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その他大勢のわたしの平穏無事な貴族生活  作者: みらい さつき
第四部 第三章 恋人の時間
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xxx

ラブラブです。





 何から説明すればいいのか、考えながら部屋に入った。

 その瞬間、ラインハルトに抱きしめられる。


「マリアンヌ」


 辛そうな声で名前を呼ばれた。

 わたしは胸が苦しくなる。

 ラインハルトを見上げた。

 その頬を右手で包み込み、自分から唇を重ねる。

 ラインハルトの舌が歯列を割って口に中に入ってきた。

 わたしは自分からそれに舌を絡める。

 長いキスが続いた。

 わたしは何度も流し込まれる唾液を飲み込む。

 離れ難い気持ちがあった。

 名残惜しくて、キスが止められない。

 それでも、唇は離れて行った。

 ラインハルトの潤んだ瞳がわたしを見つめている。


 キスは止めても、わたしはまだラインハルトの腕の中にいた。

 わたしは自分からラインハルトに身を寄せる。

 背中に手を回した。


「ごめんなさい」


 謝る。

 だが、タイミングが悪かった。


「謝るようなことをしたのですか?」


 ラインハルトの声が刺々しくなる。

 見上げた顔は強張っていた。

 落ち着いてきた気持ちをまた乱してしまったらしい。


「心配かけてごめんなさい、という謝罪です」


 わたしは慌てて、言い直す。

 誤解を解かなければ、ルイスに申し訳なかった。

 今頃、一人で悶々と反省しているだろう。


「ルイスはわたしに、自分の非力さを自覚し、注意を怠るなと叱っていただけです」


 状況を説明した。

 顔を赤くして戻ったわたしをルイスが誤解したこと。

 侍女も連れずに一人でフェンディを案内したわたしが悪かったこと。

 自分の非力さを認めなかったことで、ルイスを怒らせてしまったこと。

 一つ一つ、言葉を尽くす。


「どう考えても、わたしが悪いのです」


 反省した。


「ごめんなさい」


 もう一度、謝る。

 ラインハルトは困った顔をした。

 いつもの穏やかで優しい王子様に戻っている。

 誤解だったことは理解してくれたようだ。

 わたしはほっとする。


「マリアンヌ」


 静かな声がわたしを呼んだ。


「はい」


 わたしは返事をする。


「私は、貴女に何かあったらたぶん自分を抑え切れません」


 ラインハルトの言葉に、わたしはこくりと頷いた。

 それはさっき実感した。

 あの程度のことで、ラインハルトがあんなに怒るなんて、思わなかった。


「だから貴女は、何があっても自分を守ってください。相手が誰でも、何をしてでもです」


 言い含めるように、囁かれる。

 わたしはそれにも『はい』と頷いた。

 真っ直ぐ、ラインハルトを見る。

 ラインハルトは小さくため息を漏らした。


「それなら、許します」


 微笑む。

 その優しい眼差しがわたしを見つめた。


「ルイスのことも、もう怒っていないですよね?」


 わたしは上目遣いにラインハルトを見る。

 そっちの方がわたし的には大問題だ。

 こんなことでラインハルトとルイスの間に蟠りが生まれたりしたら、困る。

 ルイスにはこれから先もずっと、ラインハルトを支えてもらわなければならなかった。


「ルイスに非はないとマリアンヌは思っているのでしょう?」


 ラインハルトは問う。


「思っています」


 わたしは頷いた。


「悪いのはわたしなのです」


 反省する。


「それならば、許します。でも今後は、マリアンヌに触れることは禁じます」


 それがラインハルトの譲歩だとわかった。

 非力さを思い知らせるためとはいえ、わたしの手首を壁に押さえつけたのは事実だ。

 それがラインハルトには許せないことらしい。


「はい」


 それでいいと、わたしは頷いた。

 わたしに触れなくて、ルイスが困ることなんてない。

 それより、ラインハルトとギクシャクする方が問題のはずだ。


「手、痛かったですか?」


 わたしはラインハルトの手を取った。

 優しく擦る。


「大丈夫ですよ」


 ラインハルトは首を横に振った。

 だが、赤くなった手は見るからに痛そうだ。


「わたしのせいで、ごめんなさい」


 わたしは反省する。

 ラインハルトの手にチュッとキスをした。

 ラインハルトはちょっと顔を赤らめる。


「マリアンヌが殊勝だと、調子が狂いますね。いつもの貴女でいてください」


 ラインハルトはそう言うと、わたしの顎を掴んだ。

 触れるだけのキスを繰り返す。

 わたしは胸の中がじわっと暖かくなった。

 ラインハルトが愛しい。

 ぎゅっとラインハルトにしがみついた。


「マリアンヌ?」


 ラインハルトは戸惑った声を上げる。


「フェンディ様とミカエル様がとてもいい雰囲気で、ラインハルト様に会いたくなりました」


 わたしは独り言のように囁く。


「会って、ぎゅっと抱きしめてもらって。キスして欲しかったんです」


 ラインハルトを見上げる。

 それは皮肉にも、違う意味合いで叶っていた。

 ちょっと乱暴だったけれど。


「どうしてですか?」


 ラインハルトは尋ねる。


「二人がとても仲良しで、愛し合っているのがよくわかって。羨ましくなったんです。わたしも愛されている実感が欲しくて、ラインハルト様に会いたくなりました」


 わたしは答えた。

 ラインハルトはふっと笑う。

 わたしの頬に手で触れた。


「マリアンヌはわたしを喜ばす天才ですね」


 微笑む。

 わたしは微笑み返した。


「わたしの言葉でラインハルト様が喜んでくれるなら、いくらでも言葉を尽くします」


 言葉が言い終わる前に、キスをされる。

 頬や額や耳元にラインハルトはキスを繰り返した。

 くすぐったくて、わたしはくすくすと声を上げる。


 トントントン。


 そこにノックの音が響いた。


「マリアンヌ様、いらっしゃいますか?」


 アントンの声が聞こえる。

 わたしの居場所はルイスに聞いたのだろう。


「おります」


 わたしは返事をした。


「夕食の準備が整いました。用事がお済になりましたら、ラインハルト様と食堂にいらしてください」


 アントンはドアを開けないまま、話を続ける。


「わかりました。今、行きます。アントンはミカエル様の部屋にいらっしゃるフェンディ様たちにも声を掛けてください」


 わたしは頼んだ。


「かしこまりました」


 アントンは立ち去る。


「行きましょう、ラインハルト様」


 わたしは促した。

 だがラインハルトはわたしの顎を掴みあげると、チュッとキスをする。


「用事がすんだらでいいのなら、もう少しだけ」


 甘えた声で囁いた。


「じゃあ、もう少しだけ」


 わたしは頷く。

 触れるだけの可愛いキスを何度も繰り返した。





キスキスキスってことです。

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