お誘い
こちらがいろいろ考えるようにあちらもいろいろ考えているのです。
相変わらず、王宮には噂が流れるのが早い。
昨日、わたしが第二王妃をお茶会に招いたことはすでに知れ渡っていた。
恒例の朝の挨拶のために国王の執務室に向かっていると、そこかしこで噂される。
わたしはその内容に耳をすませた。
やはり第二王妃側についたことになっている。
(違いますよ。第二王妃に味方するつもりなんてありませんよ)
声を大にして、叫びたかった。
それが出来ないことにとてもストレスを感じる。
いつの間にか、眉間に皴が寄っていたようだ。
「すごい顔をしていますよ」
ラインハルトに囁かれて、自分の顔に触れる。
頬を揉み、眉間の皴を伸ばした。
一つ大きく息を吐く。
気持ちを切り替えた。
「第一王妃様に至急、お茶会の招待状を送った方が良さそうだと思うのですが、どうでしょう?」
ラインハルトの意見を聞く。
「この様子だと、そうですね」
ラインハルトは頷いた。
時間が経てば経つほど、厄介なことになるだろう。
こういうのはスピード勝負だ。
誤解が確定に変わる前に、噂を否定しなければならない。
だが、だからといって第一王妃に味方するつもりもわたしにはなかった。
そのあたりが難しい。
どう言うのが適切なのか、後でじっくり検討しようと思った。
「では戻ったら、招待状を出しますね」
そんなことを話している間に、執務室に着く。
中に通され、国王に挨拶した。
当然、昨日のお茶会の話題が出る。
「マリアンヌは第二王妃の味方につくことにしたのかな?」
にこやかに問われた。
(こわっ。たぶん、怒っている)
わたしはぶるっと身体を震わせる。
笑っているのに、国王の目は冷たかった。
「いいえ」
わたしはきっぱり否定する。
「味方をするつもりはありません」
言い切った。
真っ直ぐ、国王を見返す。
「では、第一王妃の味方につくと?」
国王はさらに問うた。
「それも違います」
わたしは首を横に振る。
「わたしはどちらにも味方しません。関わりになる気が、ありません」
はっきりと宣言した。
「マリアンヌ」
ラインハルトは困った顔をする。
そこまで言わなくていいのだと言いたそうだ。
貴族は曖昧な物言いで言質を取らせない。
はっきり立場を示すと後から困る場合があるからだ。
わかっているが、わたしははっきりさせたい。
相手に都合よく解釈されても困るのだ。
どちらにも味方するつもりがないのは何があっても変わらない。
「そもそも、わたしには第一王妃様と第二王妃様が何を争っているのか、わかりません」
眉をひそめた。
「王位継承権は王妃様たちの争いに何の影響もされませんし、王宮には覇権を争うような後宮もありません。一体、お妃様たちは何のために競っているのですか? 何を得ようとしているのでしょう?」
国王に尋ねる。
ラインハルトは苦笑していた。
だが、わたしを止めることはしない。
案外、ラインハルトも聞きたいのかもしれない。
「それは私も知りたいね」
国王はさらっと流した。
(今日もポンポコさが全開だわ)
わたしは心の中で毒づく。
「ぜひ、聞いてみてくれ」
そう言って、従者を見た。
アントンの父親は小さく頷き、わたしの所にやってくる。
「こちらを」
封筒を差し出した。
「……」
わたしは直ぐにはそれを受け取らない。
不審な目を向けた。
「これはなんでしょう?」
国王に尋ねる。
「第一王妃様からのお茶会の招待状です」
国王ではなく、手紙を持っている従者の方から返事は返ってきた。
「?!」
わたしは一瞬、驚く。
だがよく考えれば当然だ。
噂を耳にして、向こうが何も手を打たないはずがない。
こちらが動くより先に、第一王妃が動くことは十分ありえる話だ。
「マリアンヌが第二王妃をお茶に招いたことは昨日の時点で広まっていたからね。第一王妃が気にしているのではないかと様子を見に行ったのだよ」
フォローしてやったと言わんばかりの恩着せがましさで、状況を説明される。
(逆ですよね? 貴方の奥さんたちのいざこざにわたしが巻き込まれているんですよね?)
そんな心のツッコミは口に出せるわけがない。
「それは……。ありがとうございます」
大変不本意だが、礼を言った。
「妃が落ち込んでいたので、お茶に招くことを勧めたのだよ。私も同席するから、ラインハルトも来なさい」
国王はラインハルトを見る。
「はい」
ラインハルトは頷いた。
それ以外の返事などあるわけがない。
「そういうことで本日のお茶の時間を楽しみにしているよ」
招待状の返事は聞くつもりもないらしい。
参加はすでに決定事項になっていた。
どのみち、第一王妃には会うつもりだったので問題はない。
だが何故、国王まで同席するのかがわからなかった。
何かあるのではないかと、わたしは勘ぐる。
お茶会までに、いろいろ考えておこうと決めた。
互いの思惑が交差するので、思い通りにはことが運びません。




