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都合のいい女 2

まだ続いちゃいました。





 お妃様レースの噂は直ぐにフェンディの耳に入った。

 側近から聞かされる。

 側近のアルジャーノは大公家の現当主だ。

 二人の息子は第二王子と第三王子の側近についている。

 いずれも王子たちからの信頼が厚く、重用されていた。

 大公家の一族は忠誠心に厚い。

 自分の主に真摯に尽くすが、実は王家の傍系でもあった。

 万が一、王家に跡取りがいなくなった場合は大公家から次の王が立つことになる。

 それは本当に一握りの人間しか知らない秘密だ。

 かつて、現国王の妃に大公家の娘がなる予定で話が進んでいた理由もそんなところにあったらしい。

 だがその話は実現しなかった。

 その代わりに娶られたのが今の第二王妃になる。

 彼女は自分が身代わりであることを知っていたようだ。

 だからこそ、躍起になったのかもしれない。

 大人になった今なら、フェンディもそんな王妃の気持ちを汲むこともできる。

 しかし子供の頃はただただ迷惑な人だと思っていた。

 そしてその印象は今もあまり変わっていない。

 第二王妃がもっと穏やかな人であったなら、王宮の雰囲気は変わっていただろう。

 今の王宮のどこかぎすぎすした空気は第二王妃とその派閥によるところが大きかった。

 第三王子のラインハルトが独身のままなので、未だに第二王妃とその派閥は力を持っている。

 国王がどんなに溺愛しても、ラインハルトに王子が生まれなければ次期王にはなれないのは周知の事実だ。

 多くの貴族たちはどこに与するべきなのか決めかねている。


 そんな中、結婚しないラインハルトに業を煮やした国王が強権を発動した。

 公に妃を選ぶことにする。

 ラインハルトが逃げられないよう、容赦なく追い詰めることにしたようだ。

 お妃様レースが開催されることが決まり、王宮の中は大騒ぎになる。

 フェンディの二人の妃も右往左往していた。

 第三王子が結婚しなければ、フェンディにも王位継承の可能性はある。

 第一王子で、すでに跡継ぎになる息子がいた。

 条件は整っている。

 だが第三王子が結婚して息子が生まれたら、それまでだ。

 フェンディが次期王になることは絶望的になる。

 国王はなんとしても溺愛するラインハルトに王位を譲るだろう。

 それは誰もがわかっていた。


 フェンディにはもともと、国王になるつもりはない。

 早くラインハルトの王位継承が決まって、自分はお役御免になりたいと願っていた。

 フェンディの希望はたった一つ、ミカエルと一緒に暮らすことしかない。

 それには王位なんて邪魔でしかなかった。

 だがミカエルの存在を隠している今、そんな願いは口に出来ない。

 余計な詮索を受けないため、王位に興味が無いことも公言していなかった。

 そのため、フェンディに王位継承の意思があると勘違いしている貴族は少なくない。

 真実を知っているのはただ一人、アルジャーノだけだ。

 ミカエルのことを十数年隠し続けてこられたのも、アルジャーノの手腕によるところが大きい。

 そんな有能なアルジャーノが自分の側近であるばかりに、次の王の御代では重要なポストにつけないことは申し訳なく思っていた。

 だが大公家は誰が次期王になっても困らないようになっている。

 アルジャーノの分、その息子のルイスが活躍するだろう。

 アルジャーノはそれで構わないようだ。

 気にせず、自分の思うままに生きていいとフェンデイを応援する。


 ラインハルトの結婚は、フェンディにとっては願ってもないことだ。

 結婚し、早く弟に王子が生まれて欲しい。

 そしてラインハルトの次期王位継承が決まればいいと思った。


 王位継承の可能性が消えれば、フェンディはミカエルを側に置きやすくなる。

 第三王子側からお妃様レースへの協力を求められた時も、快くフェンディは引き受けた。

 弟の妃になるかもしれない令嬢たちには興味がある。

 ラインハルトが女装して参加者に紛れるというのも面白かった。

 弟にそんなお茶目な一面があるなんて、初耳だ。

 これを機に、少しは弟たちと距離を詰められたらいいなと願う。

 フェンディは積極的にお妃様レースに参加した。






 無事にレースが終わり、優勝者が決まった。

 フェンディは心の中で歓喜する。

 表彰式が楽しみだった。

 どんな令嬢が弟の妃になるのか、興味がある。

 彼女は次の王妃だ。

 出来ることなら、穏やかで優しい人であるといい。

 だが、優勝者として登壇したのは、なんとも地味な令嬢だった。

 しかも、ラインハルトよりどう見ても年上だろう。

 優勝を逃した二人の女性の方が美人だったり、若かったりした。

 彼女でいいのかと、フェンディは心配になる。

 結婚しても、子供が生まれなければ王家にとっては意味がなかった。

 ラインハルトに寵愛されるような女性でなければ困る。

 フェンディはまじまじと優勝者を見た。

 彼女は、決して不細工ではない。

 目はくりっと大きいし、髪は艶やかな黒髪だ。

 それなりに可愛らしい。

 だが、それなりなのだ。

 この程度の令嬢なら、貴族の中に五万といる。

 そんな令嬢にラインハルトが興味を示すとは思えなかった。

 兄であるフェンディから見ても、ラインハルトは完璧だ。

 容姿の美しさはもちろん、頭も良く、身体能力も高い。

 なにをやらせてもそつなくこなした。

 しかしその分、何に対しても興味が薄い気がする。

 何かに夢中になるということが、ラインハルトにはないようだ。

 兄として、フェンディはそれを心配する。

 ミカエルと出会って、フェンディは人を愛する喜びを知った。

 ラインハルトにもそんな相手が見つかればいいと願う。

 100人もいれば、ラインハルトの望む相手が見つかるのではないかと期待した。

 しかし、あんな地味な令嬢では期待しても無駄だろう。

 ラインハルトに子供が生まれるのは、まだまだ先のことになりそうだと、がっかりした。

 しかし、男女の仲はわからないものだ。

 表彰式の最中に起こった一連の騒動の中で、あのラインハルトが、地味なマリアンヌに惚れているらしいことを知る。

 意外すぎて、フェンディはびっくりした。

 だがラインハルトが気に入っているなら、問題は無いだろう。

 早く結婚し、二人の間に王子が生まれてくることをフェンディはどこか傍観者のような他人事の気分で願っていた。


周りから見るとマリアンヌは地味などこにでもいる女性です。

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