17話 お買い物日和!<5>
俺・・・水野李玖は只今、映画館の劇場内にいます。まだ映画は始まっていない。そして劇場内の席のど真ん中の席に右から一ノ宮、俺、天宮さん、紅葉・・・という順番に座っていた。
劇場内は割と静かで、ポップコーンなどのポリポリという音しか聞こえない程だ。
そして俺は現在、劇場の画面をじぃっと睨めっこしながら音をたてない様にポップコーンを食っていた。
もぐ......パ.....パリ.......
「何してんの?李玖....」
隣から一ノ宮の声。多分俺の方を向いていると思うが俺は口に入れたポップコーンをできるだけ音がたたない様に歯を上手に動かし飲み込む。
「・・・・止めたら?何か変な顔してるけど」
「ぅるせー。俺はポップコーンを音をたてずに食うのが好きなんだよ」
「はいはい。つーか俺と李玖以外喋ってないネー・・・。悲しいからキスでもすっか」
「お前は少し静かにしろ。誰がお前とキスなんかするか!」と、一ノ宮に俺は空手チョップ。ゴンという鈍い音が小さく響く。と、やりながら俺は隣の席で静かにしている二人を横目でちらりと見た。
天宮さんは俺と同様劇場の画面をじぃっと睨めっこしている。劇場内だからか知らないが、天宮さんの表情は堅くなんとなく青白い。漫画とかだったら縦線がたくさん入ってる、と思う.....。それに対して紅葉......は恐くて静かにしているというよりもわくわくしているっつー感じだ。
俺はキャラメル味のポップコーンを口に放り込む。すぐには噛まずに、口の中で転がす。するとじんわりと味が口の中に広がった。
甘くて・・・・なんか苦い。
――ジィー。
そう思った所で放映の音が鳴った。
天宮さんはビクッと体を震わせた。まず株式会社の文字がドアップに映る。それでもってオープニングの映像が。それからしばらくの間を置いて井戸がぼぉっと映った。
おぉ!これはなかなかのホラーでは?いつも見ている2倍位のレベルかも・・・。
長い髪の女がぼわっと映る。それから血がばしゃっ吹き出し、画面は血だらけになる。そのまま血だらけの画面にぼんやりと文字が映った。画面はブレてなんだか見にくい。
天宮さんは、まるで石の様に固まったまま画面をじーと見ている。平気そうだな、と思った俺。だかこの思考は間違いだった。
「天宮さん?平気か?」天宮さんに近付いてこっそりと耳打ちする。だが天宮さんは俺の方を見向きもせず、ぼーっと前を向いている。
「・・・・・・・・・」
「おーい・・・」
まるで魂の抜けた人間の抜け殻みたいだな・・・・とかなんとか思いつつも呼びかけるが、硬直したままでピクリとも反応しない。
・・・・・・?
そう瞬間だった。
「きゃあぁぁぁあああーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!もがっ」
天宮さんが急に叫びだしたので俺は弾の様な速さで口を素早く塞ぐ。そんでもって一ノ宮が弾よりも素早い仕草でパチリと写真を撮った。その顔をなんだか満足そうだ。俺は天宮さんの手を取るとぐいと引っ張り席を立つ。
その様子に気づいた紅葉に耳打ちする。
「天宮さんの様子が落ち着くまで外いるから。紅葉達は映画見ててよ」
「・・・・うん。分かった」
何だか不満げの様子なのだが、天宮さんの様子がおかしいのを止めたいので俺はそのまま出口へと行った。
そして映画館外にあるのベンチに天宮さんを腰をかけさせた。
「・・・・・ありがと」天宮さんは小さく呟く。俺はその隣にトスンと座る。
「それほどでも。っていうか様子変だったけど」
「・・・・ホラー恐怖症なの。詳しくいうと、ホラー映画恐怖症、ホラービデオ・DVD恐怖症。いい加減コメディモノとホラーモノを新作だからって並べないでほしいわ・・・・。それとホラーCW恐怖症・・・何の前触れもなく流すの止めてほしいのよ・・・」
