強気
1点リードの7回表、悠のピッチングこれまで以上に気合の入ったピッチングだった。
流石にあのピッチングされると打つのは難しい。3人で攻撃を終えた。
「終盤キツくなると思うけど、頼むぞ。後、桐谷の球をよく打ったな」
望月君が声を掛けてくれる。
「うん。頑張る!実は中学の時は3番打ってたからミートには自信あるだー」
まあ本当は高校の時の話なんだけど…前進守備で本当に良かった。流石に今はパワーないし。
「そうなのか?それでも桐谷の球を打った事はすげえよ。まさにセンスの塊だな!って守備早く行かないと怒られるし行くか!」
「ありがとう。行こっか。」
そう言って走り出す。疲労を感じるがピッチングに影響するほどではない。
打者は5番の悠からだ。これまでの打席を分析するにドンドン振ってくるタイプ。
コントロールミスさえしなければ大丈夫。逆に言えばコントロールミスすれば長打になりやすい。丁寧に行かないと。
望月君のサインはストレート。首を縦に振り、モーションに入る。その瞬間バントの構えをする。
え?…バントに備えてダッシュする。悠はバットを引いた。球はストライクゾーンを通り、審判からストライクコールがされる。
それにしてもバントの揺さぶりはまずい。コレを連発される毎回ダッシュが必要な為、体力的には非常にキツい。
マズイことになったな。そう思っていると望月君がタイムをとってマウンドに来た。
「焦ってるのが丸分かりだ。一回息吸って落ち着け。もう3巡目だし投球スタイルを三振を取る配球に変えるからな。」
「うん!リード信じて私は投げるだけだし体力はまだ大丈夫だよ」
笑顔で大丈夫アピールする。ここを抑えれば次は打順も下位だし、頑張らないと。
「無理に笑顔作らなくていいぞ?後、三振取りに行くからサインに首を振っていいから。で、バントの構えが来てもダッシュしなくていいからな?」
「でもバントヒットになったら、意味ないんじゃ?」
「バントさせなければいいだろ?それに前進守備させるし大丈夫。
最終確認だけど体が無理だと思ったら言えよ。これは絶対だからな」
「うっうん。分かってる」
あまりにも、鋭い目線に思わず頷く。それにしても強気な捕手だ。
でも、楽しい。今の私なら何球でも投げれそう…そんな風に感じるほど気持ちが高ぶっていた。単純って事は分かってる。でもそんな事はどうでもいい。それぐらいボールを投げたいという気持ちが溢れ出ていた。
2球目にスクリューを投げた。この試合1回も投げていないボールに悠は大きく空振った。
周りがざわめいている。もっと投げたい…体が男の頃に戻った気分だ。体は女の子ままだけどそんな気がした。
結局この回三者連続三球三振で打ち取った。
「おいおい…いくら何でも凄すぎだろ…」
「ウチの野球部強豪クラスなのにそれをこれって…」
「あの桐谷が投げて負けてるじゃん…紅林さんと石田さんも出てるのに」
周りから驚嘆の声が漏れていた。
少し気分がいい。やっぱり自分のピッチングすると楽しい!
「まさかウチの打線がこうも簡単に抑えられるとは…左投手対策のつもりだっだが予想外だ」
監督がぼそぼそと呟いている。褒められると嬉しいな…少しニヤッとしていると望月君に睨まれた。
油断はダメだと言ってるような視線だ…気持ちをもう一回引き締める。
結局8回も両者無得点、9回表も悠抑えられ、9回裏を迎える。
先頭の2番を三振に抑えた。
あと2人。疲れは感じない。
バッターは紅林さん、初球のスライダーを強引にレフト前に持っていかれる。
流石紅林さんか…あれを持ってかれたら仕方ない。
ネクストから石田君がバッターボックスに入った。
ホームランならサヨナラ負けか。
ストレートのサインが出る。ここは意地で抑えてみせる。
「お手柔らかに」
石田君が声を掛けて来た。言葉とは裏腹に表情は真剣そのものだ。ここで回ってくるあたり持ってるだろうなぁと思う。
「こちらこそ」
簡単に言葉を返す。前回の対戦で抑えたストレートを内角高めに投げる。
しかし、私が投げたストレートを石田君のバットが芯で捉えた。
センター返し。
ライナー性の打球が左手首に直撃した。打球は勢いを失い、私の前に転がった。
左手首に激痛が走った。でも頭の中より先に体が動いていた。
すぐにボールを捕りセカンドに素早く送球した。セカンドも捕ってからファーストに送球し、審判からアウトコールと共にゲームセットのコールが聞こえていた。
更新遅くて申し訳ないです…