月例テスト
最初の授業から1ヶ月が経ち、今週末に月例テストが迫ってきた。今日の授業は、月例テストの過去問だろう。そう思って授業に来たのだが。いつもの確認テストのあと、先生はこう言った。
「今日は、今までの確認テストを全部やります」
え? 今なんて言った?
「月例テストの過去問はあとで配るので好きにやってください。もちろん、いつも通りテスト全部満点になって終わった人はやっていいですけど」
なるほど。今までの確認テスト全部やるのか。相変わらずこの先生は基本に忠実というかなんというか。考え方はぶっ飛んでるのに。
「一枚終わったら採点するので手あげてください。では、どうぞ始めてください」
当然というべきか、私含めいつもの5人は全て1発満点でさっさと終わらせて過去問に取りかかる。
あれ? 過去問だよな、これ。それにしてはあまりにも……。
先生の言いつけ通り、前半の基礎問題を終えて採点のため手をあげる。
「お、さすが星月。全部あってるぞ」
先生に褒められると嬉しい。褒めて欲しいという気持ちを糧に頑張れる。だが、たまらず聞いてみた。
「先生、これ本当に過去問ですか?」
「そうだが。簡単だろ?」
いや、確かに簡単だと思ってたけど簡単だろ?はないだろう。あとニヤってするな。
「後半はちょっと難しいけど、星月ならできる。頑張ってみろ」
でも、この先生の期待によって私は成長してきた。頑張って解こう。
結局、2問解けなかった。
だけど、これ本番の試験なら偏差値70超えてるんだよね。時間も半分かかってないし。おかしいでしょ。この前まで私45だったのに。
佐野は満点取ってたし。先生バケモンだろ。
「さて、各々今週のテストに向けて準備するように。では今日の授業を終わります。みんな頑張ってね。起立。気をつけ。礼!」
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
授業は終わったが、私たちにとってはこれからが本番だ。
「せんせー、今日もよろしくお願いします!」
「よし、やろうか。今日は何したいかとかある?」
ほんと、補習になると一気に雰囲気変わるな。こっちが本物なんだろうな。
「過去問の解けなかった問題教えてほしい」
「僕もそれ解けなかった。難しかったなぁ」
柴田さんと園倉くんが最後の問題を指す。それ、私も聞きたい。
「その問題は佐野が解けてるから、佐野、解説してくれ」
「え? 俺?」
「あぁ。解いた通りに説明してあげてくれ。問題が解けるだけではまだ2流。人にわかりやすく教えられてこそ1流だ。だから佐野にとってもメリットがある」
確かに誰かに教えた問題は忘れにくいような。それは佐野くんも思い出したようだ。
「わかった、やろう」
そうして説明してくれた解き方は、複雑ではあるものの簡単に理解できるものだった。
「中学受験の算数において、習っていない内容のものはほぼ確実に出ない。その代わり、習ったことをたくさん組み合わせて難しくしてる。だから基礎さえできていれば、あとは閃きと経験でどれだけ難しい問題でも解けるんだよ」
先生がそう説明してくれる。今までは宇宙人が解くような難しい問題だと思っていたが、今ならわかる。確かに難しいが、解けないことは決してない。
「君たちがいままで覚えてきた公式や解き方はすべて君たちの武器となる。その武器を増やし、そして使いこなせるように練習をする。それが勉強だ。練習をたくさんして器用になれば必要な練習が減る。それが『地頭』の正体。武器を増やし、それを使いこなし、器用になれるよう今後も頑張ろうな」
「「「「「はい!」」」」」
私たちは、やることをやるだけだ。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
月例テスト当日。私は程よく緊張をしていた。
先生に「成績は関係ない。解ける問題を落とさないこと」と言われたことを思い出した。そう、解けないものはそれまでの努力不足。でも解ける問題を間違えるのはテスト中のミス。だからテスト中に努力すべきはミスをしないことだけだ、と何度も言われた。
「あ、星月じゃん。今日は頑張ろうな」
「あ、ここの会場だったんだね。うん、頑張ろう!」
偶然出会った佐野くんと別れ、教室に行く。
呼吸を整えて試験に備える。
「試験を始めます」
始まってみればあっけなかった。すべての科目で半分以上時間が余り、それでいてほとんどの問題に解答できた。
自己採点でもかなりの高得点を記録できた。まさか自分が本当にこんな点数をとるなんて。そしてケアレスミスはゼロだった。いまだに信じられない。でも、先生との1ヶ月を思い出せば夢じゃないとわかる。ここまで勉強したのは初めてだし、充実した時間を過ごせた。あと5ヶ月、もっともっと頑張ろう。そう胸に誓った。
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