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その他大勢のわたしの平穏無事な貴族生活  作者: みらい さつき
第四部 第三章 恋人の時間
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結婚の意味

既婚者二人が不幸せで不安です^^;





 フェンディとミカエルはバカップルだった。

 夕食の後、わたしたちは居間に移動する。

 フェンディは機嫌が良かった。

 わたしが料理の手伝いをミカエルに頼んだので、彼はしばらく王宮に滞在することになる。

 それが嬉しいようだ。

 ミカエルの隣に座り、にこにこしている。

 ミカエルも楽しそうにフェンディと話していた。

 ピンクのハートが二人の周りを飛んでいるのが見えるような気がする。

 二人が付き合っていることは誰が見てもわかるだろう。

 わたしたちには関係がばれているせいか、隠すつもりもないようだ。

 いつのまにか、フェンディはミカエルの手を握っている。

 片手でミカエルの手を掴み、もう片方の手でそれを撫でていた。

 そんなフェンディにミカエルは少し顔を赤くしている。

 恥じらっているが、嫌ではないようだ。

 微笑ましいを通り越して、わたしはなんだか居たたまれない気持ちになる。

 自分の家なのに、こちらが部屋を出て行かなければいけない気分になった。

 ちなみに、ルイスは夕食を食べ終わるとそのまま家に帰った。

 夕食を食べにきたはずのフェンディは帰る気配を見せない。


(ラブラブなのはいいんですけどね)


 わたしは心の中で苦笑した。

 フェンディは基本的に、ミカエルのこと以外はどうでもいい感じに見える。

 わたしやラインハルトのことも視界に入っていないようだ。

 綺麗にスルーされている。


(こんなんでよく今まで関係がばれなかったな)


 逆に感心してしまった。

 だがそもそも、二人は人前で一緒にいることはなかったのかもしれない。

 堂々と一緒にいられる現状を満喫しているようだ。


 ぼんやりとそんなことを考えていたら、ラインハルトが身を寄せて来る。


「?」


 わたしは不思議そうにラインハルトを見た。


「さっきの、マリアンヌの気持ちがわかりました」


 耳元に囁かれる。

 何の話だろうと、一瞬、わたしは考えた。

 そんなわたしの頬にちゅっとラインハルトの唇が掠める。

 二人のラブラブっぷりに当てられて、いちゃいちゃしたくなった話だとわたしは気づいた。


「いやいや」


 わたしは苦笑する。


「目の前にバカップルがいると、逆に冷静になります。自分もああなのかと思うと、いたたまれなくなります」


 ため息をついた。

 自分も恥ずかしいバカップルであることを自覚してしまう。

 似たようなことをしている記憶があった。

 そんなわたしにラインハルトは残念な顔をする。

 いちゃいちゃしたかったようだ。


(後でね)


 心の中で囁く。


「ところで、いいのですか?」


 小声で問いかけた。


「何がですか?」


 ラインハルトは聞き返す。


「フェンディ様、この調子だと泊まっていきますよ。さすがに、泊めるのは不味くないですか?」


 尋ねた。

 ここから朝帰りされるのは非常に不味い。

 あらぬ噂を立てられるのは目に見えていた。


「不味いですね」


 ラインハルトは渋い顔をする。


「どうします?」


 わたしはラインハルトに聞いた。


「困りましたね」


 ラインハルトは呟く。

 さすがに兄にはずばりとは言い難いようだ。

 二人でこそこそ話をしていたら、フェンディがこちらを見る。


「何をこそこそ話しているんだ?」


 呆れた顔をされた。

 いちゃついていると誤解されたらしい。


(あなたのことですよ!!)


 わたしは心の中で突っ込んだ。

 若干、イラッとする。

 ラインハルトを見た。


「?」


 わたしの視線の意味がわからなくて、ラインハルトはきょとんとする。

 わたしはフェンディに視線を向けた。


「夕食は終わったので、そろそろおかえりくださいフェンディ様」


 ずばり言う。

 ラインハルトが言い難いなら、わたしが言うしかないと思った。

 ラインハルトは驚いた顔をしている。

 こんな風にはっきり言うとは、思わなかったのだろう。


「追い出すのか?」


 フェンディはムッと顔をしかめた。


「追い出します」


 わたしは頷く。


「泊めるわけにはいきませんから」


 首を横に振った。


「それは……」


 フェンディは言葉に詰まる。

 自分が泊まったら、あらぬ噂が出るのはわかっているのだろう。


「せっかく会えたのに、もう追い出すのか」


 フェンディは恨めしげにわたしを見た。

 ぶつぶつと文句を言う。

 ミカエルは困った顔をした。


「ミカエル様はしばらく滞在するんだから、会う機会はたくさんあるでしょう? それに、ここを密会場所にされるのは困るのです。ご自分の部屋にミカエル様を連れ込んでください」


