物語の主人公を自称する冒険者と組むことになりました
本作が初投稿になります。誤字・脱字があったり、文書表現がおかしな所があるかもしれませんが、読んで下さるとうれしいです。
街の広場の片隅に、一人の少女が立っていた。
深い紫のローブに、先のとがった帽子。いかにも“魔女っぽい”服装だ。
シェリーは手に持った杖をぎゅっと握りしめ、小さく息を吐いた。
「今日こそ、パーティを組んでクエストに挑戦するんだ……!」
彼女の名前はシェリー。十六歳。
病気の母を支えるため、冒険者として報酬を得ようと日々クエストに挑戦している。
しかし──その意気込みとは裏腹に、仲間になってくれる者はなかなか見つからなかった。
「はぁ……誰もパーティに入ってくれないなぁ……」
広場の掲示板を見上げながらため息をついたそのとき、背後から明るい声がした。
「また一人でクエスト受けようとしてるの? 懲りないねぇ、シェリー」
振り返ると、そこに立っていたのはカノだった。
シェリーの親友であり、同じ魔法学院を卒業した天才魔導士だ。
火・水・風・光・闇──さらに回復魔法まで使いこなす万能型。どのパーティからも引く手あまたの存在である。
「一人でもクエストに挑戦してみたけど、全然うまくいかなくて……報酬ももらえないし」
「そりゃそうだよ。前回だって、爆発オチで森ごと焼き払ったじゃない」
「うう……あれは、ちょっと魔力の調整をミスっただけで……」
「ちょっと、ねぇ」
カノは苦笑した。
それに比べて、シェリーが使えるのは“火”の魔法だけ。
威力こそあるが、数発撃てば魔力切れ。しかもコントロールもあまり良くない。
誰もパーティを組んでくれないのも、無理はなかった。
「もう、誰でもいいから組んでくれる人いないかなぁ……」
「そういえば、パーティ募集してる人がいたよ」
「えっ? 本当!? 誰?」
「確か……ユウって人」
ユウ。その名にシェリーは聞き覚えがあった。
一人で数々のクエストを成功させてきた実力派の冒険者。
魔法も剣術もそこそこ使える、いわば“バランス型”の戦闘スタイル。
「そんなに優秀な人なのに、なんでパーティメンバーが集まらないんだろう?」
「うーん……実力はあるんだけどね」カノは言葉を濁す。
「ちょっと……変な人なんだよね」
「変な人? まさか悪いことしてるとか?」
「ううん、そういうのじゃない。ただ……まあ、あんまりおすすめはしないかな」
カノは時計を見て肩をすくめた。
「ごめん、クエストの集合時間! あんたも気をつけてね!」
そう言い残して人混みの中へ消えていった。
残されたシェリーは、胸の前で杖を握りしめ、ぽつりとつぶやいた。
「……変な人、か。どんな人なんだろう」
少し考えたあと、彼女はきゅっと唇を結んだ。
(でも、私は母さんの薬代を稼がなきゃ……怖くても、やるしかない)
決意を固めたシェリーは、冒険者たちにユウの居場所を尋ね、彼のいるという喫茶店の前へと足を運んだ。
⸻
木製の扉を押し開けると、奥の席で一人の青年が脚を組んで座っていた。
茶色の髪を無造作に束ね、腰には剣、机の上には魔導書。
年はシェリーより少し上くらいだろうか。
「……あっ、いた」
近づこうとしたそのとき、ユウの独り言が耳に入った。
「はぁ〜……ヒロインが欲しいぜ。上位ランカーにはなったけど、一人じゃ全然盛り上がらねぇ。俺は主人公なんだから、ヒロインの一人や二人いてもいいだろ〜!」
シェリーは足を止め、引きつった笑みを浮かべた。
(……変な人って、こういう意味だったのね)
一瞬、踵を返そうとしたが、すぐに首を振る。
(いや、今さら引けない。やばかったら、そのとき抜ければいい!)
