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中編

なんだかんだで前中後編になりそうです。

 “儀式”のルールは至ってシンプルだ。だからこそ、都市伝説としてあれだけ拡がったのかも知れない。

 今時の中高生ならばかなりの人が持っているだろう、携帯電話。その端末以外に用意する物は何もない。

 十人の人間で集まり、円形に並ぶ。そうして、同時に各々《おのおの》が隣の人に電話をかけるだけだ。こうすると、全員が通話中になる筈なのだけれど、上手くいけば一人の携帯が何処かに繋がるのだ。その繋がった相手こそが怪人アンサーである。

 怪人アンサーは、どんな質問にも的確な正解を教えてくれる。例えば、誰其れの好きな人は誰であるとか、この試験には合格するか否か、だとか。

 それはあくまで答えであって、恐らくそれ以上の物ではない。未来予知でもない代わりに、明確に定義された答えである。だから、それと言うのは変えることが出来ない結末の様な物、なのかも知れない。どう足掻いたって未来ではなく結末なのだから。

 例えば、小説を思い浮かべて欲しい。何でもいい。物語性があれば、桃太郎でもいいし、果てしない物語でもいい。兎に角、物語だ。

 物語は、それ自体が変化しようもない物だ。結末が決まっているのだから。まだ完結していない場合だってあるだろうが、それだってあくまで完結していないだけで、区切りごとに結末は決まっている。シリーズ物の小説だとしたら、一巻には一巻の、二巻には二巻の、という様にその巻ごとに結末は決まっていて、それは作者にしか変えられない。作者が書き直した場合のみ変えられろものだ。連載している漫画だって、その週や月ごとに作者が結末を決めている。

 話が多いに逸れたが、詰まり結果、結末は変えられない、と言う話だ。それだけでも、怪人アンサーは恐怖に値する。

 だが、怪人アンサーの本質的な恐怖は寧ろここからである。怪人アンサーは、その場にいる全員の質問に答える訳ではないのだ。怪人アンサーは、“儀式”を行っている人間の内の一人には逆に質問をしてくる。その質問というのが恐ろしく難しく、例えば、西暦2532年の10月18日は何曜日か、なんていう実に突拍子もないものばかりなのだ。この質問に答えることが出来れば、何も問題はない。だが、ここまでくると当てずっぽうで答えてもなかなか当たる様な物ではない。そして、これに答える事が出来なければ、質問された人間の体のパーツを持っていかれるのだ。その際、その人間は運が悪ければ死に至る事もある。

 怪人アンサーというのは、元は奇形児である。生まれつき頭の部分しかなく、直ぐに死んでしまった。それ故に、残りのパーツを揃えて完全な人間になる為に、このような事をするのである。


    ◇


 かつての俺達は、ほんの冗談のつもりで“儀式”をした。してしまった。どうせデマだろう、なんてたかをくくって。その時はただ退屈な毎日が続くものだから、だんだん日常というものに飽きてきたのだ。だから、本当に軽い気持ちで。

 昔だったら、そう。コックリさんなんてものが流行っていたっけ。大筋では怪人アンサーと変わらないけれど、コックリさんの方には何と言うかスリルがない。コックリさんは、適切に行いさえすればリスクが全く無いのだ。儀式を止めるまで十円玉から指を離さない、止める為の段階を踏む。この辺りを気を付けて行えばそれ自体は悪影響になりそうもなく、正直言ってつまらなそうだった。

 でもそこで、憐が見つけたのだ。こんな俺たちにぴったりな、それ自体にリスクがあってスリリングな「都市伝説」を。

 俺達は早速、その日の放課後に“儀式”を行った。“儀式”の事で分からない事があれば、それこそ携帯電話で調べれば情報は得られた。便利な世の中になったものだ、とその時は単に思っただけだった。

 それは実は、かなり恐ろしい事であり、「都市伝説」はそれこそ携帯電話やインターネットの普及によって爆発的に広がっていった節があるのは自明の理だ。怪人アンサーに限らず、携帯電話が元となった「都市伝説」も勿論、ある。例えば、メリーさんなんかがそのいい(わるい)例だ。


 “儀式”は、あっさりと成功した。俺の携帯が何処かに繋がったのだ。冗談だと思いたかった。何かの悪い冗談だ、本当にそう思いたかったけれども、事実、電話口からは変声機でも使った様な低い声が話しかけてくる。

『私が怪人アンサーだ……。“儀式”により、お前達の下に召喚された。さあ、何でも質問をするが良いさ。

 尤も、私を召喚したという事はそのリスクも承知の上だという事の証明にほかならぬという事ではあるが、その辺りの覚悟は出来ているかね?

 冗談半分で私を呼び出したのであれば、このままこの通話を切るのをお薦めするがね? 私とてニンゲン風情ふぜいに召喚されるのはいささか不本意であるし、何よりお前達には何の得も無い、生産性が皆無な“儀式”がこれであるからな。

 いやなに、特にこれはお前達を救う為の措置というものでは全くなく、この電話を切った途端お前達の意識は無くなり、命も無くなるというだけの話なのだがね。

 ――――嗚呼、これは冗句だと、お前達は思っているかね? いや実に残念だ……私としては、お前達に怪人アンサーという「都市伝説」を否応無く認識させる為の手段が無い訳ではない。お前達は未だにこれを悪戯か何かだと思っているか? 宜しい、ならば……私を信じさせてやろうではないか、いや全く、実に残念だよ』

 ヤツの言葉は、この時本当に信じられなかったのだ。けれども。


「ひ――――――――――――ぁ、」

 隣からそんな怯える様な声が聞こえたかと思うと、刹那、それは断末魔の様なそれに変じた。


「ああああああああああああああああああああああッ!? 痛、ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 まだ、人語の域に悲鳴があった時はマシだったのかも知れない。


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!」


 俺は目を、耳を塞いだ。見るのも聞くのも限界だったのだ。隣に今までいた仲間が、人間だった、生き物だったモノになっていた。

 彼の足は、携帯電話の画面から出てきたナニカに引き千切られていた。否、轢き千切られていた。

 俺は胃の内容物を吐き出していた。ここまでよく耐えた、と思う。仲間達はほとんどが逃げ出していた。当然だと思う。こんな場所にいられる方が、異常なのだろう。いくら映画やドラマ、ゲーム、アニメ、小説なんかでグロテスクなものに耐性があろうと、これは無理だ。それらはあくまでフィクションの世界なのだ。そんな物で本物には到底及ばない。臨場感がないのだ、あれらには。

 実際に事故や事件の現場を近くで見たことがある人には解るかも知れない。飛び散る血液。肉片。そして立ち篭める鉄の様な匂い。人間の本能からそれは耐えられる物では本来ないのだ。目の前ではアンサーがぎ獲った足を画面の中に引き摺り込んでいる……。また吐いた。もう胃液しか出なかった。

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