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前編

作者は決して文章が上手い訳ではありません。その辺はご容赦下さい。連載という形にはしていますが、続くとはいっても前中後編までです。今のところ前後編で考えています。また、ジャンルとしてはホラーですが、言うほどホラーではありません。

 怪人アンサーは携帯電話を用いた儀式で呼び出せる怪人。10人が円形に並び、同時に隣の人に携帯電話を掛けると、すべてが通話中になるはずである。ところが、一つだけ別のところにつながる電話がある。それが怪人アンサーだ。 呼び出せばどんなことでも答えてくれるが、最後にアンサーから質問してくる。問題に答えられないと携帯電話から「今から行くね」と声が聞こえ、決して逃げることはできず体の一部分を引きちぎられてしまう。アンサーは頭だけで生まれてきた奇形児で、そうやって体のパーツを集めて完全な人間になろうとしているから。

引用元 http://ja.wikipedia.org/wiki/怪人アンサー 最終更新 2011年11月17日 (木) 10:24






 ……耐えられなくなって、俺は会社を辞めた。

 もともと、会社のやり方が気に食わなかったのだ。だから俺は、これでいいんだと自分に言い聞かせながら勤め先だった会社を後にした。

 部屋に帰ると、俺はグッタリとソファに座り込んだ。今はただただ、柔らかなソファが心地よかった。


    ◇


 ――夢を見た。不思議な夢だ。


 俺は、高校時代に仲間数人で「怪人アンサー」とか言う都市伝説に出てくる儀式を行ったことがあった。あの時はほんの冗談のつもりで始めたのだが、結果は仲間の死を以って示された。それはそれは、悲惨で凄惨な死だった。肉片が周囲に飛び散り、飛び出た眼球にはびっちりと血管が浮かび上がっていた。

 そして、彼の携帯電話の画面は。

 内側から何かで殴り付けられたかのような割れ方をしていた。

 前置きが長くなったが、つまりその夢と言うのは、俺が彼のように殺される夢だった。いや、これだけならば不思議とは言えないだろう。

 だが、俺はその時確かに「彼」だった。完膚無きまでに彼だったのだ。携帯の画面が内側からヤツの手により割られていく様や、殺そうと迫ってくる顔さえリアルに感じた。

 実体験もないのに何を、と思うかもしれないが、確かに俺はリアルだと認識した。何故なら、そこには溢れ返る血、血、血、血――圧倒的な暴力だった。言葉の暴力、なんて言葉もあるが、そう、それは正に視覚の暴力とでも言おうか。いや、だから実際夢とは言え俺は殺されている訳なのだが。


