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桃太郎とかぐや姫  作者: 霜月昴
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(二)少女の願い 前編 


 その日から俺は引き取った子供と一緒に暮らすことになった。

 引き取った子はあろうことか女の子だった。小学5年生らしい。年齢は10歳で誕生日は7/4らしい。身長は141cmで体重は35キロらしい。ここまですべての情報が書類に書かれていることを見ているだけだった。

 「はー、何で里親なんかに選ばれたんだ」

 そう言ってソファに座ってため息をつく。

 「あ、あの」

 「ん?」

 「ご、ご飯作りましょうか」

 「え?何か作れるのか?」

 「えっと、ご飯は炊飯器で炊けるけど」

 「おかずは?」

 「れ、冷凍食品を」

 「冷凍食品は料理じゃない」

 「え、う」

 「何も作れないんだろう」

 「う、それは。うう・・・」

 そうして涙目になる少女。

 「ご飯は良いよ。いつも外食で済ませているから」 

 「そう、ですか」

 「あ、でも子供連れてるところを行きつけの店の人に見られたくないな。どうするかな、う~ん」

 そう言って悩んでいると

 「あ、あの」

 「ん?」

 「私はここでご飯を食べますから、その好きなところに食べに行って下さい」

 「そうか。それでも良いな。あ、でも何かって行っても冷蔵庫に食べるものは何もないぜ」

 「え?」

 「いつも外食してるからな。飲み物があるくらいだし」

 「そう、なんですか」

 また泣きそうになる少女。確か汐美しおみと言う名前だったか。里親に出された子供は苗字が変る。ゆえに飯野 汐美と言う事だ。それ以前の苗字は教えてくれないし実の両親の存在も明かさないのが規則だ。

 しかし名前を覚えるのも面倒くさい。食事を用意するのもなお更だ。

 「くそ、何で俺がこんな面倒ごとに」

 一人独白していると。

 「あ、あの、」

 「ん?」

 「お、お金をくれたら自分でお米を買います、食べ物を買ってきます。自分で食べ物を買います」

 その言葉に俺はあきれ果てた。

 「なんだ、いきなりやってきて金をくれっていうのか?」

 「ち、違う!そ、そう意味じゃなくて」

 「違わないだろう、自分で食べるものを買うから金をくれって事だろう」

 「それは、そうだけど・・・くないから」

 「え?」

 「迷惑掛けたくないから!だから、一人買いに行くっていったの、それが駄目ならどうすれば・・・」 

 不味いと思ったが後の祭りだった。 

 「・・・どうすれば良かったのおおおおおおおお!!!!!」

 少女は大声で泣き出した。

 俺は耳を塞ぎつつ「こっちが泣きたい気分だぜ」そう独白したが部屋中に響く子供の泣き声で俺の独白はかき消された。


 ※一人にしないで


 女とは子供であろうが大人であろうが泣き声は煩いものだと実感した。少女は30分も泣き続けやがて疲れ果てたのか寝てしまった。

 「大声で泣いてソファで寝るとか図太いガキだぜ」

 子供は嫌いだ。煩いし理屈が通じないし責任能力が無いからだ。もっとも大人でも子供みたいなやつがいるがそういう奴はもっと嫌いだ。 

 とは言うものの食事を与えず育児放棄をしようものなら犯罪者だ。

 「仕方ねえな」

 俺は少女が寝ているのを確認して財布を持って家を出た。

 マンションのエレベーターに乗り駐車場にある車に乗って出かける。目的地は近所にあるスーパーだ。

 「何で俺がガキのために料理なんてしなくちゃなんねえんだ」

 毒を吐きつつ俺はスーパーに買出しに行った。

 (子ども、しかも女の子って何を食べるんだ?子供の頃は味覚は甘さを感じる部分しか発達してないから甘いものか?けれどお菓子とかじゃ駄目だしな。あと野菜とか食わさないとな。子供のころの好き嫌いって大人になっても続くらしいしな。そういえば俺も昔から食べれないものが同じだな)

 そんなことを考えている内にメニューは決まった。

 スーパーで食材を買っている間に子連れの親子を見る。その中でも特に気になったのが片親と子どもと言うペアだ。

 里親になるのは独身男女なので当然片親になる。稀に里親同士が知り合い結婚してお互いの子供と家庭を持つと言うパターンもあるようだ。

 (この中にも里親に選ばれた犠牲者がいるんだろうな)

 そう思うといつも歩くスーパーの光景を違って見えた。

 買い物を終えた俺がマンションに着き部屋の扉を開ける。

 「さっさと作るか」 

 そう言って扉の鍵を閉めると

 「あ、あああああ」

 「ん?」

 少女は起きていた。黒く大きな瞳でこちらを見ている。泣きはらして目が赤くなっているが、大きな瞳は可愛らしく大人になったら美人になるだろうと俺は思った。

 「何だ起きていたのか、これから飯を作ってやるから」

 「うあああああん!!!」

 少女は俺に向かって突進してきた。鳩尾に頭突きを食らわせてかろうじて倒れないように踏ん張る俺に抱きつきながら泣いている。

 もう何が何だか分からない。このままどこかに捨ててきたいと思った瞬間。

 「ごめん、なさい」

 その言葉が聞こえてきた。

 「ごめん、なさい。ごめんなさい。

 ごめんなさい。

 ごめんなさい。

 ごめんなさい。

 ごめんなさい。

 ごめんなさい。

 ごめんなさい。

 ごめんなさい」

 続けざまに放たれる謝罪の言葉。そしてその行動と言葉の意味を悟る一言を発した。

 「もう迷惑掛けませんから一人にしないで」

 俺はそう言って泣く少女の頭を自然と撫でていた。

 そこで俺と少女の腹の虫が鳴った。


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