表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/21

第二十話 始まりの静寂

かつて英雄と呼ばれた男は、

今、誰にも知られず、廃墟の片隅にいた。

何も信じられず、何も守れず、

それでも、ただ一つ──まだ終わっていなかった。



 朝日が、

 廃墟の教会を照らしていた。


 


 埃の中、

 エイド・グレイヴは、ぼんやりと座り込んでいた。



 目の前には、

 崩れた女神像。


 


 その瓦礫の隙間から、

 小さな花が咲いていた。


 


 誰も世話しない、

 誰も知らない場所で、

 ひっそりと咲いた花だった。



 エイドは、

 それを見下ろした。


 


 何も感じなかった。


 


 怒りも、

 悲しみも、

 優しさも、

 もうとうに枯れていた。



 ただ、

 心のどこかで──


 


 何かが、

 ざらりと動いた。



 生きている。


 


 この花も。

 この瓦礫も。

 この腐った世界も。


 


 まだ、

 死んでいなかった。



 エイドは、

 小さく笑った。



 それは、

 かつて彼が見せた笑顔とは違った。


 


 冷たく、

 乾いた、

 救いのない笑みだった。



 ゆっくりと、

 立ち上がった。



 足は震えた。

 傷だらけだった。

 泥と血にまみれていた。



 でも、

 立った。



 かすれた声で、

 呟いた。



 


「……こんな世界なら……」


 


「……壊れても、いいよな。」



 小さな、

 でも確かな言葉だった。



 エイドの中に、

 ゆっくりと、

 氷のような決意が固まり始めた。



 かつては、

 誰かを守るために剣を取った。


 


 今は、違う。


 


 守るものは、ない。


 


 信じるものも、ない。


 


 なら──

 何のために生きる?



 エイドは、

 瓦礫の中に落ちていた鉄の破片を拾った。


 


 それは、

 朽ちた剣の一部だった。


 


 刃はボロボロで、

 とても武器には見えなかった。


 


 でも、

 エイドの手の中では、

 確かに”重み”を持っていた。



 かつて世界を救った英雄の、

 最後の剣。


 


 もう、

 誰も知らない剣。



 エイドは、

 それを腰に差した。



 そして、

 ぼそりと呟いた。



 


「──奪う側に、回ろうか。」



 それは、

 誰に聞かせるわけでもない。


 


 ただ、

 彼自身への”決別”の言葉だった。



 教会を出た。


 


 朝日は、

 まだ優しく差していた。


 


 でも、

 エイドの影だけは、

 異様に濃く、長く伸びていた。



 この瞬間、

 かつての”英雄エイド・グレイヴ”は、

 完全に死んだ。



 そして、

 新たな”怪物”が、

 静かに、世界に歩き出した。


守る者がいなくなったとき、

剣は、その意味を変える。

かつて世界を救ったその手が、

いま、世界を壊すために動き始める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