    ◇


 目が()めると、俺は全身に汗をかいていた。

「……なん、だ……夢か」

 という言葉が、俺が最初に発した言葉だった。喉が(かわ)き、上手く声にはならなかったが。

 俺は、夢で見たあの事について何かよくない予感がしたので、当時の仲間に連絡を取ることにした。あの夢が網膜の裏側に張り付いて、がれない。嫌な予感しかしない。


    ◇


『――この電話番号は、現在使われておりません』

 人工合成音声が(むな)しく電話口から音を紡ぎ出す。くそ、これで三人目だ……。

 俺は再び心を落ち着ける為に、深呼吸をした。これが何かの間違いであって欲しいと願う。

 ――そうだ、あいつらは屹度(きっと)電話番号を変えたんだ。でなければ、繋がらないなんておかしいじゃあないか。

 そんなことを考えながら、しかし嫌な考えは止まってくれなかった。

 カチカチカチカチ――――知らない間に俺は震えていた。歯が上手く噛み合ってくれない。


 ――――プルルルルルルルルルッ


 突然、俺の携帯からけたたましい音が鳴り響いた。着信音だ。仲間のうちの誰かかも知れない。

 俺は、緊張しながら携帯の画面を覗いた。そこには『着信中』の表示と共に、有り得ない電話番号が並んでいた。こんな番号は知らない。何せ、数字が一つも無いのだから。

 出てはならない、本能がそう告げる。けれど、ここで出なければ何かが(おわ)る、そんな気がした。


「――――…………もしもし」

『もしもし、ご無沙汰だね。怪人アンサーだよ』

 電話口からは、変成器で無理に低くしたような、それでいて不自然さの無い声が聞こえた。

 ――来やがった。俺は何となくこうなる予感がしたのだ。待つのは死か、或いは絶望か。

「い、今更お前が俺に何の用だ? 俺達はもう儀式を止めたんだッ。十年も経って一体何があるってんだよ……!」

『なぁに、簡単な事だ。君達にもう一度、その“儀式”をして貰いたいだけだ』

 俺は膝から崩れ落ちそうになるのを堪えた。

「…………るな……」

『何か言ったかね?』

巫山戯(ふざけ)るなッ! 何が望みだ! もう……俺達に関わるなよォッ!!」

 俺は声の限りに叫んだ。叫びすぎて途端に咳き込んでしまう。

 だが、そんな精一杯の叫びですら、彼(男なのかは解っていないが)には通じない。


『望みなど無い。もっとも、お前達には希望(のぞみ)が無いだろうがな。今から、お前にもこちら側に来て貰うとしよう。お前の仲間がお待ちかねだぞ?』


 最後に聞いたのは、そんな言葉だった。


    ◇


「――ここ、は」

 俺は意識を覚醒させた。自分が小さな部屋にいることに気付く。薄暗い空間には恐怖が渦巻いているかの様だ。何故だかそんな気がした。

「……俺は……死んだのか?」

 何て独りごちてみる。けれど、矢張り返り事は無い。

 俺は急に、何か大切な事を忘れているかの様な感覚に襲われた。何だろうか。思い出せない。

 そう言えばと携帯電話を探すと、ご丁寧にも部屋に唯一有る窓の近くに置いてあった。外からの光が反射し、何だか神々しいな、と間の抜けた思考をしてしまう程だった。


 ――――プルルルルルルルルルッ


 少し気を抜いていると、着信があった。どうせまた(いや)な知らせなのだろう。普段は手から離せないその端末が、今は只々憎らしかった。こんな物が無ければ、俺は。

 いや、今は考えても詮無いことだ。ヤツは“儀式”をしろと言ったのだ。俺だって無策な訳ではない。

 最初で最後だった筈の“儀式”の後、俺は考えた。アンサーを、ヤツを追い詰める方法が有るのかも知れない、と。

 あらゆるパターンを考えた。アンサーの質問に答える事が出来る様に、凡ゆる知識だって叩き込んだ。仮令どんな質問が来た所で、俺には答えられるんだ、と言う確たる自信を持つしか無い。どの道答えられなければ死ぬのだ。分からなければダメ元で答えるより仕方が無い。

 俺は静かに立ち上がると、やかましく騒ぎ立てる端末を手に取り、通話ボタンを押した。

「――もしもし」

『やあ。目が醒めたかい? 怪人アンサーだよ』

「あぁ、お陰でバッチリ目が醒めたさ。さっさとやろう。俺は早く帰りたいんだ」

 せめて相手をひるませよう、そんな矮小わいしょうな理由から俺はそんな事を口にしてみた。だが矢張り体は誤魔化せない様で、膝は今にも折れてしまいそうな程に震えていた。

『そうかい? 丁度お前のお仲間が八人揃った所だ。尤もお前が最後だったのだがね。

 さて、あと一人足りないが、まぁ人数はさして重要ではないさ。そも、この“儀式”はあくまで都市伝説の具現であり、私たち「本物の怪異現象」、或いは「根源」には関わりが無いに等しい。偶然にもその存在様式や性質が一致しているが故に、便宜上べんぎじょうその名を使わせて貰っているだけだ。

 ……なぁに、その事によってお前達が気にしている様な「名称付与による力の向上」等と言う物は存在しないから安心したまえ。まぁ、強いて言うならば存在が安定するくらいか。

 一つお前達の救いになる事を言えば、これはチャンスなのだがね? 何せこっちは安定性を手にした代わりに、名前で定義された以上の力は行使出来ないのだから。種の解っている手品を披露する様なものだろう?

 どちらにせよ、種が解った程度では私には太刀打ち出来ないだろうがね』

「……御宅ごたくはいいから、早く始めようぜ」

『やれ、全く元気のいい奴だ。お前は。

 ――そこで待っていろ、じきにお前のお仲間を連れてくるさ』


    ◇


 程無くして、俺は過去の仲間達と再会する事になった。久々の再会ではあるのだが、今は一々喜んでいる場合ではないし、何より皆にそんな余裕は無かった。

 否、一人だけ勝利を確信している顔の奴がいる。彼は俺の一番の親友で、名前を飛沫憐しぶきあわれと言う。俺なんかとは違い、非常に頭の切れる奴だ。確かに、彼なら或いは、なんて考えが脳裏に浮かぶ。やがてそれは明確なヴィジョンとなり、俺は少なからず安堵あんどした。如何な怪人と言えど、彼なら何とかしてくれるだろう。そんな確信めいたものが俺の中に生まれる。……憐がいればもう勝ったも同然だ。

 彼は学生時代から勝負事に関して負けることはほぼ無い。それは、彼が周囲と比較してもずば抜けている能力の持ち主だからだろう。故に俺は、彼の敗北を知らない。これは、絶対的な自信になった。

 彼だって、唯一の敗北たる、あの時の“儀式”の事を悔いて、何か対策を練っているのかも知れない。だったらそれは、俺たちの勝利だって夢ではないのだという事にほかならないじゃないか。

 仲間達も、憐の表情と俺の表情を交互に見て、段々と希望を持ってきている様だ。目に光が戻ってきている。

 俺は、自信と確信を持って、アンサーに告げる。

「ゲームを始めよう」


 ――こうして、“儀式”が始まった。

 この時、俺達は誰も、あんな事になるなんて夢にも思わなかったのだ……。

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