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マリアンヌ頑張っています。





 結婚式は恙無く終わった。

 妨害できるタイミングなどないのだから、当たり前かもしれない。

 式そのものの時間も短かった。

 わたしはとりあえず、役目を一つ終えてほっとする。

 この後、わたしたちは一旦、退室することになっていた。

 その間に、貴族の挨拶を受けるための準備が整えられる。


 わたしはベールをラインハルトの手で下ろしてもらった。

 もちろんそんな手順は本来、ない。

 大勢の人々の間を通って退室するわたしの匂い対策だ。

 ベールを被ると、匂いがあまり気にならない。

 わたしはラインハルトと腕を組みながら、出口に向かう。

 匂いを感じないよう、こっそり口で呼吸した。

 大広間を出て、隣の控え室に入る。

 式を終えた後なので、ラインハルトとも一緒だ。

 部屋の中ではメアリが待っていた。

 わたしのためにさっと椅子を用意してくれる。

 わたしはそこに座った。

 ほっと息をつく。


「大丈夫ですか?」


 ラインハルトは心配そうに聞いた。

 ベールで顔色が見えないのが不安らしい。

 わたしはベールを上げた。

 顔を見せる。


「大丈夫です」


 答えた。

 笑おうとしたが、あまり上手くいかない。

 疲れが顔に出ていた。


「飲み物を」


 ラインハルトはメアリに命じる。

 メアリはわざと冷ました白湯を持って来た。

 紅茶の香りはわりと平気だが、飲み物の香りも今のわたしにはきついことがある。

 何の匂いが駄目なのかは、その日の体調によってころころ変わった。

 昨日までは平気だったものが、突然、駄目になることもある。

 逆に昨日までは我慢出来ないと思った匂いが、今日は平気ということもあった。

 ホルモンのバランスは乱れまくっているらしい。

 そんなわたしが最近愛飲しているのが白湯だ。

 無味無臭なので、具合が悪くなることもない。

 メアリは飲みやすいように冷ましてくれた。

 わたしは喉を潤す。

 水分を補給すると、空腹を覚えた。


「何か食べたいわ」


 メアリに頼む。

 メアリはさっとカットフルーツが盛られた皿を差し出した。

 準備していたらしい。

 わたしがお腹を空かせることを見越していたようだ。

 最近、わたしとメアリはいい感じで意思の疎通が出来ている。

 何気にメアリは有能だ。

 気が利くし、仕事も早い。


(これでメアリが男の娘でなければ、なんの問題もないのだけれど)


 わたしは心の中で苦笑した。

 わたしはあまり気にしていないし、不便を感じてもいない。

 だが、男だとばれたらいろいろ不味いだろう。

 メアリは有能なので、手放したくなかった。


「ベール、取り外します」


 メアリがわたしに告げる。

 次に呼ばれるまでに、準備を終えなければならなかった。

 だが、ここにはメアリしかいない。

 香水の匂いを嫌がったわたしが、メアリ以外の侍女の入室を認めなかったためだ。

 メアリはわたしの悪阻が始まってから、香水の類は一切、つけていない。

 匂い対策をしていた。

 メアリは一人で、わたしの準備を手際よく終えていく。

 そんなわたしとメアリをラインハルトは手持ち無沙汰な様子で眺めていた。


「こういう時、男というのは何の役にも立たないんですね」


 がっかりしたように肩を落とす。

 自分が何も出来ないのが、歯がゆいようだ。

 だが、それは違う。

 人には適材適所があった。

 ラインハルトにはラインハルトにしか出来ないことがある。


(役に立たないのは男の人全般で、ラインハルト様だけじゃないから気にしなくて大丈夫です)


 心の中でそう思ったことは内緒だ。


「でも、大広間に戻ったら、わたしを守ってくださることができるのはラインハルト様だけです。頼りにしていますわ、旦那様」


 もぐもぐと果物を口にしながら、わたしは囁いた。


「マリアンヌは意外と人を使うのが上手いですよね」


 ラインハルトは苦笑する。


「それ、誉めていないですよね?」


 わたしは確認した。


「いえ、誉めています」


 ラインハルトは首を横に振る。


「そういうところも好きになったんですよ」


 今さらの告白に、私は照れるより考え込んでしまった。


「人を上手に使った覚えなんてないのですが。わたし、何かしました?」


 尋ねると、笑われる。


「無自覚なんですね」


 そんなことを言われた。


(人聞きの悪い)


 わたしは心の中で反論する。


「無自覚も何も。わたし、人を上手く使うような真似とかした覚え、ありませんよ」


 わたしはむきになって否定した。


「何故、むきになるんですか?」


 ラインハルトに問われる。


「人を上手く使うなんて、人聞きが悪いじゃないですか。他人の利益を横取りする悪い人みたいに聞こえます。どちらかと言えば、わたしはいい人であろうと努力しているのです」


 力説した。

 そんなことを話していると、扉がノックされる。

 ラインハルトが返事をすると、扉が開いた。

 ルイスが顔を出す。

 万が一を考えて、ルイス自身がわたし達を呼びに来ることになっていた。

 逆に、ルイスが来ない場合は誰が呼びに来ても部屋から出ない約束になっている。


「準備が出来ました。お戻りください」


 促された。

 わたしはゆっくりと立ち上がる。


「メアリ」


 呼ぶと、さっと扇子を差し出された。

 わたしは頷いて、受け取る。

 匂い対策の一つとして、わたしは扇子の使用をルイスに求めた。

 だが、扇子が何をさすのかさえルイスは知らない。

 中世ヨーロッパにも扇子はあったと思うが、言われてみればこの世界では見かけたことがなかった。

 ちなみに、団扇もない。

 扇子のついでに団扇も作ってもらい、大広間の換気に役立ててくれるよう、頼んだ。

 匂い対策として、わたしは打てるだけ手を打つ。

 それでもどういう状況かは行ってみないとわからなかった。

 わたしは換気が上手くいっていることを祈る。

 ラインハルトと腕を組んで、大広間に戻った。



なかなか書きたいところにたどり着けない

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