 わたしは提案する。


「私の部屋に?」


 フェンディは思いもしなかったという顔をした。


「同じ王宮の中なら、忍んで行き易いのではないですか?」


 王宮の建物の配置にはまだ詳しくないが、外から忍び込むのは無理でも、中を移動するのはそこまで大変ではないだろう。


「それもそうだな」


 フェンディはわたしの提案に満足な顔をした。

 ミカエルと何やら相談を始める。

 待ち合わせ方法や時間を決めているようだ。

 とりあえず、フェンディのお泊まりは阻止できたらしい


 ミカエルとの打ち合わせを終えると、フェンディはそそくさと帰って行った。

 いろいろと準備があるらしい。

 ミカエルも部屋に下がると言った。

 わたしとラインハルトはそれを見送る。


 二人きりになってから、わたしは小さくため息を漏らした。

 やれやれという顔をする。

 そんなわたしをラインハルトはにやにや見ている。


「なんですか?」


 わたしは問うた。


「マリアンヌは優しいね」


 誉められる。

 だが、どういう意味かわからなかった。


「何がですか?」


 首を傾げる。


「ただ追い出すのではなく、その先を考えてやるのが」


 ラインハルトは足りない言葉を補足した。

 フェンディの部屋で会うように勧めたことを言っているらしい。


「優しくないですよ」


 わたしは苦笑した。


「わたしはただ、ここを密会場所にされるのも、ちょくちょくフェンディ様に会いに来られるのも、困るなって思っただけです」


 正直、わたしの提案にフェンディが乗るかは五分五分だと思っていた。

 フェンディは今、妃たちと子供たちが暮らす自分の離宮では生活していない。

 一人、離れた場所に居を構えていた。

 だがそれでも、自分の部屋にミカエルを呼ぶのはリスクがあるだろう。

 フェンディは覚悟を決めているようだ。

 そのことに、わたしはちょっと滅入る。


「はあ……」


 またため息が口からこぼれた。


「どうしました?」


 ラインハルトは問う。

 心配してくれた。


「王族にとって、結婚って何なのですか?」


 わたしは真顔で聞く。

 ラインハルトは戸惑う顔をした。

 そんなこと、聞かれるとは思っていなかったのだろう。


「マルクス様がずっと別居なさっていて、別れるつもりなのはわかります。お妃様も離婚を望んでいるそうですから、別れるのが一番いいのでしょう。でも、フェンディ様の場合はどうなのですか? 二人のお妃様に別れるつもりはないですよね? フェンディ様がミカエル様を溺愛していて、それ以外は要らないというのはよくわかります。好きな人と一緒にいられたらいいのになと、わたしも協力したくなります。でも、お妃様やお子様たちのことを考えるともやっとするのです。フェンディ様はお妃様たちをどうするつもりなのでしょう? 王族にとって、結婚ってなんなのですか? 王位継承のための手段に過ぎないのですか?」


 既婚者である二人の王子が二人とも幸せでないことがわたしには引っかかっていた。

 結婚が義務にしか思えない。

 それはこれから結婚するわたしを不安にさせた。


「確かに、王族にとって結婚は王位継承のための手段です」


 ラインハルトは認める。


「たいていは親の選んだ相手と結婚し、私のように好きな相手と結婚できることは滅多にありません。兄たちのように、不幸な結末を迎えることの方が多いです」


 言葉を続けた。


「でもだからと言って、兄も妃や子供たちをどうでもいいと思ってはいないでしょう。どうするつもりなのかはわかりませんが、たぶん、妃たちに今後のことは選択させるつもりだと思います」


 答える。


「それは不自由でも王族がいいか、別れて自由になるかということですか?」


 わたしは首を傾げた。


「そうです。そしてたぶん、妃たちは王族であることを望むでしょう」


 ラインハルトの言葉に、わたしは複雑な顔をした。

 それはつまり、今のままということだろう。


「……なんだか、すっきりしません」


 首を横に振った。


「世の中はすっきりすることよりしないことの方が多いのですよ」


 ラインハルトは苦笑する。


「でも、これだけはわかってあげてください。兄たちも最初から結婚生活を諦めていたわけではありません。上手くやろうと努力した結果、駄目だったのです」


 兄たちを庇った。


「世の中には根本的に合わない人が存在するんです。兄たちの場合、それが自分の妃だったのでしょう」


 苦く笑う。


「世の中、上手くいきませんね」


 わたしの言葉にラインハルトは頷いた。


「その分、私たちが幸せになりましょう」


 微笑む。


「頑張ります」


 わたしは頷いた。



妃たちにも思惑はいろいろあるのです。

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