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書き始めたは良いけれど、ちゃんと完結することができるのか!?別の意味で、ハラハラドキドキしながらお読みください。
追伸、書き殴っているので、誤字脱字あったらごめんなさい。
この国は白の女神信仰が篤い。
かつて、一人の魔女が猛威を奮っていた。草木は枯れ、気候は狂い、疫病が蔓延していた。日々苦しめられる人々の姿に心を痛めた女神様が、邪悪なる魔女を打ち負かし、平和をもたらしたとされている。その際に聖魔法で、民衆を癒やした所から『白の女神』と言われ、対を成すように『黒の魔女』と表現するようになり、今では歌劇、童話、吟遊詩人が古典として語り継いでいる。
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「なっ!お嬢様がまた脱走したわ!!」
朝早くから、東の辺境伯領主ロデリン家は賑やかだった。
「今日は昼から予定が詰まっているから、絶対に何処にも行かないでってあんなにお願いしたのに…」
両手で顔を覆い、もう今にも泣きそうな声だ。気の毒そうな顔で、侍女仲間の背中をさすってやる。
「奥様に報告しに行こ。ね。大丈夫、お嬢様だって、今日がどれだけ大事かわかってるわよ。きっとすぐ帰って来るから。」
たぶん…と言う言葉をぐっと堪え、項垂れる侍女に付き添い領主様の奥方の部屋へと向かう。しかし、よく響き渡る侍女の声はすでに夫婦の耳に届いていた。寝室のベッドの上で仲良くモーニングティーを飲んでいたのだが、お互い顔を見合わせ、溜息を吐き出す。
「うちのお姫様には困ったものだ…」
「ほんとに…」
夫婦揃って肩を落とす。
当の脱走したお嬢様はと言うと…
「おじさん、リンゴをカゴ一杯に頂戴!とびきり甘いやつ!」
「あいよ!」
今日は月に一度の朝市だ。果物の屋台の前で侍女の服に身を包んだ少女と、ドスの効いた声のオヤジが周りの喧騒に負けじと声を張り上げる。隣には恰幅の良い奥さんが不思議そうに侍女の姿の少女しに話しかける。
「あら、リンゼ様おはようございます。今日は此処に来て良かったんですか?」
リンゼと呼ばれた少女もまた不思議そうな顔を返す。
「今日はワルプルギスの衣装合わせって聞いてたんですけど、私の勘違いだったかしら?」
右手を右頬に当てて小首をかしげる。この奥さんは茶目っ気があって、仕草も可愛らしい。のほほんと話を聞き流しそうになったが、
「衣装合わせ…」
ヤッベ、ワスレテタ!
「おいおい、お嬢様のあの顔、完全に忘れてたって顔になってるぞ。」
「そうね、汗がすごいわ。あれは冷や汗ね。」
夫婦でコソコソと話しているが丸聞こえだ。確か昨日、侍女のサマンサがやたら家に居ろって念押ししてた気がする。でも今日は月に一度の朝市。とっても大切なことなのでもう一回、月に一度の朝市!
普段店前には並ばない珍しい品々、通常よりも安くなってる野菜や果物。朝捕れたての鮮魚に、この日にしか営業しない食べ物の屋台。
私のお気に入りは、普段魔物の肉を扱ってる裏路地の精肉店。この日は、アックスビークの串焼きの屋台を大通りに出している。巨大なくちばしを持った中型の鳥なのだが空は飛ばない。ただ、足がめっちゃ早いので、もも肉は締まってて、食べ応えがすごい。すでに実食済みである。
「すっかり忘れてた。でも、今日、孤児院の子達とリンゴパイ作る約束しちゃってて…」
目を泳がしながら、言い訳のように言い繕うが、果物屋の夫婦に言ったって意味がない。きっとサマンサは泣いてるかもしれない。それを知った母は激怒してるだろう。普段温厚な父でさえ、お説教してくるに違いない。
しどろもどろしていると、店奥から大きなあくびをしながら果物屋の娘が出てきた。
「リンゼ様おはようございまぁふぁ~。リンゴ、孤児院に持ってくなら、私が配達しときますよ。マーレちゃんの焼くリンゴパイ美味しいし♪」
マーレは孤児院の最年長で、今では院長先生の助手や、子供たちの世話をしている。まだ15歳だというのに、しっかりもので、家庭料理コンテストを開いたら優勝間違い無しの腕前だ。私もマーレのリンゴパイが食べたかった。
シュンと肩を落としつつ、配達をお願いすることにした。本当はもっと朝市を楽しみたかったが、今日は帰ろう。家族へのご機嫌伺いに、追加でリンゴを買っていくことにした。
おじさんに美味しいリンゴの見分け方をレクチャーしてもらいつつ厳選してると、青白い蝶々が自分目掛けてヒラヒラ飛んでくる。そっと掌を上に向けると、蝶々はゆっくりと止まり解けるようにして一枚の紙のようになった。
リンゼさまへ
いま、にしのもりのなかでベーリーをとってます。
おおきいばしゃがとおりました。かっこいいトリさんのえがかいてあって、わたしはタカだとおもったけど、ダンはワシっていいます。ダンがリンゼさまにおしらせしたほうがいいっていうので、おてがみおくります。
