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将来の授業



 なんとか春季講習を終え、通常授業の日になった。先生は何事もなかったかのように塾に戻ってきた。

 

 優佳と受付の掲示のところで担当講師を確認する。

 

「私、社会の先生がなんと入谷先生になったみたい。それはそれで楽しみだけど、苦手な算数こそ先生が良かったな」

 

 先生は4月からBクラスの社会の授業をやるらしい。いいなぁ。また先生の授業受けれるんだ。嫉妬する。私も理社取ろうかな。

 

「あれ、星月と綾瀬じゃん。頑張ってるか?」

 

 突然入谷先生に話しかけられた。

 

「先生! どこ行ってたんですか!!」

 

 2人で詰め寄ると、先生は頭を掻きながら

 

「ちょっと用事があってね」

 

 と申し訳なさそうに言った。私は重要なことを聞いた。

 

「先生、クラス変わっても補習はしてくれますか?」

 

「あぁもちろんだ。授業終わったら来てくれればするから、授業の後な?」

 

 良かったぁ。半年面倒見てくれるって約束はちゃんと果たしてくれそうだ。

 

「あ、先生、私社会Bクラスなのでよろしくお願いします」

 

「綾瀬はそうだな。社会も頑張ろうな」

 

「はい!」

 

 いいなぁ、やっぱり私も理社取ろうかな。

 

「先生また後でねー!」

 

「ばいばーい!」

 

 久しぶりに先生に会えて嬉しかった。今日の授業早く終わらないかな。

 

 

 

「先生、宿題はやらなきゃいけないですか?」

 

 補習開始早々、佐野くんが先生にそう話す。

 

「もちろんやったほうがいい。担任の先生が出したものだからな。それをしっかり終わらせてから、追加課題をやってくれ。できるよな?」

 

「できるけど。やっぱやったほうがいいんだ」

 

「そりゃ、今後も学校から宿題出されるだろうし、中学に入ったら定期試験というものもある。いつもやりたいことだけをやれるなんて限らないからな」

 

 ごもっとも。

 

「やりたいことをやるためには、どこかで努力する必要がある。みんな予習したんだろ? そうやって効率的にやることを終わらせて、自由な時間を作り出すんだ」

 

「ずっとやりたいことだけをするにはどうしたらいいの?」

 

 優佳がそう聞く。確かに気になる。

 

「努力をして、他人に『価値提供』することだな」

 

「価値提供?」


聞いたことのない言葉だ。

 

「そうだ。今日はお金の話をしようか」

 

 そういって先生は話し始めた。

 

「君たちはいま、親御さん達にご飯を食べさせてもらっている。難しくいえば”養われている”ということ。これは子供である今のうちだけだろ? いまこうして塾に通えているのも親御さんにお金を出してもらっているからだというのは理解してるよね?」

 

 私たちは頷く。

 

「じゃあ親御さんはどうやってそのお金を稼いでいるのか知ってる?」

 

「お父さんは会社から給料を貰ってるよ」


佐野くんが答える。

 

「佐野のお父さんは何をして給料を貰ってるのか知ってるか?」

 

「聞いたことないかも……」

 

「給料を会社からもらう人のことをサラリーマンというけど、彼らは”時間”を会社に提供することで会社からお金をもらえる。その代わり、会社は働いている人の時間を自由に使うことができる」

 

 時間を対価にお金をもらう、ってことか。

 

「それに対して園倉のお父さんは医師だよな。医師は”患者の具合を診察すること”を対価にお金をもらっている。そこに時間は関係ない。一般的に医師はお金持ちって言うだろ? それは、”時間”じゃなくて”技術”を提供してるから。大学受験で医学部に入り、医師になるために勉強をして医師という免許を国から認定されて取っているから、患者さんから高額な診察料を貰えるんだ」

 

「時間と技術……」

 

「柴田はまだ決まってないけど、他の4人は”技術”の要る仕事だ。それを少しずつ鍛えていって、他の人に”価値”を提供できるようになるとやりたいことをしながらお金を稼ぐことができる。結果、やりたいことだけをやれるようになるんだ」

 

 先生が言ったことは小4の私たちには難しかったが、なんとなく理解できた。私の場合は絵の技術を磨けば買ってくれる人、依頼してくれる人が出てきてお金を稼ぐことができる。私の好きな、絵を描くという行為だけで生活できるということらしい。

 

「だからみんなはやるべきことをやりながら夢に向かって進んでいこう。自分だけの人生だ。誰かとは違う、唯一の人生にしような」

 

 そういって今日の補習は終わったのだが。

 

「あ、星月、ちょっと」

 

 私だけ先生に呼び止められた。

 

「今回のテスト、本当によく頑張ったな。飛び級でBクラスなんてなかなか凄いぞ」

 

 そう改めて褒めてくれた。

 

「先生ありがとう。でも、佐野くんはAクラスだし」

 

「佐野たちは星月と違って、受験で高得点を出すことが最優先だからな。星月はそうじゃない。今後絵を描くために頑張っているんだから」

 

 私の弱音にも先生は丁寧に答えてくれた。

 

「さっきの話、特に星月は絶対覚えておけよ。世の中にデザイナーはいっぱいいる。だけど、『星月百合愛』にしか書けない絵があると、星月の市場価値は高くなる」

 

「市場価値?」

 

「そうだ。簡単にいうと、自分自身の価値だ」


「自分自身の価値……」


「たくさん書いて技術を磨け。そしてたくさんの人に見てもらえ。絵は誰かに見てもらって初めて価値になる。それが星月の価値となり財産となる。ただのデザイナーになるな。『星月百合愛』というたった1人のデザイナーになれ。大丈夫、星月ならできる」

 

 先生の後押しほど自信になるものはない。

 

「ありがとうございます!」

 

 もっともっと頑張ろうと、先生に認められようと誓った。

 

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