ライバルは今
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「何か秋って毎回投げる度に怪我か倒れてない?」
綾が呆れた感じで言ってきた。ううっ…言い返せない。手には大袈裟に包帯でグルグル巻きにされている。
はぁ〜と思わずため息をついた。利き手が使えないのがこれだけ不便だとは正直思わなかった。
授業でメモを取るのにも食事をするのにも一苦労だ。打球が当たった事を激しく後悔する。でもあそこで止めないと同点かもしれないし…と頭では切り替えるも実際には切り替えきれていない…とにかく憂鬱だ。
最後のボール…全力投球を完璧に石田君に捉えられた。芯に捉えられた打球が自分に飛んできて、体が勝手に反応して左手で止めにいってしまった。
当たった直後こそ、プレイ優先だったが時間が経つにつれて痛みが酷くなった。
けど正直痛みより、完璧に捉えられた事がショックだった。
あんなに完璧に捉えられたのは神宮大会の決勝の古川以来だ。未だにトラウマとして残っている。スクリューを捉えられてのサヨナラホームラン。
あと少しで掴めなかった頂点。今は切り替えてるからいいけど、あの時は何も考えれなかった。とにかく悔しかった。
そういえば古川は相変わらずの活躍してるのかな?全国強豪が集まる神宮大会で4本塁打を記録した逸材。
「天才」
彼にはその言葉が1番相応しい。50メートル5秒台、遠投120メートル、高校通算本塁打が1年にして32本塁打。中学時代は、U-15日本代表の4番も務め、夏の甲子園で名門北条高校でいきなり4番で2本塁打を放ちチームを優勝に導いた。マスコミに大きく注目され10年に1人の逸材と言われた。
そんな彼はどうしているだろうか…
★★★★
「隼!試合始まるぞ」
チームメイトが試合前に素振りをしている古川を呼ぶ。
「ああ。分かってる」
素振りを終えた古川隼は試合前にあの事を考えていた。あの悔しい経験を…
神宮大会が優勝に終わった。夏の甲子園を優勝し、レギュラーの7人が残って圧倒的な優勝候補として挙げられていた。
夏の優勝校として恥じぬ戦いで準決勝まで全ての試合5点差を付けていた。しかし決勝で思わぬ苦戦を強いられた。
決勝の相手、奈川高校のエース高橋が立ち塞がったからである。
エラー1つとポテンヒットの2本…9回のサヨナラホームランまでの内容である。完璧に抑えられていた。
最後のホームラン。ストレートで三振を取られていた中、打ったのはスクリュー。もしあそこで投げられていたのがストレートだったら…
結果的に4打数1安打、2三振。勿論、納得のいくものでは無かった。
勝ったとしても悔しさがチームに残っていた。なぜなら完勝を目指していたからだ。
神宮大会後、監督が配慮してくれて奈川との試合を組んでくれた。しかしマウンドに高橋秋斗の姿は無かった。
だが俺は高橋秋斗を信じている。あの試合の整列後の一言が忘れられないからだ。
「ホームラン!古川の打球はバックスクリーン一直線!」
練習試合でホームランを打った古川には笑みはない。
もっと上がいるから。ここで満足しては上にはいけない。
そう最後に高橋は
「……夏の甲子園。決勝で絶対にリベンジして勝ってやるから!」
試合後にリベンジを宣言された事が無かった俺にとって初めてのリベンジ宣言。思わず心が高鳴った。
「ああ。でも絶対に俺は負けない」
そう…高橋秋斗を古川隼は最高のライバルだと認めているからだ。