腹をくくったシェリーは、一歩踏み出して声をかけた。
「あの、パーティに入れてもらえませんか?」
ユウはビクッと肩を跳ねさせ、勢いよく振り返った。
「おおっ!? ヒロイン枠、来たぁぁぁ!! 運命イベント発生ぅぅぅ!」
そのテンションに、シェリーは若干引きつつも笑ってごまかした。
「え、えっと……よろしくお願いします?」
「おっと、その前に確認してもいいかな?」
「えっ、はい」
ユウは真剣な表情になり、指を立てた。
「まず君の得意分野は?」
「あ、えーっと……火の魔法が得意です。他の魔法は使えなくて」
「おっ、属性特化型か! いいね、キャラも被ってないし、パーティバランス的にも映える!」
「じゃあ次。弱点は?」
「えっと……火力は高いけど、数発しか撃てないのと、コントロールが悪いです」
「なるほど、癖っ子キャラだな……いい、むしろ燃える!」
シェリーは苦笑した。
(本当にこの人、大丈夫かな……)
「最後の質問なんだけど──なんでクエストをやろうと思った?」
「あ、えーと……母が病気で、その治療費を稼ぐために……」
「……尊い!!」
ユウは感動したように両手を合わせた。
「理由も明確! 動機に涙! 性格も他人思い! 完璧すぎるだろ……! 俺、今日この瞬間、物語の転機を迎えた気がする!」
「じゃあ……パーティに入ってもいいんですか?」
「もちろん! 大歓迎だよ! 最高のヒロインを手に入れたぜ!」
あまりに素直な喜びように、シェリーは苦笑を漏らした。
(変な人に関わっちゃったなぁ……でも、ここまで“必要”って言ってくれた人、初めてかも)
「あの……これからよろしくお願いします」
「よろしく! ──で、一つだけ大事なことを言っておこう」
「えっ? なに?」
ユウは立ち上がり、胸に手を当てて堂々と宣言した。
「俺は主人公だ。そして君は、ヒロインだ!」
「……あ、ははは」
シェリーは引きつった笑みで応じるしかなかった。
(この人と組んで……本当に大丈夫なんだろうか?)
「よし、パーティもできたことだし──クエスト始めようか!」
ユウが勢いよく立ち上がった。
「えっ、いきなりクエスト? 準備とか大丈夫なの?」
「母の薬代が欲しいんだろ? それなら早めに稼がないとね。」
その言葉に、シェリーは思わず口をつぐんだ。
(……確かに、そうなんだけど)
ユウはカウンター横の掲示板に歩み寄り、貼られた依頼書を片っ端から眺め始めた。
「んー、どのクエストにしようかな〜」
依頼書を指でなぞりながら、独り言をつぶやく。
「なになに……薬草を集めるクエスト? うーん、せっかくパーティを組んだのに薬草集めは地味すぎるな。物語的にも映えないし──なし!」
「……物語的?」
シェリーが小声でつぶやくも、ユウの独走は止まらない。
「こっちは……ドラゴン討伐? うわ、出た! テンプレの極み! クエストといえばドラゴンって、それもう“定番”通りすぎて逆に面白くないんだよなー。報酬はいいけど、はい却下!」
シェリーは思わず眉をひそめた。
(クエスト内容でここまで悩む人、初めて見た……)
「お、これはどうだ?」
ユウが一枚の依頼書を指さした。
「“森に潜むスーパーベアーの討伐”……ネーミングセンスはアレだけど、報酬もそこそこ。初めてのパーティにはちょうどいいんじゃないか?」
「えっ、いきなり討伐クエスト!? もっと簡単なのから始めたほうが……」
「クエストといえば戦闘だろ! アクションがないと視聴者が飽きちまう!」
「視聴者……?」
「ってことで、決まり! 討伐! 討〜伐〜♪」
上機嫌に歌うユウを前に、シェリーは額に手を当てた。
(……想像以上にやばい人だった。でも、報酬はもらえるんだし……やるしかない)
「なにをぼーっとしてるんだ、シェリー!」
ユウが手招きする。
「ガイドさんにクエスト申請してくるから、君も来て!」
「は、はい!」
シェリーは慌ててその背中を追いかけた。
(ほんとに大丈夫かな……初クエスト、いきなり討伐なんて)
けれど、その胸の奥では、ほんの少しだけ──
(……でも、なんだかワクワクするかも)
そんな気持ちが芽生えていた。
「このクエストを受けたいんですが」
ユウが依頼書を掲げて言う。
「スーパーベアーの討伐ですね。」
受付カウンターの向こうで、ガイドの女性がにこやかに答えた。
「スーパーベアーは非常に攻撃的で、鋭い爪と怪力を持っています。接近戦の際は十分注意してくださいね。」
「へぇ〜、そんなことまで教えてくれるんだ?」
ユウが感心したように言うと、ガイドは胸を張った。
「もちろんです。少しでもクエストの成功率を上げるため、私はモンスターの強みも弱点もすべて把握しています!」
自信満々な口ぶりに、シェリーは小さく「頼もしい……」と呟いた。
「よし、申請も終わったことだし──早速始めるとしますか」
「えっ、もう? あ、はい!」
シェリーが慌てて返事をした、その瞬間。
「──あっ、ブラックベアーとの戦闘までは面白くないのでカットで」
「えっ? 何言っ──」
⸻
― 森 ―
「おっ、早速スーパーベアー発見!」
ユウが剣を抜きながら声を上げた。
「えっ!? ちょっ、えっ!? いつの間に森にたどり着いたの!?」
シェリーはあたふたと辺りを見回す。
(さっきまでギルドにいたのに!? どういうこと!?)
