キャッチボール
「髙橋秋斗なんだろ?」
何で…バレた?でも平静を装わないと…ポーカーフェイスには自信ある。ここは何とか誤魔化さないと。
「私は髙橋秋だよ?」
桐谷はじっと見つめてくる。目を逸らしたら駄目だ。ここは意地でも見ないと。
何秒たっただろうか。やっと桐谷が目線を外して溜息をついた。
「そうか。ならいい。お前はじゃあ秋斗じゃなくて秋なんだよな?」
「うん。勿論。それに女の子になるなんて非現実だよ。それに神宮大会準優勝してるのに女の子になりたがるなんてあり得ないでしょ」
「……確かにそうか。でもお前の昨日のピッチング実はオレの友達が携帯で動画撮ってたらしくて見せてもらったんだよ。お前もエース危ないんじゃね。ってな。そしたら写ってたのは見た目とスピード以外はオレの知ってる髙橋秋斗だったからさ。つい気になったんだよ。」
「見た目とスピード違ったら、全然違うでしょ。」
笑って話す。そんなのあり得ないとばかりに笑って話した。
「…そうだよな。何やってんだオレ!」
桐谷も笑っていた。何とか誤魔化せたかな。やっぱりピッチングするのはリスクあるよな。今の髙橋秋斗との共通点は名前似てるのとピッチングだけなんだから…
「あっ忘れてたけど髙橋、野球部入らねえの?そんだけ出来るんだったら勿体無いし」
「そうかな?でもまだ転校したばっかりだし、今はやっぱりいいかな。気の迷いで試験を受けてしまった所もあるし。」
「そうか。なら今からキャッチボールしようぜ。どうせもう1時間目始まってるし!野球好きなんだろ?」
「いいよ。サボるのはどうかと思うけどキャッチボールしたいし!」
まあ純粋にキャッチボールしたい!!意外と私って単純なんじゃ…って気にしたら駄目だ!キャッチボールを楽しもう!
「じゃあ屋上でキャッチボールしようぜ。ホレ!グローブ!左利きなんだろ?」
そう言って桐谷は左用のグローブを投げた。グローブをはめて、キャッチボールが始まった。
昨日したはずなのに純粋に気楽に、野球を楽しむ事は久しぶりに感じた。昨日は本気だったし、奈川でも勿論、常に勝つ事を優先してた気がしたから。ほんの数十分のキャッチボールだった。でもそれは私にとってはとても楽しいものだった。
時間が過ぎるのも早いもので1時間目の終了をつげるチャイムが鳴った。
「じゃあこれぐらいにしとくか。それにしても動画の時は無駄のない感じだったのに。まあ顔までは見えて無かったんだけど、今日のキャッチボールはとても楽しそうだった。笑顔の時が多くて……その可愛かったよ。」
「うん?何か言った?」
キャッチボールに夢中で聞こえて無かったんだけど…
「それに顔も赤いけど…疲れたの?それとも体調悪いとか?」
「いや何でもない。忘れてくれ!」
結局何だったんだろう。それにしてもいい気分転換出来た。
「? じゃあ取り敢えず教室行こっか。」
時間も無いので、少し急いで教室に戻った。まあ桐谷もいい奴な感じがする。まあ勘だけど。定期的にキャッチボールしてくれたら嬉しいんだけどなー。春香は運動音痴だし。
教室に着くと何故か注目を浴びた。何でだろう?
「おい!桐谷…もしかして抜け駆けしたんじゃないだろうな?」
周りの男子から桐谷は何か話してるみたいだどうしたんだろう…
「まっ待て!オレは何もしてないし、誤解だ!なあ、髙橋!何もしてないよな?」
「あー私の事は秋でいいよ。私も悠って呼ぶから。まあ何もしてないかな。ただ悠は私を楽しませてくれただけだよ。」
……周りが一瞬静まる。アレ?私そんな変な事言ったか?わざわざグローブまで持って来てもらうほど気を遣ってもらったし。
「あれ?私変な事言った?」
首を傾げる。まださっぱり分からない…綾と楓が急いでこっちに来た。
「秋!何を楽しんだの?」
屋上でキャッチボールってバレたら怒られるんじゃ?
「言わなきゃ駄目?」
さらに周りはザワついている。何だこの空気は…
「秋。言わないと駄目。」
楓が珍しく自分の主張が強い。ここまで来たら言わないと駄目か。悠も何かさっきから振り回されてボロボロだし…
「屋上でキャッチボールしてたんだよ。でも屋上でしてたのたバレたらヤバそうだから秘密だよ。」
周りからは歓喜?の声が上がった。何なんだ…とにかく、被害が及ばない事を願う。今日はゆっくり過ごすと決めているし。
「はぁ…」
楓と綾に溜息をつかれる。どうしたんだ?
「どうしたの?」
「秋が天然って事。」
楓に天然って言われた…楓に…少し落ち込んで綾にフォローを貰おうと視線を向ける。
「流石にフォローの仕様がないわよ。」
また綾に溜息をつかれるのだった。
キャッチボールしたいですねー!またまた御意見、感想等どんどんお願いします!




