竜と賢者
フェルグス大森林。最奥部。
古風竜「フェルグス」が活動期に入ったとの報告が入った。
特S級の災害である奴であるが、未だにどこかの村を襲撃したとかの報告は受けていない。
これは重要な任務である。
彼の古風竜について偵察せよ。
もし奴に見つかった場合は砂王国「サラヴァンド」方面に退避せよ。
ランクA ギルドナイト殿指名任務
なお、受け取った時点で拒否権はない。
古風竜「フェルグス」。
子供でも知ってるおとぎ話だ。
縄張り意識が高く、その名を冠すフェルグス大森林にはモンスターすらいない。
貴重な薬草、香辛料が生え、奥部には生命の泉すら沸いている。
その為危険な事はわかっていても冒険者達はその森に入り、富を採取する。
・・・ただしそれは休眠期のみ、だ。
奴は目がいい。
雲を切り裂きながら森に入る生命を見逃さない。
鬱蒼と茂った森に隠れていても奴から逃れられた奴はごくごく稀だ。
奴は恐ろしく強い。
高くそびえる城壁も、強靭な騎士達も奴にとっては意味をなさない。
古来には魔将率いる魔王軍すらも一蹴している。
奴は執念深い。
一度目を付けた奴は絶対に逃がさない。
転移で逃げた勇者を隣の大陸まで追って襲撃した事は伝奇にもなっている。
要は、今やってるのは遠回しでも何でもない自殺と同じだ。
だが被害が出ていない以上森に入る冒険者をいつまでも止めておけない。
・・・冒険者ギルドも高騰する貴重な品を少しでも長く啜りたい訳だ。
セルフギアススクロールにてご丁寧に縛られてなければ、
こんな森からは一刻も早く逃げだしてる。
というか、まともな神経してればこんな森には入らない。
この濃密なマナ、間違いなく奴は起きている。
見つかってないのは幸運であるのだが、奴を見つけるまで前に進むことを止められない。
一歩一歩死刑台を登ってるって訳だ・・・クソっ。
『ヴァキュルルゥン!!』
森に響き渡る死神の咆哮。
いる。奴が。近くに。
濃密すぎるマナで息ができない。
しかし進む、足ッ。止まらないッ。
そして森を抜けるとそこには―――
「ほら、大人しくしてるんだ」
『キュルルルゥン』
まるで飼い犬のように従順な古風竜「フェルグス」と
それを慈愛を持って撫でる賢者がいた。
彼・・・賢者は旅の途中、アレクサンドロス大図書館にて本を読んでいた。
「伝説の古七竜」
滑らかな碧鱗。艶やかな翼。流れるような前足のライン。
その絵を見ながら日課の瞑想をしていた。
「はぁ・・・会いたい・・・」
イカ臭い羊皮紙を見ながら今日も彼は賢者になった。
・・・彼はモンスターフェチだった。
彼は強くなった。とんでもなく強くなった。
しかし人間が近くにいると愛するモンスターを屠らねばならない事に心を痛めていた。
彼は考えた。そして斜め上の方向に行った。
人間と出会わないモンスターとイチャイチャするなら問題ないよね!
そして彼はフェルグス大森林に旅立って行った・・・
彼と古風竜「フェルグス」は3度戦った。
一度目は痛み分けに終わった。
2度目には森の木々を倒し、ほうほうの体でフェルグスは逃げ出した。
そして三度目・・・
ついに彼の竜は屈服した。もう完全に上下関係を叩き込まれてしまった。
仰向けになり腹を出して完全に降伏した。
・・・一方彼も限界であった。
全力を出し切り、その分下半身はギンギンになっていった。
しかも戦いが長引いた所為で一月以上オナ禁状態であった。
そのケダモノの前に無防備に屈服した最高級の獲物があるのだ。
彼は身にまとうローブを脱ぎ捨て、腹ばいの彼女にのしかかっていった・・・
ギルドナイトは奇跡を見ていた。
特S級災害「フェルグス」を従える賢者。
神に挑んだ竜騎士の伝説。
彼は確信した。これは伝説の始まりなのだ。
彼は自由になった足でそのまま森を抜け、砂漠の国の女王に報告を上げた。
竜騎士たる賢者、現る。と
そう、彼の伝説はまだ始まったばかりなのだから。
それがただムラムラ来ただけの物だとしても。