「よし、作戦を伝える!」
ユウは真剣な表情で指を立てる。
「俺が前線で動きを止める。君は魔法でとどめを刺すんだ!」
「え、えっ……あ、はい!」
言われるがまま、シェリーは杖を構えた。
ユウは木陰からそっと身を潜め、スーパーベアーの背後に回る。
呼吸を整え、渾身の力で跳び出した。
「うおおおおっ!!」
剣が唸りを上げ、スーパーベアーの足に直撃──
……した瞬間、**バキィッ!**と嫌な音を立てて折れた。
「はぁ!? おいおいおい、聞いてねぇぞ! スーパーベアーがこんなに硬いなんて!」
ユウは慌てて後退しながら叫ぶ。
「あのガイドめ、自信満々に“全部把握してる”とか言ってたくせに! 後でクレームつけてやる!」
怒鳴る間もなく、スーパーベアーが咆哮を上げ、巨大な爪を振り下ろした。
ユウは地面を転がり、紙一重でかわす。
「やっべぇ! これ当たったら普通に死ぬやつじゃん!」
シェリーは顔を青ざめさせ、慌てて杖を構えた。
「ま、待って! 今、援護するから!」
炎の魔力を集中し──放つ。
しかし、コントロールが悪く、弾道は見事に外れた。
「ちょ、方向ずれて──!」
次の瞬間、轟音が森全体を包む。
ドォォォン!!
爆炎が木々を薙ぎ払い、衝撃波が地面を揺らした。
煙が晴れた頃、あたりは──半壊した森の残骸だった。
ユウは呆然と立ち尽くし、焦げた剣の柄を見つめた。
「……あのさ」
「ご、ごめんなさいっ!!」
シェリーは必死に頭を下げる。
「いや、いい。むしろ……」
ユウはにやりと笑った。
「今の、めちゃくちゃ“絵になる”展開だったな!」
「……え?」
「爆発ヒロイン! うん、最高だよ君! 物語的に完璧すぎる!!」
「う、うれしくないよそれぇぇぇ!!」
轟音の余韻が消えた森の中。
焦げた木の匂いが立ちこめ、倒木の隙間から白い煙がゆらゆらと上がっていた。
「さて──そんなことより、スーパーベアーどうするかだな。」
ユウが折れた剣を見つめながら呟いた。
「剣はこの通り。俺の魔法じゃ、あの巨体を倒せないだろう。」
彼はシェリーの方を振り返る。
「シェリー、あと何発撃てる?」
「……あと、一発だけです。」
「一発か。なるほど……」
ユウは腕を組み、しばし考え込む。
「これは、絶対的にピンチ。打開策を考えるんだ、俺!」
数秒の沈黙。
やがてユウの目がキラッと光る。
「──あっ!」
「なにか、いいアイデアが浮かんだの?」
シェリーが期待の眼差しで尋ねる。
「ダメだ、まったく思いつかん! 俺、頭脳派主人公じゃないからな!」
「えぇぇぇぇぇぇ!」
「ってなわけで──一旦、逃げるぞー!!」
「う、うそでしょ!?」
二人は慌てて森の奥へと駆け出した。
しかし──
「きゃっ!」
シェリーが足をもつれさせ、地面に転んだ。
「おいおい! 逃走中に誰か一人転ぶ展開よくあるけど、今は要らないぜぇぇぇ!」
ユウが叫ぶ。
シェリーが立ち上がろうとしたその瞬間。
背後で、獣の低い唸り声が響いた。
振り向くと、そこにはスーパーベアー。
鋭い爪を振りかざし、今にも襲いかかろうとしていた。
「──あ、もうダメ……」
シェリーは目をぎゅっと閉じた。
ズバッ、と空気を裂く音。
そして、鈍い衝撃音。
……痛みは来なかった。
「え……?」
目を開けると、目の前にはユウの背中。
その胸元は深く切り裂かれ、鮮血が滲んでいた。
「ユウっ!!」
ユウは苦笑しながら、膝をつく。
「はは……まさか、こんな展開になるとはな。……ゴフッ」
「どうして庇ったの!? 私のせいで……!」
「いいんだ。……でも、見てみろ」
ユウが顎で指した先には、スーパーベアー。
その足が凍りつき、動けなくなっていた。
「たぶん……俺の魔法が、うまく作用したんだな。今のうちに……やれ」
「で、でも! ユウの傷が! 血が止まらない!」
「俺のことは気にするな……。動けるうちに倒さないと、全滅だぞ……!」
「……でも、私なんかにできるわけないよ。コントロールも悪いし、あと一発しか……!」
ユウは弱々しく笑った。
「大丈夫。君なら、いける。……コントロールが悪いのは、焦ってるだけだ。倒すことだけに集中して──狙え。」
目を閉じながら、かすれた声で言う。
「頼んだぞ……ヒロイン……」
その言葉を最後に、ユウの体が静かに崩れ落ちた。
「ユウっ!!」
シェリーの叫びが森に響く。
涙が頬を伝い、杖を握る手が震えた。
(私のせいで……でも、もう逃げない)
(ユウが繋いでくれたチャンス、絶対に無駄にしない!)
