表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/8

みんなの夢

 

「起立。気をつけ。礼。よろしくお願いします」

 

「「「「「よろしくお願いします」」」」」

 

「着席。では確認テストします。よーい、スタート」

 

 1限の国語の授業と昼休みが終わり、2限が始まった。普通なら出席を取ったり配布物を配ったりするが、この授業では全て後回し。それが、入谷先生スタイル。超合理主義。

 

 私は今まで以上に本気で勉強してきたので、2分足らずで終わった。スラスラと解きたいと思って勉強してきたこともあり、少し安堵した。

 

「やめ。隣の人と交換してください」

 

 通常よりも短い時間で確認テストが終わり、交換採点の時間に。私は隣がいなかったので、前の席に座っていた男の子と交換した。あ、この子先週のクレーマーの息子だ。

 

 きっと全然解けてないんだろうな、と思って受け取ると。あれ、全部解けてる。なぜだろうか。前回全然話聞いてなかったのに。

 

「じゃー、点数聞いていくよー。阿部」

 

「76です」

 

「綾瀬」

 

「100」

 

 すごい笑顔でみんなの点数を聞いていく先生。ちょっと怖い。綾瀬さんさすが。

 

 結局、100点満点だったのは前回の4人に園倉くんとあと1人だった。私は答え覚えるくらい練習したおかげでなんとか。15人くらいいるこのクラスで満点が6人は普通であれば多い方だが、問題を配られているという要素は無視できない。

 

「はい。じゃあ荷物持って立ち上がって。100点の6人は前に座って。それ以外は帰っていいよ」

 

 え?

 

 なんて言った?この先生。

 

「星月さん、行こう?」

 

 綾瀬さんに連れられて前の席に座る。

 

「みんな帰っていいよ? 事前に問題知ってて、勉強する時間もちゃんとあって、勉強してきたのが6人? やる気ないなら帰っていいんだよ。まあ聞きたいなら残ってもいいけど」

 

 最後の言葉で張り詰めていた空気がほんの少しだけ緩み、各自席に座る。

 

「前回の授業で理解できたからといって、宿題やっただけで全部覚えられるわけがない。覚えられるほど頭がいいなら君たちはこのクラスにいないんだよ。上に行きたいなら勉強しろ。やり方がわからないなら聞きに来い。やる気のあるやつだけに授業をする」

 

 先生の言葉に何人かはハッとしたようだ。次からはもうちょい良くなるかな。半分くらいには全然響いていないようだが。

 

「じゃあ今日の授業をはじめる」

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 授業が終わり、今日も補習の時間だ。

 

「そうか、佐野は宇宙について勉強したいんだな。確かにまだ未知の領域だし面白いよな。頑張れよ」

 

「私はね、科学者になるんだ! 新しいお薬作って、たくさんの人の命を救いたい!」

 

「僕は医者になる。お父さんみたいな町の医者じゃなくて、命を救う医者になる」

 

 綾瀬さんの発言に触発された園倉くんもそう話す。

 

「2人ともいい夢だ。だが園倉、お父さんのこと悪くいうのはやめような。町のお医者さんも立派な先生だ。町医者がいるから重症患者に集中的に治療ができるんだぞ」

 

「ごめんなさい」

 

「わかればいい。柴田は?」

 

 そう言って少し話の外にいた柴田さんに話を振る。

 

「私は……。まだ決まっていません。もう決めた方がいいのでしょうか?」

 

「そんなことないよ。まだ決まっていないなら選択肢を広げるためにも勉強して、いい中学高校大学に行こうな。その中で探せばいい。今の社会、学歴があるとないとではぜんぜん違う。見つかってからそれに一直線すればいい」

 

 ズキ。先生は私との面談の時と同じ優しい笑顔で語りかけていた。なんかモヤモヤする。なんだろう。

 

「星月は?」

 

 先生は、初めて聞くかのように尋ねてくれる。

 

「私はデザイナーになりたい。みんなみたいに高尚な夢ではないけれど、絵を通じてみんなに笑顔になってもらいたい」

 

 私が半年で塾をやめることはみんなには言わなかった。

 

「へー、星月さんって絵描きさんになるのが夢なんだね! 今度描いてよ!」

 

「い、いいよ」

 

 綾瀬さんとそう約束した。

 

「園倉くん、どうしてここにいるの?」

 

 私は気になっていたことを聞いてみた。

 

「前回、お母さんとここに来たでしょ? あの時、君たちが残って勉強してることにびっくりした。あの時初めて会った先生なのに4人も生徒が楽しそうにしていたのを見て、どうして?と思ったんだ。だけど、『お前の人生だ。自分で考えろ』って先生にいわれてハッとした。お母さんに受験しろとは言われたけど、僕は自分で医者になりたいと思った。医者になるのは僕の夢。そう思い出したんだ。それで、自習しに次の日塾に来たときに先生に相談したんだ。結果、中学受験するのが一番だと言われたから、勉強頑張ろうと思ったんだよ」

 

 そんなことがあったのか。

 

「園倉は小1から俺と一緒で塾通ってるもんな」

 

 そう言う佐野くん。知らなかった。

 

「成績上がらない2人だけどね」


 2人は意外と仲いいのか、苦笑し合う。

 

「それもこれまでだ。頑張ろうな」

 

「おう」

 

 これが男の友情かぁ。どうでもいいことを考えていると先生が宣言した。

 

「さ、雑談もこれくらいにして補習始めようか」



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


 

 今日は先生に5人とも個別に宿題を出された。勉強だけじゃなく、それぞれの夢に近づけるような宿題を出された。私は読書や計算、そして絵を100枚。

 

 先生が両親を説得する条件は、半年で算数と国語の成績を最上位クラス並みにすること。先生の教え通りにやればできる、と言われたらやるしかない。逆に言えばそれ以外はやらなくていいということ。他の4人よりも私に期待してくれてると思っている。だからそれに応えたい。

 

 家に帰ると、お母さんが電話をしていた。

 

「あ、今娘が帰ってきました。本当にありがとうございます。今後とも娘のことよろしくお願いします。では失礼いたします」

 

 先生と電話をしていたようだ。

 

「今、入谷先生から電話があったわ。お話聞かせてちょうだい」

 

 先生は約束通りお母さんに話をしてくれたようで、今日あったこと、言われたことを話した。

 

 うんうん、と全部聞かれた後、こう言われた。


「先生のこと、信じられる? まだ2回しか会ってない。それでも、あなたの人生を先生に預ける覚悟がある?」

 

 既にそれは考えていた。だからすぐに答えられた。


「預けられる。これでダメでも諦められる」


「わかった。じゃあ、お母さんだけじゃなくお父さんにもその覚悟を見せて。楽しみにしている」

 

 それだけ言って、半年後に塾をやめることを許可してくれた。

 

 私の両親はこうやって、私のしたいこと、考えたことをちゃんと尊重してくれる。大好きな両親のためにも頑張ろう、と改めて誓った。

 

気に入っていただけましたら是非ブクマやコメントよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 皆んな風変わりな先生に馴染んできて、子供の素直さが前面に出てきて見ててホッコリ [気になる点] 先生電話でお母さんに弱みとかつけ込んでないだろうか?(ゲス顔 [一言] 面白くなってきた(語…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