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急接近?

 霧矢陽佳(きりやようか)は俺の保護者になっている。

 研究所が俺を実の両親から多額の金で買い取り、陽佳の所に養子として引き取られた。

 彼女には研究員の旦那が居たが、病気で亡くなったと聞いている。

 彼女は研究にはほとんど関与しておらず、俺の面倒をよく見てくれた。

 恐らく彼女は研究所にとって俺を養子に迎える為だけの存在だったのだろう。

 そんな彼女に兄が、もとい、俺以外の親族がいた事に驚きだ。

 彼女自身から旦那を亡くして天涯孤独と聞いていたからだ。


「陽佳さんに兄が居たなんて初耳だ。俺は天涯孤独と聞いていたから家族は誰も居ないのだとばかり思ってた」

「義理の兄らしいんだけど、関係は最悪みたいね」


 なるほど。義理の兄とは仲が悪く、血の繋がった親族が居ない。

 天涯孤独というのはそういう事だったのか。


 チャララ~♪ チャララ~♪


 携帯の着信音らしき音が鳴る。

 俺の携帯ではないのできっと鞘華の携帯だろう。


「ちょっとごめんね」


 と、言いながら携帯を取り出して着信画面を見た鞘華が一瞬驚いた顔をしたが、ほんの少しの間を取ってから話し始めた。

 俺は話しを聞くのはマズイかなと思い席を立ち、キッチンに向かおうとしたが、鞘華にジェスチャーでそれを止められた。


「もしもし、お久しぶりです」


 鞘華が話し始める。


「はい、無事です」


 研究所の職員からだろうか。


「今ですか?」


 鞘華がチラリとこっちを見た。


「今は正樹くんの部屋にいます」


 え? それ言っちゃっていいの?


「はい、そうです。全て話しました」


 それも言っちゃうの? 大丈夫なの?


「はい、その事については知っています」

「* * * * * *」


 微かに聞こえてくる声は恐らく女の人だろう。

 何を話しているかまではわからないが。


「* * * * * *」

「は? え? わ、私がですか?」

「* * * * * *」

「そんな……いつの間に」


 何やら物凄い慌てている。

 やはり秘密を話した事を怒られているのだろうか。


「わ、分かりました。どうすればいいんですか?」

「* * * * * *」

「え? ちょ、いや、ま、待ってください。私がやるんですよね? 他に方法は無いんですか?」


 俺の方をチラチラ見ながら抗議の声を挙げている。


「* * * * * *」

「なんでそれを!? じゃなくて、他には無いんですか? 身体を触るだけとか」

「* * * * * *」

「わ、分かりました。やります! やりますから、それは勘弁してください!」


 やはりキツイお仕置きなのだろうか?

 しかも性的な意味で!

 鞘華さん、顔が真っ赤ですよ?

 俺がお仕置きする事は出来ないのだろうか?


「* * * * * *」

「はい、はい、でもそう上手く往くか分かりませんよ?」

「* * * * * *」

「ははは、その時は頼りにしています」

「* * * * * *」

「分かりました。それでは失礼します」


 どうやら通話は終わったらしい。

 鞘華は通話を切った携帯を握り締めたまま俯いている。

 内容が気になるが、聞いてもいいものだろうか?

 何だろうこの空気。

 何故か気まずい。

 何か話さなければ。


「「あの」」


 俺と鞘華の声が重なってしまった。

 更に気まずくなった気がする。


「ま、正樹からどうぞ」


 鞘華は俺から話す様に促すが、何を話したらいいかわからない。

 こうなったら思い切って通話について聞いてみよう。


「今の電話ってやっぱり研究所関係?」

「関係者という事ならそうよ。ただ、研究者ではないわ」

「俺に秘密バラした事や一緒に居る事は話しちゃってよかったの?」


 鞘華は俺を監視する目的で俺と同じ学校に入らされたみたいだからな。

 後で怒られたりするんじゃないだろうか?


