首釣り
地下の奥深く、地獄の池の釣り堀で、獄卒2人は今日も仲良く釣りに勤しんでいた。
「本当に釣れるんですか?先輩」
「まあ待て、そろそろだ」
後輩の問いかけに先輩がそう答える。釣りは持久戦だ。粘れば粘るほど、大物が釣れる確率が高くなる。
「おっ」
先輩獄卒の重心が揺らぐ。何か引っかかったようだ。前に前に引っ張られながらもそうはさせまいと大きく後ろへ引っ張る。
釣り上げた。ロープに首が括られ、勢いよく地面に打ち付けられる。その反動で尻餅をつき、先輩の獄卒は後輩を呼びつける。
「ついに釣れましたね!」
後輩の獄卒は嬉しそうに死体を見る。青白く、首にロープの跡だけをつけた薄汚れたスーツを着たソレは、まだ瞳孔が開いており、死んでからしばらく経っていない様子だった。
「生前の様子を見てみると、過剰な労働に耐えきれずに現実逃避でネクタイで首を吊ったイケイケのサラリーマンってところだな。ご丁寧に遺書まで書いてやがる」
先輩は男のポッケにあった遺書をつらつらと読み上げる。死ぬということ以外、特に内容のない。独りよがりで自己中心的な、そんな内容だった。
「死ぬという行為は逃げだ。どんなに辛くても、痛くても、それを背負って生きていくのが人間だ。こんなものまで書いて死ぬことを正当化しようとしても、こいつが人生から逃げたことには変わりがない」
先輩の獄卒は遺書を丸めて捨てて、死体に向けてそう吐き捨てた。
「でも、どうするんすかこいつ」
後輩の問いかけに、先輩は顎に手を当て言葉を返す。
「こいつには現世での罪を償ってもらう」
「現世での罪?」
「ああ、自殺はこの世で最も重い罪だ。残された家族、恋人、友達の想いを踏み躙る下劣な行為だ。自分は罪から逃げて、残されたものたちは後悔を背負うことなどあり得ない」
そう言うと、先輩は死人の男を担ぎ上げる。
「閻魔様に届けて、こいつを生き返らせる。そしてこれから1000年、一生罪を償わせるのさ」
ニヤリと笑い、早足で歩き出す先輩の後ろを、「待ってくださいよ」と後輩が駆け足で追いかける。
赤い空に罪人の悲鳴、地獄は今日も平和だった。




