面倒な王族2
たまには愚痴もいいたいのです。
面倒くさいと言ったわたしに、ラインハルトは声を上げて笑った。
わたしらしいと思ったのだろう。
だが、笑われたわたしはムッとする。
誰のせいでこんな面倒くさい状況にいるのだと、心の中で毒づいた。
ラインハルトと結婚しなければ、関わることのなかった人たちだ。
「他人事みたいな顔をしていますが、誰のためにこの状況にいるのかわかっています?」
わたしはラインハルトの頬を摘む。
軽く抓った。
「いたた……」
ラインハルトは痛がる。
「すいません。あまりにマリアンヌらしかったので」
謝った。
「そんなに面倒ですか?」
真顔で問う。
抓られた頬を手で擦った。
けっこう痛かったらしい。
「面倒でしょう? 第一王妃と第二王妃の覇権争いに巻き込まれるんですよ。それを面倒以外になんて言えばいいんですか?」
わたしは逆に聞く。
「……」
ラインハルトは言葉に詰まった。
「わたし、どちらの味方もしたくないのです。適度に距離をおくのが一番いいと思いません?」
わたしはさらに問う。
「そうですね」
ラインハルトは頷いた。
関わりたくないという顔をする。
「でも、そういうわけにはいかなくなりましたね」
わたしは苦く笑った。
今後は否応なく、絡まれる予感がする。
近日中に第一王妃とも会う時間を作らなければならない気がした。
誤解される前に、手を打たなければならない。
がっつり巻き込まれていた。
「いっそ、お茶会に招く時は2人一緒に招いたらいいのかもしれませんね」
わたしは呟く。
「え?」
ラインハルトは驚いた。
「第一王妃と第二王妃をですか?」
確認する。
「そうです」
わたしは頷いた。
「どちらかに擦り寄っていると思われるのも、どちらにも調子よく擦り寄っていると思われるのも嫌です。どちらか一方の味方をしていると勘ぐられるのも困ります。それならいっそ、2人一緒に招待すればいいのではないですか? 少なくとも、王妃様たちは邪推しなくてすみますよね?」
ラインハルトに意見を求める。
「それは確かにそうですが……」
ラインハルトは困った顔をした。
「目の前でバチバチやり合われるのも、それはそれで気まずいのではないですか?」
心配そうにわたしを見ね。
オロオロと仲裁に入るわたしの姿を想像しているようだ。
だがわたしに仲裁するつもりはない。
やりたいだけやり合えばいいのだ。
2人を放置するつもりでいる。
巻き込まれるつもりはなかった。
「2人でやり合えば、こちらに飛び火しないですむのではないかと思っているのですが、甘いですか?」
ラインハルトに問う。
「どうでしょう?」
ラインハルトは首を傾げた。
「今まで、2人を一緒にお茶会に誘うようなつわもの、いませんでした」
苦く笑う。
「初めての試みですか? それはいいですね」
わたしはちょっと乗り気になった。
なんとかなるような気がしてくる。
「招待状に、2人一緒に招いていることを書き添えたら参加してくださるのかしら?」
ふふっと笑った。
おそらく、2人とも断らないだろう。
どんな展開になるのか想像もつかないが、わたしに害はない気がした。
相手を牽制することで精一杯な状況になるなら、こちらとしてはありがたい。
「マリアンヌは変なところで肝が座っていますね」
ラインハルトは呆れるのを通り越して、関心した。
「そうですか?」
わたしは笑う。
「でも実は、王妃様たちのことよりフェンディ様のお妃様たちの方がわたしには気が重いです」
ため息がこぼれた。
2人の妃とは出来れば公の場でも顔を合わせたくない。
「気まずいようなこと、何かありましたか?」
ラインハルトはわからないという顔をした。
わたしと2人のお妃様にはまったく関わりがない。
気まずくなるようなことは何もないとラインハルトは思っているようだ。
「ミカエル様の件です」
わたしは答える。
フェンディとミカエルの関係をわたしは知っていた。
それがとても気まずい。
妃たちに申し訳ない気持ちになった。
黙っていることが、罪のように感じられる。
「後ろめたいので、フェンディ様のお妃様たちとは公の場でも顔を合わせたくないです」
わたしは沈んだ顔をした。
「兄上たちのことは本人たちの問題です。マリアンヌが責任を感じる必要はないですよ」
ラインハルトは慰めてくれる。
「それはわかっています。でも、フェンディ様がミカエル様と暮らせるよう手を貸す感じになっているのが、なんとも心苦しいのです」
わたしはため息を吐いた。
おそらく、フェンディは東側地域に滞在することなるだろう。
ミカエルと一緒に暮らすのは確実だ。
そのことで、わたしは妃たちに恨まれるかもしれない。
「人間関係って、難しいですね」
ぼやいた。
3人妻が持てるフェンディにとって、ミカエルとの関係は相手が同性であるというだけで、浮気や不倫ではない。
妃たちから責められることではなかった。
ミカエルが女性だったら、話は単純で簡単だったのかもしれない。
だがミカエルは男性だし、この国では同性婚は認められていない。
ミカエルが第三の妃になる可能性は一mmもなかった。
妃でもない相手に、彼女たちは夫を取られる。
それはプライドが許さないかもしれない。
「全員が納得する未来なんて、ありえないことは誰もが知っていますよ」
ラインハルトはわたしが悪いわけではないと言ってくれた。
だが、誰かを恨まないとやっていけない時が人にはある。
恨まれるのはわたしだろうと思った。
「仕方ないのはわかっていますが、他人に恨まれるのは嫌ですね」
わたしはぼやく。
そんなわたしの髪をラインハルトはよしよしと撫でてくれた。
ちょっと後ろめたいのです。




