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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

首釣り

作者: むみん
掲載日:2026/01/31

  地下深く、地獄の池に設えられた釣り堀。獄卒が二人、並んで竿を垂れている。


「本当に釣れるんですか、先輩」


「待て。もうすぐだ」


 水面は静まり返っている。ここでは、沈黙の長さが獲物の重さに直結する。


 やがて、ぴくりと糸が震えた。


「来たな」


 先輩の腰が落ちる。引く。底の方から、粘つくような重みが返ってくる。糸が軋み、池がわずかにうねった。


 次の瞬間、水面が裂けた。


 引き上げられたのは、人の形をしていた。


 首に食い込んだ痕。くたびれたスーツ。靴だけが妙に綺麗だ。まだ体温が残っている。


「新しいな」


 先輩はそれを見下ろし、鼻で笑う。


「ついさっき、って顔してますね」


 後輩がしゃがみ込む。男のポケットから、折り畳まれた紙が覗いていた。


 先輩がそれを抜き取り、ざっと目を通す。


「……よくあるやつだ」


 紙は短い。言い訳と、自己正当化と、形だけの謝罪。


 先輩は丸めて、足元に捨てた。


「逃げただけだ」


 吐き捨てるように言う。


「でも……どうするんすか、こいつ」


 後輩の問いに、先輩は顎に手をやる。


「戻す」


「戻す?」


「ああ」


 先輩は男の襟首を掴み、軽く持ち上げた。


「楽を選んだやつが、そのまま終われると思うなよ」


 男の顔が揺れる。閉じていたはずの瞼が、わずかに震えた。


「閻魔様に届ける。そんで叩き返す」


「叩き返すって……」


「決まってるだろ」


 先輩は笑った。


「もう一回だ」


 男の指先が、かすかに動く。


「今度は逃げられねえようにな」


 先輩はそれを担ぎ上げ、歩き出す。


「待ってくださいよ、先輩!」


 後輩が慌てて後を追う。


 赤い空の下、遠くでまた何かが沈む音がした。


 地獄は、今日も忙しい。

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