来客
細切れですいません。^^;
ぐっすり寝たわたしが次に目を覚ましたのは昼近かった。
朝よりは身体が軽い。
ゆっくりと身を起こした。
だるさはまだ残っているが、動けないほどではない。
ベルを鳴らすと、メアリが飛んで来た。
心配そうにわたしを見る。
「大丈夫ですか?」
身を起こしているわたしに尋ねた。
「大丈夫。朝よりずっと身体が軽いわ」
わたしは答える。
にこっと笑った。
「着替えるから、手伝って」
その言葉にメアリは微妙な顔をする。
「私でよろしいのですか?」
確認された。
一瞬、何故そんなことを聞かれるのかわからなくて考えてしまう。
気まずい顔をされて、思い出した。
見た目があまりに美少女なので、メアリの本当の性別を忘れてしまいそうになる。
「構わないわ。自分ひとりでは着替えられそうにないから、手伝って」
わたしの言葉にメアリは頷いた。
わたしはベッドを降りて、ゆっくりと立ち上がる。
少しくらくらする気もするが、それは空腹が理由かもしれない。
朝食を食べていないのでお腹が空いていた。
わたしはベッドの側に立つ。
しんどくなったら直ぐに座れるように、あえてベッドから離れなかった。
寝間着を脱いで、マタニティドレスに着替える。
下着をつけているので、その間、肌が見えるようなことにはならなかった。
この時代の下着はわたしの感覚ではほぼ部屋着だ。
ワンピースのようなものの下にスパッツを履くような感じになっている。
どちらも締め付けはほとんどなく、とても楽だ。
正直、夜はこの下着姿で寝たいと思っている。
(ブラとパンティ姿なら見られたらちょっと恥ずかしいって思うけど、この下着姿は見られても恥ずかしさはないんだよね)
前世の記憶を持つわたし的にはこのくらいはどうってことない。
むしろ、もっと露出が多いキャミソールにホットパンツという格好で普通に外を歩いていた。
(こういう感覚のズレって、この世界で28年も生きていてもなかなか変わらないんだよね)
三つ子の魂百までもって諺をしみじみと感じる。
こちらを見ないように着替えさせてくれるメアリを見ながら、わたしはそんなことを考えていた。
食事のため食堂に行こうとしたら、アントンに止められた。
「お食事はお持ちしますので、こちらでお待ちください」
そう言って、夫婦の部屋に誘導される。
どうやら、階段を上り下りさせたくないらしい。
(過保護すぎない?)
わたしは心の中で突っ込んだ。
だが、気持ちはわからないでもない。
階段の途中で具合が悪くなって、転がり落ちでもしたら大変だ。
わたしが執事でも止めたかもしれない。
駄々を捏ねる必要もないので、わたしは素直に夫婦の部屋で食事が運ばれてくるのを待つことにした。
メアリは相変わらず、わたしの側を離れない。
ずっと傍らにいた。
ソファに座って寛いでいると、メイドが食事を運んで来てくれる。
おにぎりだった。
ウィンナーと卵焼きという、わたし的にはお弁当の定番おかずがついている。
(ヤバイ。テンションが上がる)
わたしは浮かれた。
クロウはすっかりご飯を炊くのが上手になった。
もともと、研究熱心な性格らしい。
わたしが教えたレシピを自分なりに改良していた。
そういう向上心があるタイプは嫌いではないので、わたしはどんどん推奨している。
水車小屋のおかげで、玄米も簡単に精米出来るようになっていた。
わたしが喜ぶので、家のメニューはメインがご飯の時が多い気がする。
食欲がなくても、ごはんなら食べるからだろう。
「いただきます」
わたしは手を合わせて食べ始めた。
悪阻でご飯の匂いが駄目になる人がいると聞いた事があるが、自分がそういうタイプでなくて良かったと心から思う。
握ったばかりのおにぎりは温かいが、平気だ。
どうやら、苦手なのは脂っこい匂いのようだ。
こういう和食(?)系はわりと大丈夫な気がする。
(後は海苔があればな~)
塩むすびを食べながら、わたしは心の中でぼやいた。
欲を言えば、海苔を巻いたおにぎりが食べたい。
(海辺の地域に行けば、それっぽい何かがあるかな?)
ふと、そう思った。
ランスローは内陸で、海に面していなかった。
そのため、海産物はほとんど手に入らない。
海苔なんてあったとしても無理だと最初から諦めていた。
「メアリ。海ってどこにあるんだったかしら?」
ぽつりと呟いた言葉に、露骨にメアリが警戒する。
「何をするつもりですか?」
やらかすこと前提で、問われた。
「何もしないわよ」
わたしは口を尖らする。
「海産物はどこで手に入るのかなと思っただけ」
説明した。
「それでしたら、王都でも少しは手に入りますよ」
メアリは教えてくれる。
「そうなの? 今度、お店に行ってみたいわ」
嬉々として言ったが、そんな許可が下りるはずがなかった。
「無理だと思います」
メアリに冷たく言われる。
当たり前だろうという顔をされた。
(ですよね~)
わたしは心の中でぼやく。
自分でも無理だと思った。
半端な時間にブランチを食べ終えたわたしはそのまままったりとソファで寛いでいた。
お腹も満たされ、気分は悪くない。
のんびりしているが、退屈でもあった。
(こういう時、TVがあったらいいなと思うわたしは現代人だな)
この世界の生活はけっこう忙しい。
わたしの前世と違い、何をするにも時間がかかるからだ。
ほぼ全ての作業が人力なので、生産効率はよくない。
だが便利で効率ばかりが重視されていた時代より、この世界の方が人は生き生きしている気がする。
(便利というのは必ずしも利点ではないのよね)
そう感じることが多々あった。
普段はそんな感じで忙しくしているので暇を感じることはない。
だが今は何もするなと言われているので、時間を持て余していた。
「こういう暇な時間って、普通はなにして過ごすものなの?」
メアリに問う。
普通の貴族の生活を知っているようでわたしは知らない。
田舎で、何にも縛られることなく自由に過ごしていた。
「そうですね。本を読んだり、編み物をしたり、刺繍をしたりでしょうか」
メアリは答える。
「編み物や刺繍……」
わたしは眉をしかめた。
出来ないとは言わないが、得意ではない。
やりたいかやりたくないかと言われたら、やりたくない方に分類された。
しかし、今は本を読む気分でもない。
読書は好きだが、体調が良くない時に文字を見ると目が回る気がする。
「退屈……」
ぼやいていると、アントンがやって来た。
「マリアンヌ様。お客様です」
来客を告げる。
退屈していたわたしはその言葉に目を輝かせた。
やっと来ました。