「何も問題ないわ。さっき言ったでしょ? 研究所は壊滅したって」


 そういえば言ってたな。

 壊滅させた犯人が陽佳さんの義理の兄の霧矢将嗣(きりやまさつぐ)だと。


「それに今の電話の相手は研究所とは殆ど関係ないわ。正樹のお母さんだもの」


 電話の相手は陽佳さんだったのか。

 確かに陽佳さんなら研究所とはあまり関係ないな。


「陽佳さんと知り合いだったんだな。知らなかったよ」

「昔、正樹のいる研究所に行った事があってね。その時に知り合ったの。明るくて楽しい女性(ひと)よね」


 俺の研究所に来た事があったのか。

 鞘華もスキル持ってるんだから不思議ではないな。

 変な事されなかったよな? 俺がされたような事とか。

 少し不安になる。

 不安が顔に出ていたのか、鞘華が慌てたように言う。


「私は何もされてないから安心して。ただ見学に行っただけだから」

「見学?」

「気を悪くしたらごめんね。当時私は少し荒れてたの。どうして私だけこんな生活をしなきゃならないんだ! って。研究者にも詰め寄って研究所から出してって毎日当たり散らしてたわ。そんなある日、私と同じような不思議な能力を持つ少年が別の研究所に居るが見学に行くかい? っていわれたのね。その時の私は自分と同じ境遇の子がいるんだ! って思って少し嬉しくなったの。こんな苦しい生活をしているのが自分だけじゃないって、苦しみを分かり合える相手がいるんだ! ってね。それで、正樹の居る研究所に行くことにしたの。色々と分かち合えるとおもって。でも正樹の研究所で見た少年は私なんかが想像も出来ないような、非人道的扱いを受けていた。この子に比べれば私なんて幸せな方なんだって思ってしまったの。おそらく研究所に連れて来られたのは私にそれを自覚させる為だったんだって後になって気づいたわ。私がしばらくその子を見ているとその子の保護者と名乗った霧矢陽佳に声を掛けられて、別の部屋で色々と話をしたわ。そして最初で最後の見学が終わった」


 俺が何か言わなければならないのだろうが、何を口にすればいいかわからない。


「長々とごめんなさい。それと、あなたに同情した事も! 今更とは思うけど本当にごめんなさい!」


 昔の俺の境遇を知って同情するなと言う方が難しい。

 なので、鞘華が気に病む事はない。

 でも、そうだったのかぁ。

 ある日陽佳さんが写真で見せてくれた子が鞘華だったのか。

 俺は俯いてすすり泣きしている鞘華の隣に座り、頭を撫でながら言った。


「私も頑張るから、あなたも頑張って!」


 鞘華がきょとんとした顔で俺を見つめる。


「ある日、陽佳さんが女の子の写真と一緒に伝言があるわよって俺に伝えてくれたんだ。」


 鞘華は俺に同情してしまった事に罪悪感を感じている様だが、俺は違う。

 写真の女の子の言葉でどれだけ勇気づけられたか。

 女の子にがっかりされないように頑張ろう。頑張って今度は自分が女の子を助けるんだ!

 女の子の存在と言葉が無ければ俺は壊れてしまっていたかもしれない。

 そして、それが俺の初恋でもあった。


「俺は鞘華にお礼が言いたい。鞘華の言葉で俺は壊れる事無くその後も頑張れた。だから、もう泣かないでくれ。俺は写真の女の子を泣かしたくない」 


 鞘華はさっきよりも大粒の涙を流している。

 だんだんと嗚咽交じりになり、声を出して泣き出した。

 俺は頭を撫でていた手止め、そのまま頭を抱き込んだ。

 すると決壊が壊れたかのように声を出して泣きじゃくる。

 所々に「ごめんなさい……ごめんなさい……」と、すがるような声で呟き「それから、ありがとう」と俺の肩でしばらく泣いていた。


 ようやく落ち着きを取り戻した鞘華が俺の手から離れる。

 泣いている鞘華を宥めている時、俺は他の事を考えていた。

 鞘華っていい匂いするなぁや、しおらしい鞘華もかわいいなぁ等と不謹慎ながらも思ってしまった。 

 しょうがないじゃない! 男の子だもん!

