6話 一ノ宮和は俺の元凶。
「・・・・・・り・・・くちゃん?」
思わず声がでてしまった。
あたし・・・―――菊来紅葉は李玖ちゃんの家に遊びに来た。このもやもやは何なのかを確認するために。
それなのに。どうしてこんな事してるんだろう・・・。
床で仰向けの状態の李玖ちゃん。それを押し倒す様にのしかかってる一ノ宮さん・・・。
・・・・・・二人は恋人なのかな・・・・?
菊来の心がズキリと痛んだ。
「二人は....どういう関係なの?」おそるおそる聞いてみる。分かってるくせに、紅葉。
すると李玖ちゃんは一ノ宮さんを蹴っ飛ばし、立ち上った。「一ノ宮がただのしかかってきただけだ!気にするな!菊来さん!」
「・・・・・そうなの?本当に?」
「そう!」
「そうなんだ...」
李玖ちゃんの「そう!」というはっきりした言葉でなんだか心が楽になった。一ノ宮さんは不機嫌な顔してたけど・・・。
「菊来さんが来た事だし、帰れ一ノ宮!」と、一ノ宮さんに怒鳴りつけた。
「はいはい。あーあもう少しだったのになー。じゃね、李玖、菊来さん。また明日!」と、投げキス。李玖ちゃんはその投げキスを手で振り払うような動作をした。そして一ノ宮さんは名鳥惜しそうに部屋から出て行った。
*
パタン...
やっと出て行ってくれた・・・・!
水野李玖・・・俺は心から菊来に感謝した。菊来さんもどことなく嬉しそうだ。
「ありがとな!菊来さんっ」
「こちらこそ!・・・・あははっ」と言い、口に手をあてて笑う。
「どしたの?菊来さん」
「だって一ノ宮さんが出て行った時、すごく嬉しそうだたから・・・」
「あー・・・一ノ宮はね、俺の不幸の元にもなる存在だから。嬉しくて」
「そうなんだ〜」ホッとしたような菊来さんの声。
「あ・そういえば何か用あったの?」
「え・・・えーっとねえ・・・・」
「無いんだ」
「え・・・はい」
そして俺がふきだすと菊来さんもふきだした。
それも可笑しくて、二人で笑った。
*
「りっく〜♪」
「李玖〜この問題の意味分かる?教えてあげるよ」
「李玖、昨日は残念だったね。あと少しだったのに」
「今からでもいからさ、俺と付き合わない?」
「うっるっせっぇ〜〜〜〜〜!」俺・・・水野李玖は屋上で叫ぶ。ここは屋上なのでいくら叫んでも大丈夫!
そんな様子を菊来さんは笑いながら見ていた。
「李玖ちゃんさー、今日逃げまくってたよね。顔が面白かった」
「え・・・少しは心配してくれよ・・・」
「あはは」
「オイっ!」
こんな感じで、一ノ宮のアタックに疲れた俺はなんとか逃げ切り屋上で昼食を取っているという訳だ。
それにしても、、、
「疲れた・・・」
「頑張ったよ李玖ちゃん」と、ふきだす。
「なっ!そこで笑うか!」
「・・・・御免....迷惑だよね.......」菊来さんの瞳に涙がたまる。
「そんな事ナイナイ!大丈夫!」
「それにしてもさ・・・・」さっきまでのおどおどしさは無く、いつもの菊来さんに急に戻った。もしかして今のは猫かぶりだったのでは・・・・・?そして、急に機嫌が悪くなる。
「ん?」
「一ノ宮さんってさ・・・李玖ちゃんの事呼び捨てで呼んでるんだね...」
「アレは勝手に呼んでるだけで...」
「・・・・そうなの?」瞳がうるうるとしてきた。菊来さんは泣き上戸だな、と毎回思う。
「そう!気にすんな菊来さん!」
「・・・・・あたしにはさん付けなんだ。一ノ宮さんは呼び捨てなのに....」うるうる度が増す。
「え?」
「呼び捨てで呼んで」
「・・・ん?あぁ」
「こっちも呼び捨てでいい?」
「いいよ・・・?」
なんか今日の菊来は変だ。急に不機嫌になって・・・。俺は弁当のウインナーを箸でつまむ。
「どしたの?今日なんか変だよ菊来」
「違ぅっ!」怒りくるう菊来。
「ほぇ!?」
「その呼び捨てじゃないっ!」
「え?どの呼び捨て?」
「だっかっら〜!下の名前で!」
「あぁ!なるほど!」俺は納得して口にウインナーをいれようとした。
だが、、、、
ガチャっ
「ここに居たの?李玖〜♪」ドアから飛び出すように出てきたのは一ノ宮和だった。
「ぅわっ!くるな一ノ宮!」
いきなりの展開にびびりながらも俺はそういい、手でシッシッという仕草をする。一ノ宮はそんな俺にも構わず、じりじりと近づいてくる。
「ふー・・・探したんだからな〜。」にっこりと笑う一ノ宮。駄目だ・・・・!この笑顔に騙されてはいけないぞ俺!
「探さんでいい!」必死で抵抗する俺。一ノ宮との距離・4メートル。
「またまたぁ〜照れちゃって〜。いいかげん俺と付き合いなよ〜」じりじりと近づいてくる・・・・。一ノ宮との距離・3メートル。
「照れてねぇ!付き合いたくねぇ!」一ノ宮との距離・2メートル・・・ぅわ....もう駄目だ・・・誰か・・・!
そんな俺に近づこうとする一ノ宮の前に紅葉(呼び捨てでいいといわれたの呼び捨て)が立った。
「李玖が嫌がってるのよっ。いいかげん止めなさい!」
おぉ・・・・!
俺は紅葉が輝いてみえる・・・・!俺は思わず感動して涙が出そうになった。
紅葉はそのまま一ノ宮と睨みあった。
ほんと数秒だったけど、長い時間が経ったように思えた。
先に切れたのは一ノ宮のほうだった。
「ふぅん」と頷き笑うと、「今日はここらへんにしといてあげるよ」と言ってこの場を去った。
パタン...
「ありがとな紅葉!2度も助けてもらって・・・」
「いいよいいよ。李玖の為だし!」そういって紅葉はにこりと笑った。
*
一ノ宮和は屋上の階段を下りていた。
なるほど・・・・そういう事・・・・・。
そして、自分を睨んでいた菊来の顔を思い出す。
「ライバル出現・・・・だねぇ」
一ノ宮は楽しそうに独り言を呟くと階段をゆっくりと下りた。
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