転移
わざわざこのような駄作を読もうと思って下さりありがとうございます。ですが、無理をなさらずに体が受け付けないといったことが本作を読んでいるときに起こりましたら、直ぐに本作を閉じてください。
突如として目の前に少女が現れた。それも、ただの少女ではなく妖精のような背丈の子だ。辺りを見渡すと俺と同じように呆けた様子で少女を見つめている人たちがいた。
「ハロ〜、皆さんこんにちは~。リリーの名前はリリーって言うの。突然だけど皆さんには異世界に行ってもらいま〜す! 幸運だね! 不幸だね! でもご安心を! 突然別の世界に行くんだから、何かしらのお詫びでも貰わないとやってられない! って思うだろうから、リリーちゃんは用意をしておきました〜! も~、みんなリリーちゃんに感謝してよね!」
その子は我々の精神を逆撫でするのが得意中の得意なようだ。ふむ、宜しい。ならば戦争だ。
「じゃあ、リリーちゃんが順番に選んでいくからね〜。え? 声が出せないって? 当たり前じゃん。なんたって、ここはリリーちゃん専用の場所なんだから〜。それじゃあ。まずは君から、いってみよ〜」
そこからは彼女の独擅場だった。我々の中から一人、また一人と選んでいき、「君にはこの能力をあげちゃうね〜」「君はこれ〜」「君は…うーん、よし、これだ!」などと言いながら能力を与え続けている。そして、俺が最後の一人になり、呼ばれた。
「君が最後? うーん……ゴメンね? リリーはもう疲れちゃったから、テキトーでいい?いいよね?」
反論を言おうにも、喋れないので拒否も出来なかった。
「じゃあ、全員に何かしらのことはしたし、別の世界に、ごあんな~い!」
そして、俺は目の前が真っ白に染まっていくのを最後に意識を失った。
◆◇◆◇
「本当に、本当に申し訳ございません!」
意識が覚めると目の前で金髪を長く伸ばし、ウェディングドレスのような純白の服を身に纏った碧眼の美人さんが俺にたいして頭を下げていた。何かあったのだろうか?
「うちの部下が貴方に対して誠に失礼な態度をとってしまい、大変、申し訳ございませんでした!」
「いえ、気にしてませんので別にかまいませんよ」
そう、こんな理不尽なことは社会で普通に暮らしていたら慣れっこなんだ。例えばあのろくに仕事をせず、怒鳴り散らかしてばかりのクソデブとかな! あ”ぁ”、思い出しただけで腹が立ってくる!!
「あの〜、やっぱり怒ってますよ、ね?」
「いえ、私の働いていたところにいた上司のことをふと思い出していただけですのでお構いなく」
「は、はぁ、そうですか? なら、いいんですけど…コホン、それでは改めましてこんにちは。私は医学を司る女神『医神』ことパラベムと申します。以後お見知りおきを。さて、早速ですが本題に入りたいと思います。まず始めに、貴方には突然ですが異なる世界に転移してもらいます。さて、次に「あの、質問っていいですか?」…質問は後でまとめて受け付けますので、もう少々お待ちください。次に、貴方に渡す能力のことです。当たり前ですが、世界のルールに反してしまうようなちーと? でしたか? を与えるわけにもいかないので、汎用性の高いものを渡してます。最後に異なる世界では、貴方が何をしようとこちらは関与しません。なので、好きに生きてください。以上です。それでは質問をどうぞ」
女神様はニコニコとまるで、小さな子供が大人ぶっているのを見守る母親のような慈しみの眼差しをこちらに向けて質問を待っている。そんな眼差しを向けられると少しばかり恥ずかしい。
「じゃ、じゃあ質問なんですがなんで転移をしないといけなかったのですか? それに、貴方の部下? ですか? が連れてきた私以外の方はなぜここにはいないのですか?」
当然の理由だ。何かをしたのなら、そこに至るまでの過程は必ずあるのだから。この質問、というか疑問に女神様は美しい顔を申し訳なさそうにしてこういった。