ついしん、リンゴパイたのしみです。
カンナより
拙いながらも一生懸命書かれた孤児院の子供からの手紙だった。尊い!しかし、追伸の箇所でグッっと心を抉られる。カンナ、約束破ってごめんよ。私が手紙を握りしめ、胸を押さえうなだれる姿に果物屋夫婦が心配してくれる。夫婦の優しさに触れて少しメンタルが回復したことで、もう一度手紙の内容を読み直す。
「西の森に大きい馬車、馬車には鳥の絵が描いてある、鷹、鷲…それ、グリフォン!」
最後、悲鳴のような声が出た。
まずい、この町に王家の人間が向かってる!しかも、カンナ達がいつもベリーを摘んでる森はここからそんなに離れていないうえ、一生懸命書いただろう手紙は時間もかかってるかもしれない。急いでお父様に連絡しなければ!大切なものを包み込むように手と手を合わせる。伝えたい言葉を込めると隙間から青白い光が微かに漏れ出す。それをすかさず空に放つと小鳥が屋敷に向かって飛び立った。
そのまま自分も屋敷に向かって走り出そうと思ったが、追加で買ったリンゴを忘れていると呼び止められ、受け取る。
「ありがとう!私、もう帰らなき」
「そこのお嬢さん、少々伺いたい事が。」
背後から自分の声に被るように聞き慣れないイケボが聞こえる。この町にこんなイケボはいない。小さな町の住人達を私は全て知っている。
声だけで背筋がゾワゾワする。私の危機察知能力が最大警報を鳴らしている。それだけではない。目の前の果物屋のおじさんは目も口も開けっ放し。奥さんと娘さんの頬は真っ赤に染まり、目はとろんとしている。恋する娘の表情だ。
ここの娘さんは自他ともに認めるイケメン好きだった。イケメンランキングなるものを書き記した手帳を見せてもらったことがある。てことは、私の後ろに立っているであろう男は物凄いイケメンなのだろう。彼女を一瞬んで骨抜きにするだなんて、恐ろしい。
『そこのお嬢さん』が、私では無い事を祈りつつ、聞こえない振りをしてみたが肩を叩かれた。
ダメか…
グッと腹に力を入れて、恐る恐る振り返り、私は田舎の屋敷の侍女、私は田舎の屋敷の侍女。言い聞かせる。
「私ですか?なんの御用でしょう?…グハッ」
振り向いた先には、金髪の青年が立っていた。肌は透き通るような白に頬はほんのり色付き、瞳は青く切れ長で、鼻はスッと通っており、薄めの唇は血色良くツヤツヤしている。なんか、全体的に眩しい。朝日の中で、水面の様にキラキラしていて、目が眩む。直視していられない。
「すまない、ロデリン辺境伯の屋敷までの道が知りたいのだが、君は屋敷で働いている侍女かい?であるのならば、道案内をお願いしたい。」
やや物腰低くお願いされてしまい、断りにくい。しかも、この領地で侍女を雇う様な屋敷は我が家だけだ。
仕方がない、案内するか…
眩しすぎるので、目をできるだけ細め、にっこり笑って指を指す。
「この大通りをまっすぐ進むと町を抜けます。そのまま道なりに進めば、田畑の奥に屋敷が見えます。そこがロデリン様のお屋敷になります。」
そこまで入り組んではいないので、馬車ならすぐ着く。今頃、先程の鳥が私からの伝言をお父様に伝えてくれているはず。時間稼ぎは出来そうに無い。スマン、お父様。
「馬車で来ているのだが、ここは通行止めになっていてね。他の道を知りたいんだ。向こうに馬車を待たせてあるから一緒に来てはくれないかな?」
そう言って、半ば強制連行された。
馬車は西側の門の詰め所で足止めを食っていた。というか、門番達が気を利かして時間稼ぎしてくれていた。そもそも午前中は朝市で人が溢れかえる、馬車や馬での往来は禁止されている所が多いの一点張りで王家相手に気が気では無かっただろうがファインプレイだ!
馬車が通れないのであればと、観光に繰り出したイケメンとお付きの護衛さんの二人は町中で明らか侍女であろう女を見つけて連れてきたので、門番達は驚いたことだろう。
『なんで、よりにもよって、お嬢様が一緒にいるんだ』
『えへへ、なんでだろう?』
『後で説教です』
ここの門番達は、幼少の頃からの知り合いだ。小さい頃は魔獣討伐に出た父の帰りをここで待ってる間、よく遊んでもらったものだ。今では声を出さなくても表情だけで会話が出来るぐらいには仲が良い。仲は良いのだが、彼らに変な親心が付いてしまい容赦がない。きっと後日、普通に怒られる。領主の娘だろうと関係ない…そんな未来が私には視える…不可抗力なのに~。
この後、門番達はかなり頑張ったが、結局向こうに押しに負ける形で、森の中を迂回して屋敷に向かうことになった。
侍女のサマンサはお嬢様付き侍女になって5年目を迎えましたが、未だ振り回されては嘆いています。でもリンゼ様のおねだりに弱いので、なんやかんやで一番甘やかしてるのも彼女です。侍女って難しいね。