鮮烈デビュー
「以上が今日のスタメンだ。大事な初戦だ。気を引き締めて行くぞ。」
「「はい!!!」」
日付は3月20日。春の地区大会。市山高校の対戦相手は日下高校。秋ベスト8同士の潰し合いに多くの観客が球場に足を運んでいた。
「まさか地区大会で強豪校同士の対戦が見られるなんてな」
「どっちが勝つと思う?」
「桐谷は怪我明けだろうし、日下の方が有利だよ。後半スタミナに不安のある桐谷が捕まって終わりだろ」
「いや、市山の3番紅林、4番石田、5番桐谷のクリーンナップは県内でもトップクラスを誇るぜ」
「でも日下のエースは…」
色々な声が聞こえる中、試合は始まった。
試合は初回から動く。立ち上がり制球の定まらない日下のエース田村から石田のタイムリーで1点を先制。
幸先のいいスタートを切った市山高校。しかしここから点が入らない。初回こそ点を許した田村だが徐々に落ち着き始め、2回以降市山に追加点を許さない。
対する桐谷も2塁すら踏ませないピッチングでスコアボードにゼロが並んだ。
均衡状態が6回に破れる。桐谷が4番村中に同点のホームランを許す。試合は振り出しに。さらに1.3塁とチャンスを作るも桐谷が何とか切り抜けた。
追いつかれた市山は直後の7回。主将紅林の勝ち越しホームランで突き放す。
9回裏疲れからかツーアウト満塁のピンチを招く桐谷。ここで投手交代のアナウンスが流れた。
「ピッチャー桐谷に代わりまして、高橋」
どっと歓声が響くの分かる。そう私は帰ってきたのだ。この舞台に。久しぶりの公式戦のマウンドは懐かしく感じた。
「何あの子。秋の大会の時には居なかったぞ」
「こんな場面で女出すなんて監督アホなのか?」
「よく見ろよ。めちゃくちゃ顔綺麗だぞ!俺ファンになる」
「見るところおかしいだろ。綺麗なのはフォームだ」
雑音が一切入ってこないほど私は集中していた。相手を圧倒する。昔のピッチングを思い出しながら…
無駄の無い洗練されたフォームから繰り出されるボールがバットに擦りすらせずミットに届く。三球三振。ゲームセット。
さらに湧く歓声。野球をやって良かったと思える勝利の瞬間。やっと私はスタートラインに立ったのだ。
3月20日市山高校入部後初勝利