 しかも相手は初恋の女の子だったんだから、そう考えてしまうのは仕方ない!

 でも、鞘華に思考を読まれてたらどうしよう? 泣き止んだのはいいが、さっきから黙ったままだ。

 やっぱり思考読まれてたのかな?

 向こうから突っ込まれる前に話の起動を変えよう。


「落ち着いた所で聞きたいんだけど、陽佳さんとは何を話してたの? 随分と慌ててたみたいだけど?」


 どうだ! 見事に話題を逸らしてやったぞ!


「えっと……」


 俺の顔をチラチラみて言葉に詰まっている。

 やっぱり聞いちゃマズイ話だったのか。


「いや、悪い。極秘情報とかだった?」

「ううん、そういうんじゃないんだけど」


 秘密の類ではないのか。

 というか、さっきから俺の事見過ぎじゃないですか?

 もしかして俺に惚れちゃった?

 自分でもいい事言ったとおもったし、無理はない。


「さっきの電話の内容を話す前にはっきりさせておきたい事があるんだけどいい?」

「いいよ、何?」

「私のこと、どう思ってる? 好き? それとも嫌い?」


 質問の意図がわからない。


「電話の内容と関係すること?」


 質問の意図は分からないが、恐らく電話の内容と関係しているだろう。


「ええ。ただ正樹が私の事をどう思っているか知りたいのは私の我儘(わがまま)ね」


 何て答えればいいのだろう。


 『好きでもなく、嫌いでもない』


 これが昨日までの回答だろう。

 だが今日、俺は鞘華について色々知った。

 同じスキル持ちで同じような研究所での缶詰生活の過去。学校では見れない彼女の素の部分を沢山た。

 そして何より鞘華は俺に生きる希望を与えてくれていた初恋の女の子。

 俺は今でも初恋の女の子を好きなのだろうか? 峰崎鞘華の事を好きなのだろうか?


「私の初恋の子は、研究所で見た男の子なの」


 俺が自分の気持ちに自問自答していると鞘華の口から爆弾発言が出た。


「私が何で正樹の監視役をやってたかわかる?」


 今の俺には分かってしまう。


「初恋の男の子の傍に居たかったから自分で志願したの」


 その先を聞いたら引き返せない気がしたが止める気はなかった。


「私は、霧矢正樹が好き! 初めて見た時からずっとずっと好きなの!」


「だから、正樹の気持ちを教えてください」


 俺の目を真っすぐ見据えた、心のこもった愛の告白だった。

 だから、誤魔化さず正直に答えよう。


「俺の初恋は、研究所で陽佳さんが見せてくれた、俺に頑張れと言ってくれた女の子だ。その子に幻滅されないように、そして将来その子を自分が守る為に研究所の生活を頑張れた。凄く感謝してる」


 今の言葉を聞いて鞘華の顔がパァッと明るくなる。


「でも、鞘華の事を好きと聞かれると正直わからない」

「えっ?」


 鞘華の顔が曇る。


「鞘華はずっと俺の事を見てくれていたけど、鞘華が俺の初恋の相手だったって知ったのはついさっきだ。俺はまだ委員長としての鞘華しか知らない。委員長に対しての気持ちは正直に言うと、好きでもないけど嫌いでもない。ただのクラスメイトとしか思っていなかった。でも今日、鞘華の素と接する事が出来た。凄く可愛いと思った。それに鞘華はスタイルいいし、魅力的だと思う。最初二人きりになったとき、エロイ事ばかり頭をよぎった。さっき鞘華の頭を抱いてる時もいい匂いするなぁとかかんがえちゃったし、それに「ちょっと待って!?」」


 鞘華が大きめの声で割り込んでくる。


「結局どう言う事なの? って言うか最後の方おかしくなってたし」

「好き、になりつつある。ごめんこんな情けない返事しかできなくて」


 自分でも情けなくなる。きっと鞘華もそう思ってるだろうな。


「そっか。そうだよね。クラスでは正樹に散々な態度取ってたわけだし」


 落ち込むか怒るかすると思ったが、その様子は見られない。

 それどころか少し嬉しそうにもみえる。


「でも、今日私と話したり過去を知ったりして好きになりつつあると?」

「うん」

「私でエッチな事考えちゃう位には好きってことよね?」

「ま、まぁ」


 何? この羞恥プレイ!