「その件につきましては、神々による神々のための律法が禁則事項として触れてしまいますのでお答えすることができません。すみません」
まるで模範のような角度で頭を下げられたので、なにも言えなかった。それに、逆にこちらが悪いように感じてしまったので、ついつい癖でこちらも頭を下げて謝ってしまった。
「いえいえ、こちらが全面的に悪いのですから謝るのは当然です。さて、他に質問はありますか?」
「では、その貰える能力? はどのようなものが貰えるのですか? 例えば、不老はダメでも長寿は大丈夫、といったものなのですが」
この質問には女神様は面白いものを見るような目をしてこういった。
「そうですね。まぁ、何事にも限度があるとだけ言っておきましょう」
なるほどそう返してきたか…それな常識を持った答えをしろということになるな。
「では、もし仮に自分が勝手に勇者を名乗ろうが魔王を名乗ろうが神様方は関与しないということですか?」
「基本的にはそうなりますね。ですが、流石に度が過ぎた場合はその限りではないと思っていてください」
確かにそうだ。自分たちが連れてきた存在が自分たちの世界に悪影響を及ぼすのなら自分のプライドがズタズタになるからだ。
「あの? 質問は以上でよろしいですか?」
「え? あ、はい。大丈夫です。問題ないです。はい」
どうやら俺は自分が思っていた以上に熟考していたらしい。おかげで、女神様に心配させてしまった。申し訳ない。
「では、あなたに渡す能力ですがなにか希望はありますか?」
「では、魔眼っていうのを使ってみたいです」
「わかりました。ですが魔眼にも種類があるので、そのあたりをもう少し詳しく教えて下さい」
「では、直○の魔眼でお願いします」
「直○の魔眼はだめです。私が上司に怒られます。それに、それはもう与えたあとなので」
え? あるの? 冗談だったんだけど? てか、あれもチートといえばチートじゃね?
「他の魔眼ってどういうのがあるんですか?」
「そうですね……あぁ、あれがありました。使うと自身と対象が腐ってしまうという『腐滅の魔眼』が」
「それ以外でお願いします!」
なに? なんで欲しがると思ったの?! そんなゴミ能力いらないよ!
「では、対象と自身が石化してしまう『石状の魔眼』はどうでしょうか?」
なんでそんなにも自滅ルートを推してくるんだろうか。しかも状態異常系を。
「すみません女神様、魔眼はやめて状態異常無効とかに変えてもらっていいですか?」
「え? あ、はい。構いませんが、本当にいいんですか?」
「はい。よくよく考えてみると、別の世界ではどんな病気が流行っているのかも知りませんし、医療施設もどのくらいのレベルであるのかも知りませんし、それならずっと健康な状態で要られそうな状態異常無効の方がいいと思ったので」
「そ、そうですか…」
俺が笑顔でそう言うと女神様は残念そうな顔を浮かべる。なぜだろう?
「では、能力は状態異常無効でよろしいですか?」
「はい。それでお願いします」
「それでは、あなたの魂魄に刻み込みます。少々痛いかもですが我慢してくださいね? まぁ、死んだりはしないので、気楽にいきましょう!」
ん? 死んだりってどういうこ痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!
なにこれ!? すっげぇ痛い! 痛すぎて他のことを考えられないくらい痛い!! ほんとにぃ!!やばいヤバイやばいヤバイ!!
「はい! 刻み込みました! これで、あなたは毒や病で亡くなることはありません。では、能力も与えましたので私達の世界『アルクス』へ送り出しますね。よろしいですか?」
「は、はい、お、おねがい、しま、す」
「では、またあなたが亡くなったときに会いましょう!」
最後にすっごく不謹慎なことを言って送り出しやがるなあの女神様。そんなことを俺は女神様が作った光を放つ魔法陣の上で思いながら意識を手放した。