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護衛

何気に危険度、増しています





 ドレスの件がとりあえずどうにかなると、わたしは挙式の後に出される料理の相談に取り掛かることにした。

 メニューは決まったが、それについての話し合いは行われていない。

 厨房で実際に調理してくれる料理人たちと相談する必要があった。

 ちなみに調理は王宮内で働く全ての料理人による共同作業らしい。

 つまり、王の食事を作っている王宮の料理人たちと離宮で王妃やわたしたちや他の王子とその家族の料理を作っている料理人たちが全員集まる。

 10名くらいになるそうだ。

 話を聞くだけで、ややこしくなりそうな予感がする。


(自分は誰より偉いとか、そういうどうでもいいことに拘りを持っていそうだな)


 少しブルーな気持ちになった。

 基本的に、王宮で働く使用人はプライドが高い。

 王族に選ばれたという誇りを持っていた。

 そのプライドが傷つけられると、平気で仕事を放棄するので扱い難い。

 だだでさえ、料理人には職人気質で頑固なイメージがあった。

 その人たちに納得し、協力してもらうのは大変な気がする。


(それをわかった上での無茶振りだとしたら、ポンポコは本当に意地が悪い)


 心の中で文句を言った。

 だがだんだん、何故国王がわたしに無茶振りばかりするのかわかってきたような気がする。

 どうやらわたしは試されているらしい。

 どこまで出来るか、事態をどう展開するのか、様子を見られている感じがした。


(その他大勢のわたしに何を期待しているのだか)


 そう思わないでもないが、出来ないと思われるのはそれはそれで癪だ。

 変なところで負けず嫌いな性格が顔を出す。

 無駄に頑張ってしまった。






 わたしは仮縫いを終えた後、ラインハルトの執務室に向かう。

 ランスに案内され、メアリも一緒だ。

 妊娠が判明してから、メアリはどこに行く時もついてくるようになった。

 今まではメアリが離宮を出て同行することはほとんどなかった。

 王宮の中の移動はラインハルトの護衛士であるランスに任せていた。

 仕事の棲み分けが出来ている。 

 わたしはまだ正式には王族ではないので、王宮の中を自由に一人で歩きまわることは許されていなかった。

 どこに行くのも護衛の案内が必要になる。

 今もそれは変わらないのだが、そこにメアリが加わっていた。

 どうやら、妊娠によってわたしの危険度は増したらしい。

 メアリが警戒しているのを肌で感じた。


(妊娠したら安全になるようなことを言われた覚えがあるけど、逆じゃん)


 心の中でルイスに毒づく。


 ランスはトントントンと扉をノックした。

 中から返事が聞こえて、ランスは扉を開ける。

 ラインハルトはわたしを見て、笑みを浮かべた。


「マリアンヌ。どうしました?」


 ペンを止め、立ち上がろうとする。


「仕事をお続けください」


 わたしはそれを制した。

 用事があるのはラインハルトにではない。

 ルイスに声をかけた。

 それを見て、ラインハルトが拗ねた顔をする。

 視界の端にそれが入ったが、わたしは無視した。

 用事を済ませたい。


「挙式の後に出す料理の件で、料理人たちと相談したいのです。時間と場所を作ってくださいませ」


 頼んだ。

 ルイスに場を設けてもらう。

 面倒くさがって、わたしが直接厨房を訪れるなんて暴挙に出たら、大問題だ。

 離宮の厨房に出入りすることはなんとなく許されているが、本来、主人であるわたしが厨房に出入りすることは好ましく思われない。

 それが王宮の厨房なら、なおさらだろう。

 それを理解し、自分に頼んだことにルイスは安堵の表情を浮かべた。

 わたしが問題を起こさなくてほっとしたらしい。

 相変わらず信用はないようだ。

 わたしは苦く笑う。

 同時に、まだ礼を言っていないことがあるのを思い出した。


「そういえば、お産婆さんの件をラインハルト様に進言したのはルイスだそうですね。ありがうございます」


 礼を言う。

 ルイスとは顔を合わせる機会があるようで、ない。

 離宮に夕食を食べに来たのも、フェンディが食事に来たあの時だけだ。

 ラインハルトが妬くので、関わるのを避けている感じがある。

 わたしも用事がなければ、声をかけることはなかった。


 だがわたしには雑事を取り仕切ってくれるルイスのような側近がいない。

 何かあったら、ルイスに頼るしかなかった。

 側近を置いた方がいいのではとラインハルトには言われているが、今のところ、側近が必要になるほど忙しくなる予定はない。

 それに、側に置くなら使える側近が良かった。

 誰でもいいというわけにはいかない。

 気を遣わなければいけないような相手もご免だ。

 そう考えると、必要な時だけルイスを使わせてもらえるのが、都合がいい。

 今のわたしの用事なんて挙式に関わることだけなのだから、遠慮なくルイスに働いてもらうことにした。


「お役に立ったようで、何よりです。ご懐妊、おめでとうございます」


 ルイスに祝われる。


「ありがとうございます。でも、妊娠したらわたしの身が安全になるようなことを言われた気がするのですが、そんな感じはしません」


 しれっと文句を言った。


「それは公表前なのですから、当然でしょう。マリアンヌ様の身が安全になるのは、挙式を終え、正式に懐妊を発表されてからです。逆に、なんらかの思惑でマリアンヌ様を害そうと思っている輩は、挙式前に手を打つしかありません、これから挙式までの間が、尤も狙われる可能性が高くなるでしょう。十分、お気をつけください」


 爆弾を投げ返される。

 その状況をなんとなく把握していたわたしと違って、ランスは驚いていた。


「えっ?」


 顔が青ざめる。

 自分の仕事の大変さに、今、気づいたようだ。


(大丈夫かな)


 わたしはちょっと不安になる。

 ランスも別に仕事が出来ない人ではない。

 勘が良く、護衛に向いていた。

 だがちょっと短絡的なところがある。

 深く物事を考える性質ではないようだ。

 王宮に向いた性格はしていない。

 だがランスのそういうところをラインハルトは気に入っているようだ。


 ルイスは自分の仕事の重大さに気づいていなかったランスにやれやれという顔をした。

 だが、咎めることはない。


「2~3日中に時間を取り、場所を用意しましょう。ちなみに、場所の希望はありますか?」


 問われて、わたしは考えた。


「出来ましたら、離宮で」


 答える。


「実際に料理を試食してもらいながら、話を進めるつもりでいます。離宮の食堂か厨房で話が出来ると都合がいいです」


 わたしの言葉に、ルイスは首を傾げた。


「ししょく?」


 意味がわからないらしい。


「当日、出す料理を実際に食べてもらいます」


 わたしは説明した。


「ほう。それは私も同席したいね。構わないだろう?」


 わたしとルイスのやり取りを聞いていたラインハルトが口を挟む。

 放って置かれて拗ねていた。

 二人の挙式のための料理なのだから、二人で相談して決めてもいいはずだという圧を感じる。

 わたしの方は構わないが、ルイスの方がどうかはわからない。

 わたしはルイスを見た。

 ルイスはため息をつく。


「予定を調節しましょう」


 渋い顔で頷いた。





狙うなら今らしいです。

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