照れるねぇ
「へ?」
これオレ?いやオレじゃないはずだ。おかしい!うんおかしい!これもしかして静止画じゃ…試しにあいうえおっと口を動かす。鏡の女の子もあいうえおっと口を動かしていた。あれーおかしいな…ははっ……笑えないワラエナイ。オレ女の子になったのか?嘘だろ…夢だろ?
「秋斗落ち着きなさい。貴方は決勝戦で負けた後、侵食性男性因子喪失症候群という病気にかかって女の子になってしまったのよ。」
母さんが申し訳なさそうに説明するが頭に入って来ない。オレはどうすればいいんだよ…奈川高校で野球は?確かに女子の硬式野球は高野連の改正により認められているけど、改正から約10年未だに甲子園の土を踏んだ女性選手はいない。それに今の女の身体であのチームのエースになれるのか?……いやなれない。それに元の友達の関係や先輩との関係に戻るのさえ無理だ…あーくそ!
バンと机を思わず叩いた。とにかく八つ当たりをせずにはいられなかった。
「お兄ちゃん落ち着いて。前の身体じゃないんだから。」
春香が心配そうに見つめる。妹にまで心配されて何やってんだオレ。
全て順調だったはずなのに…一年生の夏から強豪奈川高校でベンチ入りして甲子園には出られなかったがリリーフで登板した。秋からエース番号で地方予選勝ち抜いて全国大会である神宮大会の決勝では負けたけどそれでも十分手応えは感じてた。春の選抜では翔平とリベンジするって言ってたのに…このザマか。
でもそう思っても仕方ないんだよな…もうなってしまったものは戻せないんだから。女の子としてこれから頑張るしかないんだから。よし!覚悟決まった!でも正直奈川高校に戻るのは気まずいし、辛い。
「母さんオレ「あっ貴方の転校届け出しといたからね!私の母校に。だって気まずいでしょ?それに辛いと思うし。勝手に出しちゃったのは許してね。貴方の事を思ってなんだから。後戸籍女の子にいじった事と名前は秋斗じゃ男の子だから秋にしたからね!」
相変わらず手際いいな。母さんは。名前秋か。まあ変に変わるよりあんまり変わってない方が楽でいいか
「そりゃどうも!それの方がありがたい。色々ありがとう母さん。」
「えへへ、照れるねぇ」
いや30代で後半でその照れ方はないかと…あっ睨まれた!
「あっでも母校って県内?家どうすんの?オレ女の子になったのバレたくないよ?」
「安心しなさい。県内だけど奈川からは遠いし引っ越すから」
それなら安心か。翔平にもこの姿は見せたくないからな…でも会えなくなるのは正直辛いな。
「あっ忘れてたけど転校するまでに女の子として口調とか服装とか振る舞いとか叩き込むから覚悟しなさいよ?」
「……はい」
色々面倒いけどやるしかない。それにこうなった母さんは経験上意地でも曲げないしな…
「私も教えてあげるからね!お姉ちゃん!」
「お姉ちゃん!?」
確かにもう男ではないけど春香切り替え早すぎだろ…それに妹に教えてもらうとか兄として立場がない。いや姉か!
「分かったよ。お願いします。春香さん。」
ワザとらしく敬語を使う。あーでも中2の妹にコレって情けないな。まあ別にいいけど。
その後、医者から退院の事や薬のこと。母さんからは転校三学期からとか説明を受けた。色々話しされて正直パンクしそうだったが仕方ない。そういえば三学期から転校って言ってたからそれまでみっちり勉強やら女の子として練習か…野球ならやる気出るんだけどな。考えても仕方ないし、これからの為に頑張るか。ポジティブポジティブ!
あっでも生理とかあるのかな?これからが憂鬱だな…生理の事を考えるとさっきまでのポジティブが嘘みたいに消えて、思わずため息をついた。