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報告

国王に報告しなくちゃね





 翌朝、わたしは久しぶりに気分良く朝を迎えた。

 数日寝込んでいたので、早く目が覚める。

 身体が軽かった。

 ゆっくりと身を起こす。

 もしかしたら、妊娠状態に身体が慣れたのかもしれない。

 だが、精神的な問題も大きい気がした。

 体調不良の理由がわかって、わたしはほっとする。

 妊娠は病気ではないという思いもあった。

 寝込んではいられない。


 そんなわたしの様子に誰より喜んだのは、ラインハルトだ。

 起き上がった気配で、目が覚めたらしい。

 わたしを見て安堵した。

 自分も身を起こす。


「おはよう、マリアンヌ」


 わたしの頬に手を伸ばした。

 優しく触れる。

 熱がないことを確かめた。


「おはようございます」


 わたしは応える。


「起きて大丈夫なのですか? 無理はしていませんか?」


 ラインハルトは心配した。

 いろいろ聞いてくる。


「今日はだいぶ気分がいいです」


 わたしは微笑んだ。

 一緒に国王のところに朝の挨拶に向かうことを告げる。


「歩き回って、大丈夫ですか?」


 ラインハルトは眉をひそめた。

 王宮は広い。

 王の執務室まではそれなりに距離があった。

 だがもちろん、歩けない距離ではない。

 むしろそのくらいの運動はした方がいいのではないかとわたしは思っていた。

 しかし、ラインハルトは過保護になるタイプだったらしい。


「病気ではないのですから、大丈夫です」


 わたしは答えた。

 それに、国王には報告しなければいけないことがある。


「では、一緒にいきましょう」


 ラインハルトは頷いた。

 そのままわたしを優しく抱きしめる。

 久しぶりにラインハルトの体温をわたしは感じた。

 寝込んでいたわたしに触るのは遠慮していたらしい。

 気遣われていたことに、今、気づいた。

 そんな余裕さえ無かったらしい。

 優しく背中を撫でる手が気持ち良かった。


「マリアンヌばかりに大変な思いをさせてすまない」


 ラインハルトは謝る。

 妊娠も出産も女性ばかりが一方的にリスクを負うことだ。

 それをすまないと謝るラインハルトがわたしにはいじらしい。


「こればっかりは男と女の違いだから、仕方ありません」


 囁いた。

 昨日の八つ当たりしたい気分はだいぶ薄れている。

 体調がいいからかもしれない。


「その分、生まれた後はお父さんを頑張ってください」


 そう続けた。


「お父さん……」


 ラインハルトはその言葉にじーんと感動している。

 そんなところが可愛くて、わたしはにまにましてしまった。

 その視線に気づいたらしく、ラインハルトは表情を引き締める。


「よき夫、よき父になれるようがんばります」


 約束してくれた。






 朝の挨拶に出向くと、国王はにやにやしていた。

 嬉しそうな顔をしている。


(これはすでに知っている顔だな)


 心の中で、わたしは呟いた。

 昨日、あの場にメアリは同席していない。

 だが状況を考えれば、結論は簡単に導き出されるだろう。

 ラインハルトが産婆さんを連れてきたことは屋敷のものはみんな知っていた。

 ちなみに、産婆を連れてきたのはルイスのアドバイスだったらしい。

 わたしの体調不良を心配しているラインハルトに、懐妊の可能性があると示唆したそうだ。

 産婆に診てもらうことを勧め、ラインハルトの産婆にわざわざ連絡を取ってくれたという。

 わたしはどうやら、ルイスに礼を言わなければならないようだ。


「私に何か報告があるのではないかい?」


 待ちきれなかったのか、国王は自分から話を切り出す。

 そわそわしていた。

 ラインハルトはわたしを見る。

 わたしは頷いた。


「父上。マリアンヌが懐妊したかもしれません」


 ラインハルトは報告する。


「そうか。でかした」


 国王は微笑んだ。


「3年も猶予は必要なかったな」


 からかう顔をする。

 わたしはちょっと恥ずかしくなった。

 顔を赤くする。

 ちらりと国王を見ると、わかりやすく浮かれていた。

 その様子に、わたしは不安を覚える。

 暴走する前に釘を刺すことにした。


「可能性があるという話です。まだ、確実ではありません」


 わたしは首を横に振る。


「それに身篭っていたとしても、女の子が生まれる可能性だってあります。喜ぶのはまだ早いです、国王様」


 落ち着いて欲しいと促した。


「わかっているよ」


 国王は頷く。

 ラインハルトはそんな国王に、懐妊を発表するのは挙式の後にしたいと話した。

 それがいいと国王は賛成する。


「早く二人の子供に会いたいね」


 遠くを見た。

 わたしとラインハルトの子供を想像しているらしい。

 わたしたちは困った。


「それでは今日はこの辺で」


 ラインハルトは強引に話を切りあげる。

 その場からわたしを連れて、立ち去ろうとした。


「マリアンヌ」


 国王に呼ばれて、わたしは振り返る。

 さすがに無視は出来なかった。


「わたしは男でも女でも、二人の子供なら嬉しいよ。もちろん、男の子なら僥倖だけどね」


 国王は食えない顔でにこにこしている。

 だが、本音なのだろう。


「ありがとうございます」


 わたしは礼を言った。




とりあえず無事に生まれてくれば……ね。

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