「──絶対に倒す!」
シェリーは叫び、杖を構える。
「いっけぇぇぇ!!」
放たれた炎が、一直線にスーパーベアーへ突き進む。
今度こそ、ブレない。
その一撃は、見事に命中した。
轟音とともに、眩い閃光が森を照らす。
炎が獣を包み込み、スーパーベアーは断末魔の咆哮を上げた。
そして──跡形もなく、黒い灰となって消えた。
炎が消え、静寂が戻った森。
黒く焦げた地面に、シェリーは呆然と立ち尽くしていた。
「……た、倒した……」
その言葉を絞り出した途端、シェリーはその場にへたり込んだ。
「初めての戦闘で……ユウを、死なせてしまった……」
シェリーは震える手でユウの元へ歩み寄る。
「ユウ、ごめんね……」
頬を伝う涙が、ユウの胸の傷口に落ちた。
その瞬間――
眩い光がふっと灯り、裂けた傷がみるみるうちに塞がっていく。
「えっ!? な、なにこれ!?」
シェリーは目を丸くする。
そして――ユウのまぶたが、ピクリと動いた。
「おっ……この感じ、上手くいったみたいだな。」
ゆっくりと起き上がるユウ。
「ぜ、全快してる!? なんでピンピンしてるの!?」
「ふっ、これが“主人公補正”ってやつさ。」
「主人公補正……? まさか、それってスキルなの?」
⸻
スキルとは
人それぞれに与えられた特別な能力。
シェリーは【火属性魔法の威力上昇】。
カノは【全属性適応(なんでも使いこなせる)】能力を持つ。
⸻
「スキル、ね。」ユウは笑う。
「今まで誰にも教えなかったけど……パーティも組んだし、そろそろ教えておくか。」
「えっ、教えてくれるの!?」
「俺のスキルは――」
その瞬間。
森の奥から、ズシン……ズシン……と地響きが鳴り響いた。
「えっ、まさか……!」
木々の影から、もう一匹のスーパーベアーが姿を現した。
「お、おいおい! 今出てくるのはおかしいだろ、空気読めよっ!」
「どうしようユウ! 魔力ももう残ってない!」
「しょうがない、尺もないし──ちゃちゃっと仕留めちゃいますか!」
「し、仕留めるってどうやって!?」
「まぁ見てなって。せっかくヒロインが活躍したんだ。次は主人公の番だろ?」
ユウが折れた剣を構える。
その刃が──まばゆく光りだした。
割れたはずの剣が再び形を取り戻し、王族の剣のように荘厳な輝きを放つ。
「おおっ! かっこいい剣になったな! しかもエフェクトまで完璧!」
ユウがニヤリと笑う。
「行くぜ――光刹斬ッ!!」
剣を振り抜くと、眩い光の斬撃が飛び出し、スーパーベアーを一瞬で真っ二つにした。
光の刃はそのまま彼方の空へと飛んでいき、雲を割る。
風が止む。
静寂の中で、ユウが剣を肩に担いだ。
「……よし。必殺技、決まったぜ。」
ぽかんとするシェリー。
「これも……スキルなの?」
「あー、そうだな。これも俺のスキルの一部ってことにしておこう。」
ユウは得意げに頷く。
「よし、邪魔者もいなくなったし、改めて教えよう。俺のスキルは――」
「なに!? スキルは!?」
ユウが何かを言いかけた瞬間、どこからともなく声が響く。
『――文字数的に長いから、スキルの発表は次回にしろ。』
「……はぁ? マジかよ!?」
ユウが天を仰ぐ。
「すまんシェリー、スキルは次回だってさ。」
「えぇぇぇ!? 気になるのにぃ!」
「というわけで、俺のスキルは次回発表! お楽しみに!」
自分を“主人公”と名乗るユウと、彼に振り回されるシェリー。
ユウのスキルとは一体何なのか――!?
そして、作者は次回を書くのか!? 次回へ続く!!(たぶん)」