 女の子にあなたでエロい事考えましたって言わされとか普通ならドン引きだよ!

 でも俺が先にエロい事考えましたって言っちゃったからね! 自業自得だ。

 鞘華は鞘華でさっきから


「なるほどなるほど」


 とか一人で何やら納得してるし。

 自分がエロい身体してる自覚があったのだろうか?


「ねぇ、正樹」


 ふと、声を掛けられた。


「どうした?」

「これから大好きになって貰う為にどんどんアタックしてくから覚悟しててね!」


 満面の笑顔で言い放った。

 俺も鞘華の気持ちにきちんと答えないとな。

 そう密かに決意していると


「じゃあ早速、キスしましょ?」


 さすがにアタック強すぎじゃないですかね?


「いきなりすぎるだろ!」


 さすがに突っ込んだ。

 アタックと言っても他にも手はあるだろう。


「違う違う、これには訳があるのよ」


 ブンブンと手を振って否定している。

 告白されたからだろうか、その仕草が可愛く見える。

 早速意識しちゃってんじゃねぇか。


「さっきお義母さんと話してたでしょ? その内容が正樹とキスする事だったのよ」


 どんな内容だよ! しかもお母さんのイントネーシュン若干おかしかったような?


「とりあえずちゃんと説明してくれないか?」


 キスが嫌な訳ではないが、というかめっちゃしたい!

 だからと言って理由も無く付き合ってすらいないのだから、はい分かりました。

 と、ホイホイする訳にはいかない。


 「まず初めに、正樹に能力を封じる封印がしてあるのは知ってるわよね?」

 「ああ」


=======================================


 俺の力は使う方向性を間違えれば世界なんて簡単に滅亡してしまう。

 だからこそ研究所に買われ、監禁生活をさせられていた。


 その反面、研究者達は人工的に俺と同じような能力を発現させられないかと考え、俺をモルモットのように扱い人間としての俺の尊厳はなかった。

 能力を使って復讐してやろうかと何度もおもった。

 でも実行しなかった。いや、実行出来なかったが正しい。


 怖かったのだ。

 人を殺すのが怖かった訳じゃない。

 陽佳さんに軽蔑されるのが怖かった。


 買われた当初は実の両親を恨み、養子として俺を引き取った陽佳さんも恨んでいた。

 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、幽閉されている俺の所へ陽佳さんはやって来て、他愛のない話をしていった。


 月日が経ち、俺は陽佳さんと話す時間が楽しみになっていた。

 当初の恨みなど全くなく、陽佳さんと話している時間だけが心を落ち着かせた。

 色々な話をした。

 今日はどんな実験したか、どんな人と話したか、勉強が分からないから教えて欲しいといった、ありふれた他愛のない話。

 陽佳さんはもう俺の中で家族になっていた。

 復讐をする事で、陽佳さんに、家族に軽蔑されるのが怖くて復讐を諦めた。


 ある日、俺は陽佳さんに愚痴、というよりも泣き言を口にした。

 なぜ俺にこんな能力があるんだ!能力なんて欲しくない! 普通に学校に行って、普通に友達を作って、普通に暮らしたい! 心からの叫びだった。


 そんな俺の言葉を聞いた陽佳さんが少し微笑んだあと


「わかった。陽佳お姉さんに任せなさい!」


 と、言って部屋を出ていった。

 それから数か月、陽佳さんは俺の所に姿を現さなかった。


 再び俺の所に来たのは約半年が過ぎた頃だった。

 久しぶりに俺の所に来た陽佳さんの手には機械のような帽子を持っていた。


 機械の帽子を俺に被せ、小声で話しかけてきた。


「前に見せた写真の女の子の事は好き?」

「好きか嫌いかで言われたら好きです」

「良かった。それじゃあ、その気持ちを確認しながら正樹の能力を使って欲しいの」

「いいんですか?」

「大丈夫! お姉さんに任せなさいって言ったでしょ?」

「わかった。何に対して能力を使えばいいの?」

「自分の能力を封じる事を考えて能力を使って」

「能力を封じるなんてできるの?」

「私の事を信じてやってみて」

「わかった」

 



