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ハグとキス

三部はここまでです。





 夕方、仕事を終えたラインハルトは帰ってきた。

 思ったより元気そうな様子にほっとする。

 落ち込んでいた気分は浮上したようだ。


「お帰りなさいませ」


わたしは出迎える。

 約束通りに甘やかそうと待ち構えていたのに、ラインハルトは1人ではなかった。

 ルイスを連れている。

 勢い込んでいた分、わたしは肩透かしを食らった気分になった。

 伸ばそうとした手を引っ込める。

 微妙な顔をした。

 さすがにルイスの前でラインハルトといちゃつくことは出来ない。

 わたしにも羞恥心というものはあった。


「どうしてルイスが一緒なのですか?」


 不満を顕にして、ラインハルトに問う。

 そんなわたしをラインハルトはくすくす笑った。


(楽しそうで何より)


 今日は怒る気になれない。

 ラインハルトが元気になって嬉しかった。


「私も好きで新婚家庭にお邪魔したわけではありません」


 ルイスはむっとしながら口を開く。

 余計な仕事を増やされたという顔をしていた。

 だが、そんな顔をされる覚えがわたしにはない。


「では、何故いらしたんです?」


 わたしは尋ねた。


「マルクス様から返事が届きました」


 ルイスは手紙を取り出す。

 わたしに差し出した。


「ありがとうございます」


 わたしは受け取る。


(何で返事がそっちに届いたのだろう?)


 心の中で疑問に思った。

 招待状を送ったのはラインハルトではなくわたしだ。

 だが、返事の手紙を見て謎が解ける。

 わたしの名前より、ラインハルトの名前で招待した方がいいと思って、差出人をラインハルトにしたことを思い出した。


「お手数をかけました」


 わたしは礼を言う。


「招待状はラインハルト様の名前で出したのですね?」


 ルイスはわたしに確認した。


「はい」


 わたしは返事をする。


「屋敷の主からの招待の方がいいと思ったのですが、駄目でしたか?」


 問いかけた。


「いいえ。いい判断だと思います。ただし、そのことはこちらにも伝えておいてください」


 ルイスに注意される。

 どうやら、突然届いたマルクスの返事に驚いたようだ。

 何事かと思って手紙を開いたら、昼食の招待への返事だったので拍子抜けしたのだろう。

 お小言のためにルイスはここに寄ったようだ。


「……はい」


 わたしは素直に頷く。

 連絡を怠ったのは確かにわたしのミスなので、甘んじてお小言を受けた。

 そんなわたしにルイスは満足そうな顔をする。


「明日の準備は大丈夫ですか?」


 確認された。


「ええ」


 わたしは頷く。


(……たぶん)


 心の中でこっそり、そう付け加えた。

 不安は全くないわけではない。

 準備は終わっていなかった。

 なんせ、届いた米は玄米だ。

 籾殻がついていないだけラッキーとも思ったが、わたしが食べたいのは白米だ。

 初めて米を食べるというフェンディには白米の美味しさを教えてあげたい。

 だがそれには精米する必要があった。

 この世界にはもちろん、精米する機械なんてない。

 精米機は見たことがあっても、中の構造なんてもちろんわたしは知らなかった。

 ただいま、試行錯誤している。

 だがそれをルイスに説明する気はなかった。

 上手に説明出来る気がまったくしない。


「そうですか。それなら結構です」


 ルイスは納得して、帰ろうとした。


「え? 帰るんですか?」


 わたしは驚く。


「? 帰りますよ?」


 ルイスはわたしが驚いている理由がわからないようで、戸惑った顔をした。


「せっかく来たのだから、ご飯を食べて帰ったらどうですか?」


 わたしは夕食に誘う。

 このまま帰すのはなんだか忍びなかった。

 ルイスはちらりとラインハルトを見る。

 憮然とした顔を見て、笑った。


「いえ。これ以上邪魔したら、恨まれそうなので」


 わたしの誘いを断る。


「たっぷり、ラインハルト様を甘やかしてあげてください」


 意味深なことを言った。

 何故そのことを知っているのか問うより先に、ルイスは帰ってしまう。


「……」


 わたしは冷たい目をラインハルトに向けた。

 ラインハルトはぎくっとする。


「ルイスに話したのですか?」


 わたしは問うた。


「あー、その……」


 ラインハルトの目が泳ぐ。


「……少しだけ」


 呟いた。


「少し? 少しもたくさんもないですよね?」


 わたしは静かに問う。

 ラインハルトは困った顔をした。


「父上の提案には怒らなかったのに、ルイスに話したことは怒るんだな」


 ぼそっと呟く。


「怒りますよ。こういうのは夫婦の秘密でしょう? 何、ペラペラと他人に話しているんですか」


 わたしは文句を言った。


「すまない」


 ラインハルトは反省する。

 自分に非があるとは思っているようだ。


「いつになく積極的なマリアンヌに浮かれてしまった」


 言い訳した。


「それはいつもラインハルト様がぐいぐい来るからです。わたしから行くタイミングなんて、ないでしょう?」


 問うと、ラインハルトは納得する。


「なるほど。では今、ここで何もせずに待っていたら、マリアンヌはハグとキスをしてくれるのか?」


 真顔で聞かれた。

 わたしはふっと笑う。

 案外、ラインハルトは甘え上手だ。


「いいですよ」


 頷いた。


「お帰りなさいませ、旦那さま」


 囁きながら、抱きしめる。

 そのままキスをした。

 離れようとしたら、ラインハルトに抱きしめ返される。

 ぎゅっと抱かれた。

 わたしは素直に身を任せる。


「あの……」


 とても言い難そうに、メアリが声をかけてきた。


「夕食の準備が出来ましたが……」


 どうすればいいのかと、問うような目をする。


「今、行きます」


 わたしはメアリに返事をした。


次は閑話を挟むか、四部に行くか迷っています。

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