試食会2.5
短いので。
わたしは自分が何をやらかしたのか、気になった。
だが、心当たりはまったくない。
見た感じ、ごくごく普通のレシピだ。
最初に材料の種類と分量が書いてある。
その後は行程が箇条書きで記されてあった。
出来るだけわかりやすくを心がけている。
自分の覚え書きではなく、人の見せるためのレシピだ。
丁寧に作ったつもりでいる。
(やらかしているようには見えない)
首を傾げた。
だがそれを見た料理人は皆、一様に困惑している。
理由は突き止めなければならないだろう。
みんなが帰ったら、クロウに聞くしかないと思った。
料理人たちは、夕食の準備が始まる前に慌しく帰って行った。
ラインハルトも執務に戻る。
見送ったわたしをぎゅっと抱きしめた。
頬に触れるだけのキスをして離れる。
その姿が見えなくなるまで、わたしは見送った。
それから、厨房にいるクロウのところへ行く。
クロウはわたしを見て驚いた。
「何かありましたか?」
問われる。
「何もないの。ただ、わたしがレシピで何をやらかしたのか知りたくて。わたし、何を間違えたのかしら?」
クロウに聞いた。
「ああ。そのことですか」
クロウは微笑む。
「何も間違っていませんよ」
その言葉にわたしはほっとした。
(セーフ)
心の中で呟く。
だがクロウの言葉には続きがあった。
「ただ、こういうレシピの書き方を見たのは、私は初めてです」
わたしの顔は引きつる。
(アウト~!!)
心の中で審判が高らかな声を上げた。
わたしはへにょんとうな垂れる。
細心の注意を払ったつもりなのに、意味がなかった。
またこの世界の常識にはないことをしてしまったらしい。
「どの辺りが見たことがない書式なの?」
恐る恐る尋ねた。
「うーん」
クロウは考え込む。
「全部です」
簡単に言った。
わたしはちょっとイラっとする。
「……」
クロウを恨めしげに見た。
「気づいていたなら、言ってください」
八つ当たりする。
クロウは苦く笑った。
「忘れていました」
困った顔をする。
どうやら、メニューを決めるために試行錯誤を繰り返している間に、わたしのレシピの書き方に慣れてしまったようだ。
今ではそれが普通なので、違和感を覚えなかったらしい。
そう説明されると、わたしも文句を言えなくなった。
とりあえず、普通のレシピとどこら辺がどう違うか確認しておく。
すると、そもそもレシピというものを作らないと言われた。
どうやら、料理は見て覚えるのが普通らしい。
作り方を書き残したりはしないようだ。
あと、細かく分量が書いてあるのも珍しいらしい。
この世界の料理は基本的にアバウトだ。
調味料の分量を計ったことなど、今までないと言われる。
だがきっちり分量を量って作れば、誰が作っても同じ味になることをクロウは知った。
そのことに感動したらしい。
わたしのレシピは凄いと褒められた。
だが、自分の手柄はそこに何もないことがわかっているから、なんともこそばゆい気分になる。
(もう開き直って、レシピとはこういうものだと押し通せば良くない?)
レシピが一般的ではない今がチャンスだと思えてきた。
王宮の料理人を巻き込めば、これがメジャーになる気がする。
(とりあえず、料理人とは仲良くしておこう)
そう決めた。
出来るなら、レシピの書き方は彼らが考案したと押しつけたい。
わたしはこれ以上、悪目立ちするのは避けたかった。
レシピの書き方なんてこれしかないじゃんって思ったら、そもそもレシピなんてつくらないようです。




