアンヌは普通に話をしてくれて、お勧めまでしてくれた。

 いつになく優しい、柔らかな態度に驚く。


 その疑問をそのまま口にしたら、マリアンヌは笑った。

 子供が好きな子をいじめることはよくあることだから、そんなに怒ってはいないと答える。

 ただ、いじめたら嫌われるからもう止めた方がいいと注意された。

 どうやら、ハワードが泣き虫の少女を好きだと勘違いしているらしい。

 それは違うと、慌ててハワードは否定した。

 自分が好きなのはそっちではないと言い訳しかけて、口を噤む。

 自分のマリアンヌへの感情に、その時、気づいた。

 自分が恋をしていると知る。

 それを本人に言う度胸なんて、12歳のハワードにある訳もなかった。

 突然黙ったハワードに、マリアンヌは訝しい顔をする。

 だが追求したりはしなかった。

 言いたくないことは無理に言う必要は無いという態度を取る。

 本を読むのに集中した。

 そんなマリアンヌの隣は心地よい。

 ハワードはしばらく、マリアンヌの横顔を見ていた。

 次にパーティがある時、本を持ってきたら一緒に読んでくれるか尋ねる。

 互いの本を交換して読むということなのかと、マリアンヌは確認した。

 ハワードはそうだと頷く。

 いいですよとマリアンヌは了承した。

 お勧めの本を持ってくるから、ハワードにもお勧めの本を持ってきてくれと頼む。

 ハワードは約束した。

 どんな本が読みたいのか聞くと、マリアンヌは答える。

 話は思いの外、弾んだ。

 ハワードは楽しい時間を過ごす。

 初めて会った時からずっと、どうすればマリアンヌと話が出来るのかハワードにはわからなかった。

 それはこんなにも簡単なことだったのだと知る。

 女の子をからかうなんてくだらないことをせずに、最初から話しかければ良かったと後悔した。

 2年も時間を無駄にしてしまう。

 だがこれからいくらでも時間はあるだろう。

 その時のハワードはそう思っていた。






 だがその日を境に、マリアンヌがパーティに顔を出すことはなくなった。

 マリアンヌだけではない。

 その母親もパーティに来ない。

 マリアンヌの母は娘とは違い、とても華やかな美人だ。

 どこにいても目立つ。

 パーティにいなければ、誰もが気づいた。

 周りは心配したが、理由はすぐに明らかになる。

 懐妊したそうだ。

 大事を取って、出産まですべてのパーティに参加するのを止めたらしい。

 マリアンヌはそんな母親に付き添っているそうだ。

 残念だが、めでたい話なのでがっかりするわけにもいかない。

 無事に子供が生まれたら、またマリアンヌもパーティに顔を出すようになるだろう。

 ハワードはそれを待つことにした。






 だが、事態はハワードの予想もしない方向に進んだ。

 マリアンヌの家に生まれたのは男の子で、マリアンヌは跡継ぎではなくなる。

 どこかに嫁に行くことになった。

 正直、男爵家の令嬢では貰い手は少ないだろう。

 だがそれはハワードにとっては朗報だ。

 自分がマリアンヌを嫁にすることが出来る。

 ハワードは内心、喜んだ。

 しかしことはハワードの思惑通りにはいかない。

 マリアンヌの母が死んだ。

 生まれた男の子はマリアンヌが父と一緒に育てることにしたらしい。

 嫁ぐことなく、実家に残ることを決めたらしいと噂が流れた。

 その噂を確かめようにも、マリアンヌはパーティに来ない。

 貴族が開くパーティの目的は、人脈作りだ。

 仕事のことはもちろん、結婚相手もそこで見つける。

 結婚しないことを決めたマリアンヌにとって、パーティは出席する意味がないものになったのだろう。

 その後は一度も顔を出すことはなかった。






 それでもハワードは諦めきれなかった。

 適齢期が近づき、自分の結婚相手を探し始めた両親にマリアンヌとの結婚を嘆願する。

 相手は男爵令嬢なので、両親は良い顔をしなかった。

 もっといい相手がいると説得される。

 だが、ハワードは譲らなかった。

 両親を説き伏せ、ランスロー男爵にマリアンヌとの結婚を申し込む。

 しかし男爵からこの話は無かったことにして欲しいと言われた。

 娘はどこにも嫁ぐ気がないので、諦めて欲しいと説明される。

 弟を育てるので手一杯で、嫁に行くのは無理らしい。

 ハワードの両親は怒った。

 断られるなんて思いもしなかったのだろう。

 だが男爵の説明を聞いて、ハワードは妙に納得する。

 マリアンヌらしい気がした。

 諦めて、ハワードは両親が決めた令嬢と結婚する。

 跡継ぎとして、結婚しない訳にはいかなかった。

 弟が成人してマリアンヌが嫁に行けるようになるまで待つとは言えない。


 結婚相手は、あの泣き虫の少女だった。

 マリアンヌにいじめるなと言われてからは、からかったりしていない。

 マリアンヌがいないのに、彼女をからかう理由がなかった。

 ピーピー泣かれるのはうるさいので、他の子にも手を出すのを止めさせる。

 それを少女は恩に感じていたようだ。

 好意を寄せられる。

 だがそれはハワードには重かった。

 もっと貴族的な、事務的な関係の夫婦であったなら上手くやれただろう。

 だが彼女は愛を与えたがり、同じ分欲した。

 それはハワードにとって重苦しいものでしかない。

 二人の関係は直ぐに破綻した。

 義務として関係は持ったが、跡継ぎの男の子が生まれてからは妻のところにハワードは寄りつかなくなった。

 夫に愛されないことに不満を持った彼女はそれを別の相手で解消する。

 関係を持っていない妻が妊娠すれば、不貞は明らかだ。

 相手は直ぐに判明し、彼女は速やかに実家に戻される。

 互いの体面を気遣って、病気のために別れたことになった。

 彼女は静養という名目で遠くへ行かされる。

 そこで子供を産むのだろう。

 ハワードは自分にも非があると思っていたので、妻も不貞の相手も罰しなかった。

 むしろ、二人が一緒になれるように揃って実家に戻す。

 だが相手の男は直ぐに逃げたようだ。

 責任を取りたくはなかったらしい。






 こうして、ハワードは離婚した。

 息子が一人残されたが、再婚するつもりはない。

 一度目の結婚で、懲りていた。

 別れるのはそれくらい身も心も疲弊する。

 もう二度と、こんな大変な思いはしたくないと思った。


 だがそんな時、パーティで思いがけない顔を見かける。

 とてもきれいな少年がいた。

 その顔は彼が誰の息子なのかわかるほど、母親に似ている。

 直ぐにマリアンヌの弟だとわかった。

 あの時生まれた子供はいつの間にかこんなに大きくなっていたらしい。

 そろそろ、マリアンヌの手を離れるのではないかと思われた。

 ハワードはシエルに近づく。

 いろいろ話を聞いた。

 マリアンヌのことを聞き出そうとする。

 その名前を口にすると、シエルは露骨に警戒した。

 あまり教えてくれない。

 だが嫁ぐことなく、今でも実家で暮らしていることはわかった。

 ハワードは改めて、ランスロー男爵にマリアンヌとの結婚を打診する。

 だがやはりいい返事は返ってこなかった。






 それでも、ハワードは諦めていなかった。

 すでにもう何年も待っている。

 今さら、それが数年延びても変わりはない。

 いつか、マリアンヌと結婚できればいいと願った。

 そのマリアンヌがお妃様レースで優勝し、王子の妃になるとは夢にも思わなかった。




もう一つ、続きました。><

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