それだけいうとはぁ・・・・とため息。
「御免・・・俺がホラー映画選んじゃって・・・」
俺は少しばかり後悔した。
天宮さんがホラー恐怖症って知った時、嫌でも違う映画にすればよかったのにな....。
「いいのよ!大丈夫よもう。私がホラー恐怖症だって言えば良かったわ...正直に。李玖ちゃん有り難う。・・・・・・優しいのね・・・・」と、優しく微笑む。まるでタンポポみたいな笑顔だ。
俺はその見たことの無い笑顔にドキッとしてしまう。お、落ち着け!冷静に・・・。
すると天宮さんは立ち上がり、「ジュース買ってくるわ。待ってて」と駆け出してしまった。
*
あたし・・・ 菊来紅葉は映画を見ながらぼんやりと椅子に寄りかかる。ふかふかの椅子は座り心地が良い。さすが大型デパートだな、とか思う。
『あ・水野さんって2組だよね〜アタシもなんだ!一緒に行かない?』
ふと頭の中にその言葉が浮かぶ。
「・・・・・一緒に・・・・か」と、あたしは誰にも聞こえない位小さく呟く。あたしの呟いた声は映画の音ですぐ掻き消された。
新学期・・・・・―――――。
頬が何だか熱くて。同時に心臓の音がいつもよりうるさくなった。
李玖の後姿を見て。
この気持ちが『好き』ならば、これは『一目惚れ』なのかもしれない。
どくんと、心臓が高鳴るのは初めてで戸惑った。同時に目が離せなくなる。
そのまま足が動いて、口が動く。まるで自分のモノでは無いみたいに。
声をかけるとストレートのロングヘアがふわりと動き、あたしに向かって振り向く。
どきっ
「・・・・・っ!」
綺麗。綺麗すぎる。美少女だった・・・・どうしよ....!
とか更に戸惑うあたし。だけどその人はぼんやりと自分の世界にひたっていて、「え・そうなんだ・・・2組なのか〜自分は。初めてなったなー2組...」とかいろいろ言っていた。
・・・仲良くなりたいなー・・・とか思った。急に。
「水野さん?」
「あ・御免御免....OーK。えと・・・」
「菊来紅葉よ!宜しくね、水野さん。あ・李玖ちゃんって呼んでいいかな?」思いっきり明るい声をだすあたし。ニッコリと微笑んでみせる。うん、なんだかいいぞ自分!
自分で自分を褒めてみせる。なんだか気分が良い。
だけど、
これが始まりだった・・・・。李玖との出会いが、こんなにも....大変になるとは思ってなかった...。
*
数分後。
天宮さんが息を切らしながら走ってきた。その手には紙コップ。
「はい。ジュース」と、俺に差し出してくれた。俺は「サンキュ」と言うと紙コップを受け取った。そして天宮さんが俺の隣に座る。ニコニコと笑いながらじっと見つめてくる天宮さん。俺は飲もうとしたジュースを止めた。
「・・・・飲まないのか?ジュース」
「え?もう一個欲しいのね。私のあげるわ〜」
「え、そういう意味ではなく」
「ふふ、いいから早く飲んで飲んで〜」
「・・・・・・?」
ごくっとイッキに飲み干す。
・・・・・・・・・?変な味だ・・・・・。
俺は天宮さんの方に向こうとした、だけど。
ガクンッ
「え、」
なんか、力が。
目の前ではニッコリと悪魔の様に微笑む天宮さんがいた。
「ふふ。李玖ちゃんの事気に入っちゃった☆このままお持ち帰りするわ」
「あま・・・」
天宮さん、と言いかけて目の前が真っ暗になる。
気を失う前に天宮さんの嬉しそうな声がした。
「やったわ〜。睡眠薬混ぜておいて良かった♪」と。
買い物日和!編終了ww早いモノでもう17話まできました^^* 本当はここらで終わらす予定だったのですが、予定がずれて17話まで・・・^^;&ネット小説の人気投票に参加しています。投票していただけると励みになります。(月1回)