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ガラス越しのエメラルド
仕事帰りの午後8時。雨上がりの表参道は、濡れたアスファルトに街灯を反射して、まるで深い海の底のような色をしている。ゆみのルーティンは、地下鉄の駅へ向かう道すがら、あるハイブランドのショーウィンドウを覗くことだ。
そこには、ベルベットの闇に浮かぶエメラルドがある。
それは、都会の喧騒をすべて吸い込んで、冷たい光に精製したような色だった。信号機の安っぽい緑とも、公園の枯れかけた芝生の緑とも違う。不純物の一切ない、高貴で、残酷なほどに完成されたエメラルドグリーン。
ゆみは、ショーウィンドウに映る自分の姿を見る。雨に濡れて少し乱れた髪、疲れの張り付いた顔。エメラルドの輝きは、そんな彼女の日常を「格好悪いもの」として突き放す。けれど同時に、その鋭い緑の光は、彼女の中に眠る「いつか、あんなふうに揺るぎない自分になりたい」という小さな野心を、静かに、けれど確かに研ぎ澄ませていく――。




