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円卓会議2

なんとなく相手が見えてきました。





 わたしたちは話しを続けた。

 ルイスは今までのことを掻い摘んで説明してくれる。

 調べた結果、第二王子派閥の手の者が怪しい動きをしていることを掴んだそうだ。

 それを踏まえて、ラインハルトは結婚式のパーティの後、ローキャスターと話しをしたらしい。

 そんなことがあったことを、わたしは初めて知った。

 わたしを先に帰したのは、ローキャスターと話しをするためだったらしい。


(話して、何をするつもりだったのですか?)


 わたしは心の中で突っ込む。

 だが、口には出さなかった。

 胸の中にだけ秘めておく。


 その時、わたしの命を狙っていたのはローキャスターたちではないことがわかったそうだ。

 ローキャスターは細かな意地悪や、脅かそうとしていたことは認める。

 だが、命に関わるようなことは命じていないときっぱり否定した。

 さすがに人を殺める度胸はなかったらしい。


 わたしを狙っているのは第二王子派閥だと思っていたラインハルトとルイスはひどく驚いた。

 そして、危険が去ったわけではないことを知る。

 ルイスは今日も、わたしを狙っていた本当の犯人を突き止めるため、忙しく動いていたようだ。

 しかし、新事実は何も出ない。

 相手の姿は見えてこなかった。

 そんな手詰まりな感じが漂う中、ネズミ事件が起きる。

 メイドの話を聞いて、ルイスもラインハルトも焦った。

 ルイスの制止も聞かずにラインハルトは飛び出す。

 それを聞いて、わたしは苦く笑った。

 暴走しているのはむしろラインハルトの方だろう。


「気になるのは、何故急になりふり構わない手段に出たのかと言うことです」


 ルイスはそう続けた。

 わたしも実はそれが一番気になっている。


 結婚式が終わり、わたしは正式に王族の一人になった。

 ルイスから言わせれば、狙いにくくなったらしい。

 万が一わたしに何かあったら、調査は徹底的に行われるだろう。

 逃げきるのはほぼ不可能だ。

 証拠が多少足りなくても、ごり押しで罪を認めさせることが出来る。

 王族の命を狙うというのは、それくらい重罪だ。

 それがわかっているから、誰も手を出さない。

 狙うなら、結婚式の前だ。

 そのタイムリミットギリギリに、なりふり構わなくなるのなら理解できる。

 追い詰められた心理状態を察することも出来た。

 しかし、結婚式が終わってからなりふり構わなくなるのはおかしい。

 違和感があった。

 ルイスもそれが気になるらしい。


「わたし達が知らない、もしくは気づかない何かがあるってこと?」


 わたしは問うた。


「そうかもしれません」


 ルイスは曖昧に頷く。

 全て想像の域を出ていないので、断定出来なかった。

 なんとも気まずい顔をする。

 それは自分の力不足を痛感しているようにも見えた。


「狙っている相手がわからなければ、相手の気持ちや立場を想像することも出来ないよね」


 シエルは責めるようにルイスとラインハルトを見る。

 わたしを狙う相手を特定出来ない二人に怒っていた。


「……」

「……」


 2人は黙り込む。

 言い訳の言葉もなかった。

 そんな2人の姿に、わたしの胸は痛む。

 悪いことをしたわけでもないのに責められるのは可哀想だ。


「そのことなんだけど……」


 重苦しくなった雰囲気を変えるように、わたしは口を開く。


「わたしはルイスを有能だと思っているわ。そのルイスが勘違いしていたというのがどうしても腑に落ちないの。本当にそれは勘違いなのかしら?」


 ルイスに尋ねた。


「それはローキャスターが嘘を吐いたと言いたいのですか?」


 ルイスは聞き返す。


「いいえ」


 わたしは首を横に振った。

 ラインハルトがローキャスターから話を聞いたのは、挙式後のパーティが終わった後だ。

 国王と面会する前の控え室に乗り込んだらしい。

 可哀想なことをすると、正直、わたしは思った。

 国王に何を言われるかドキドキしているところに乗り込むなんて、人が悪い。

 だが、偽りを口にするような余裕はたぶんローキャスターにはなかっただろう。

 嘘をつくメリットも感じられない。


「ローキャスターは嘘をついていない。第二王子派閥がわたしを狙っているというルイスの調査も間違っていない。――この二つが成立する条件を考えてみたの」


 わたしの言葉に、みんなの顔が真剣になった。


