(一)ヤア、ヤア、ヤア
インターホンが鳴る音が聞こえ俺はマンションの入り口の扉を開ける。そこにはスーツ姿の男女が3人いた。胸元にあるマークを見て俺は心臓の鼓動が上がる。
「始めまして、私はここに勤めている者です」
そう言って女性が出した名刺には「全日本・新里親協会」と書かれていた。
それで心臓の鼓動がさらに早まり「まさか」「いやでもそういう話は聞いたことがあるし」「でも自分に降りかかるなんて」そんな言葉が脳裏をよぎる。そして決定的となる一言を発した。
「飯野 豊也さんですね。あなたは里親に選ばれました」
そうして女性の隣に立つ一人の子供の姿が視界に入って来た。
※
深刻化する少子化に歯止めをかけるために政府は強引な政策を打ち出した。それが新里親制度である。
家庭の事情や経済状況などで育てれない子供や虐待など親と一緒に生活をさせるのが困難な子供などを経済的に余裕のある者に引き取って育ててもらう制度だ。この手の制度は昔かたあったが従来の制度とは大きく異っていた。それは「里親に選ばれるのは経済的に余裕のある独身の男女」であると言う点だ。
政府は何とかして人口を維持しようと考え、本来見捨てられるはずだった子供を金銭的に余裕のある独身貴族に無理矢理押し付けたのだ。
『一、里親となったものは引き取った子供が結婚し子供を儲けるまで里親にならなければならない。
一、里親となったものが引き取った子供を死亡または日常生活を行うことが困難な状態にさせた場合重犯罪として刑法にかけられ罰せられる。
一、里親に選ばれた者はいかなる理由があっても拒否できない。例外として里親は政府が里親として相応しいと思う人物を選出しており、その選出の際になんらかの情報漏れがあり里親として不適切と判断された場合のみこれを拒否する事が出来る』
などなど他にもいくつもの項目があった。
一つ目は里親に選ばれたものは引き取った子供が成人するのが第一段階、子供が結婚するのが第二段階、そしてその子供が子供を産むまでを最終段階として里親としての権利の期間を設けている。早い話が引き取った子供が結婚して子供を産むまで里親として免除されないという無茶苦茶な法律だ。
二つ目は里親が子供を殺害したり、また子供に危害を加えた場合犯罪者として罰せられると言う事だ。これは別に里親でなくても同じことだが里親になりこのような事件を起こしたばあい特に重い罪になると言う。里親となるものは経済力のある独身貴族だ。そんなことになればまさに転落生活だ。
もちろんこれまでの里親にだした子供の中でそう言った事件に巻き込まれたことが報道されたこともあった。家庭内暴力にあった子供、性的虐待にあった子供、育児放棄された子供。そんな報道がでるためにテレビのコメンテーターがこの法律に対してバッシングしているが未だにこの法律が破棄されることはない。それは引き取らなければならない子供の数は増えていっているからだ。
マイナスの面に多少目をつぶってでも見返りとなるリターンが大きいと言う事だ。普通に考えれば「異常」だがそれがまかり通るほど「この国の少子化問題が異常」と言う事なのだろう。