 過去に能力を消そうと自分に能力を使った事はあったが失敗している。

 でも陽佳さんは私を信じてと言った。

 俺は陽佳さんの言われた通りにする。

 写真の女の子のことを考えながら能力を使った。

 それを何回かやった後に陽佳さんが訪ねてくる。


「何か体に異変は無い?」

「特に何ともない。やっぱり失敗だったんじゃ」

「少しテストしましょう。この石を金に変えてみて?」


 言われた通りに能力を使う。

 石は金になった。

 やっぱり失敗だったと落ち込んでいると


「次はこの金を真上に投げるからそれを向こうの壁の真ん中に当ててみて」


 陽佳さんが次々と能力を使うように行ってくる。

 何回か続けたあと異変が起きた。


「やった! 成功したわ! でも五回かぁ。まぁ、しょうがないか」


 陽佳さんは子供のようにぴょんぴょん跳ねながら喜んでいた。

 能力を使った俺は驚愕していた。

 確かに能力を使ったはずだ。

 しかし、木製の椅子を革製の椅子に変えろと言われ能力を使ったが、椅子は元のままだった。

 失敗した? しかし今まで失敗した事等一度もない。

 俺が不思議そうにしていると


「まだ分かんない? じゃあ、今度は椅子の色を変えてみて」


 言われた通りに色を変えようと能力を使う。

 しかし、また何も変化しなかった。

 俺はたまらず陽佳さんに説明を求めた。


「どうなってるんですか? 今まで失敗なんてした事無いのに」

「聞いたらビックリするわよ~。心の準備はいい?」

「はい、大丈夫です」

「えっとね~、正樹の能力を~、封印しちゃいましたー!」

「え? ええぇ? ほ、本当ですか?」

「もっちのろん! 椅子には何の変化も無いでしょう?」

「確かにそうですけど、ただ失敗しただけなんじゃ」

「じゃあもう一回試してみて。そこの小石を金に変えてみて」


 一番最初と同じ内容だから失敗なんてするはずがない。

 しかし小石は金に変わる事はなかった。


「どう? 変えられなかったでしょ?」


 ドヤ顔で言ってくる。

 もしかして本当に能力を封印できたのか?


「封印できたって事ですか?」

「そうよ、さっきから言ってるじゃない」


 能力を封印したなんて……。

 そりゃドヤ顔にもなる。


「一体どうやって……っ! さっきの機械ですか?」

「大当たりー! でも半分不正解。ブブーッ」


 腕でバッテンを作っている。

 少しイラッとした。


「簡単に説明すると、機械で正樹の頭の中に電気を流して、写真の女の子への強い気持ちを能力をつかさどってる所にぶつけて働きを制御したの」


 ちょっと何を言ってるのか分からない。

 分からないけど能力が使えなくなったのは本当だ。

 陽佳さんは研究者じゃなかったはずなのにこんな物作るなんて天才じゃないか!