「そんな相反する条件は成立しないでしょう?」


 シエルは苦く笑う。


「そうかしら?」


 わたしは首を傾げた。


「第二王子の派閥の人間が関与していたとしても、命令していたのはローキャスターたちではないということもあるんじゃない?」


 シエルに聞く。


「あっ……」


 ルイスは小さな声を漏らした。

 思い当たったらしい。

 ルイスがわからないわけがなかった。

 わたしにそのことを教えてくれたのは、他ならぬルイスだ。


「……」


 ラインハルトはとてもとても渋い顔をする。

 わたしが何を言いたいのかわかったようだ。

 シエルだけがわからないという顔をしている。


「第二王子派閥には公爵であるローキャスターより上の人間がいるのよ」


 わたしは囁いた。


「公爵より……」


 独り言のように呟いたシエルは次の瞬間、はっとする。


「まさか……」


 眉をしかめた。

 なんとも微妙な空気がその場に流れる。

 誰も、その人物の名前は口にしなかった。

 わたしも口に出すつもりはない。


「ただ、わたしの想像が合っていたとしても。どうして結婚式が終わってからなりふり構わなくなるのかはわからないんです。わからないから、いっそ聞いてみません?」


 わたしの提案にルイスは顔を引きつらせた。


「ご本人にですか?」


 どん引きする。


「いや、まさか」


 わたしは首を横に振った。

 さすがにわたしも何の証拠もないのに、相手方に乗り込む馬鹿はしない。

 まずは本当にその人が犯人なのか、確定するのが先だ。


「ローキャスターを呼んで、話しをしてみるのはどうかしら?」


 わたしの言葉に、ルイスは明らかにほっとする。


(ううーん。信用が全然ない)


 どうも、ルイスやラインハルトにはわたしは無謀な人間に見えるようだ。

 だが事実はむしろ逆だ。

 わたしは小心者なので、自分が勝てる勝負しかする気がない。


「確かに、ローキャスターから話しを聞くのは悪い案ではないですね」


 ラインハルトは頷いた。


「ただし、ローキャスターを呼びつける適切な理由があるならば」


 そう続ける。

 わたし達がローキャスターと面談したら、それはあの人の耳にも入るだろう。

 相手を警戒させるのはわかっていた。


「呼びつけるなら、ドレスの件で、でしょうね」


 わたしは呟く。

 わたしとローキャスターに接点があるとすれば、ドレスの査問委員会だ。


「ドレスですか」


 ふむとルイスは考える顔をする。


「理由としては悪くないですね。大事を取って外出を控えているマリアンヌ様がドレスのデザインを見て欲しいと呼んでいると伝えれば、それほど不自然ではないでしょう」


 わたしとルイスの間では、それが決定事項のようにさくさく話が纏まっていった。


「待ちなさい」


 それをラインハルトが止める。


「マリアンヌがローキャスターと2人で会うというのか?」


 ラインハルトは露骨に不機嫌な顔をした。

 拗ねる。

 わたしは苦く笑った。


「2人ではありません。シエルがいます。あと、メアリも」


 2人を見る。

 メアリはこくりと頷いた。


「それなら、私も一緒に……」


 言いかけたラインハルトの言葉をわたしとルイスの声が遮る。


「それは駄目です」

「そんな時間はありません」


 被った声に、わたしはルイスを見た。

 ルイスはわたしを見る。


「ラインハルト様はお忙しいみたいなので、無理ですね」


 わたしは笑った。


「そもそも女性がドレスの話をする時に、殿方の同席はどうかと思います」


 わたしはダメダメと首を横に振る。


「シエルはいいのか?」


 ラインハルトはむっかりとシエルを睨んだ。

 わかりやすく八つ当たりする。

 シエルは涼しい顔でそっぽを向いた。

 ラインハルトと目を合わせない。


「シエルは弟ですもの。姉のドレスの話に立ち会っても問題ないでしょう」


 言い切ったが、それが合っているのかどうかは実はわたしにもわからなかった。

 我が家ではそうだったが、それはランスローが片田舎でいろいろ緩かっただけかもしれない。

 だが、女兄弟がいないラインハルトやルイスは納得したようだ。


「ではそういうことで、話の続きは明日、ローキャスターと話しをしてからにしましょう」


 わたしは話を締める。

 この件は明日に持ち越しとなった。





裏どりは大切です。

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