「でも、完全に封印は出来なかった。」

「そうなの?」

「正樹が能力を使えなくなるまで五回かかった。つまり、五回までは能力が使えてしまうのよ」


 なるほど、それでさっき何回も能力をつかわされたのか。

 それでも俺には奇跡の様に感じる。


「あと、能力の制限も掛かっているはずよ。今まで能力の対象はほぼ無限だったのが一回につき一つの事象だけになってるわ」

「そんな事まで」

「ここまではいいわね?」

「ああ」

「ここからが重要なんだけど、正樹の封印を解除する事ができるの。でも正樹自身では解除は出来ない。封印を解くには鍵が必要なの」

「鍵?」

「今は深く考えなくていいわ。そのうち分かる日が来る」

「俺は封印は解かなくていいと思ってるからどうでもいい」

「私もずっと封印される事を願うわ」

「そうですか」

「恐らく正樹の能力を封印した事で研究所は無くなると思う。その時は正樹の自由に生きなさい。普通の人として」


 後日、陽佳さんの言った通りになった。

 俺の能力の成功率が大幅に下がった事と、一日五回しか能力が使えなくなった事で研究所はパニックになった。

 そして今まで俺の能力を嵩に資金を仕入れていた他の研究所や国からも資金援助が無くなり、研究所が無くなることになったのだ。


=======================================


「私が正樹の能力の封印を解く鍵なの」


 鞘華が真剣な顔で言う。


「鞘華が鍵? どうして?」

「機械を付けて封印をする時何を想ってた?」


 写真の女の子に対する恋心を強く考えろと言われた。

 

「なるほど、陽佳さんの考えそうな事だ」


 あの時写真の女の子を好きかどうか聞いたのは鞘華を鍵に設定する為だったのだ。


「さっき電話で話したのは正樹の封印を解除して欲しいって内容だったの」


 俺の封印を解除する。

 鞘華が動揺するのも無理はない。


「どうして封印解除する事になったんだ? 陽佳さんもずっと封印が解かれない事を望んでいたはずだけど」

「それは、霧矢将嗣のせいね。彼は自分以外のスキル持ちを抹殺して自分をより一層特別な存在、極論を言えばこの世界の神になるつもりらしいの」


 随分ブッ飛んだ奴だな。


「私や正樹にもいずれ接触してくる。その為には対抗手段が必要になる。それで、正樹の封印解除をする事にしたみたい」


 確かに、封印の無い俺の能力を使えば敵ではない。

 しかし、引っかかる事がある。


「それが俺とキスする事と関係あるの?」


 もっともな疑問をぶつけた。

 鞘華は真っ赤になりながら


「お義母さんが言うには、私が封印解除と念じながらキスをする事で封印が一つづつ解除されるらしいの。決して下心なんてないわ!」

「マジで?」

「私、嘘は嫌いなの」




 陽佳さーーん、何でそんな設定にしたの!

 あ、俺が写真の女の子が好きって言ったからか。


「さ、さっさと済ませましょ。いつ奴が狙ってくるか分からないわ」


 た、確かに。

 でも、ファーストキスが封印解除の為とはなー。

 それにキスっていっても色々種類がある訳ですが。


「き、キスはバードとフレンチどちらでしょう?」

「そ、それは……陽佳さんによれば、唾液の交換で解除されるらしいわ」


 という事はフレンチですね!

 ファーストキスでフレンチキスってどうなの?


「さ、鞘華はいいのか? 俺と、その……」

「だから私の事どう思ってるか聞いたのよ! ファーストキスだから恋人になってからしようと思ってたのに!」


 そういう事だったのか。

 まぁ、ファーストキスは恋人がいいに決まってるもんな。


「なんか、ごめん」

「別にいいわよ。正樹こそエッチな想像した相手とのキスよ? これを切っ掛けに私の事を好きになりなさい。そうすれば、想像してた事ができちゃうかもね」


 そんな誘惑には負けない!

 でもキスしたら気持ち変わりそう。しかも想像していた事ができちゃう可能性が!

 峰崎鞘華、恐ろしい子!


「早く済ませちゃいましょ」

「そ、そうだな」


 そう言い鞘華は目を瞑った。

 俺も徐々に鞘華に顔を近づける。

 鞘華の唇が目の前にある。

 鞘華の息が俺の顔にかかる。

 凄い!鞘華の唇に吸い込まれそうだ。

 俺の唇と鞘華の唇が触れるかどうかの時、突如部屋に男の声が響いた。


「そこまでにして貰おうか」


「「っ!?」」



 声がした方を見ると、青白い顔をした白衣の男が立っていた。

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