第十三話 裁きの石
『英雄の代償』第13話です。
今回は、かつて救った民衆によって、
そして、信じたはずの少女によって──英雄が裁かれる章です。
それは“処刑”ではなく、“信頼の死”でした。
どうか、彼の沈黙に耳を傾けてください。
王都ルヴァーン、中央広場。
再び、
エイドはその場に引きずり出された。
鎖に繋がれ、
引き裂かれた衣をまとったまま。
彼を囲むのは、
かつて救ったはずの──民衆たちだった。
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民衆は叫んだ。
「反逆者だ!!」
「英雄気取りの裏切り者め!!」
「吊るせ!! 吊るせ!!」
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その声は、
怒りでも悲しみでもなかった。
ただ、
“面白がる”笑い声だった。
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子供たちまで、
小石を拾い、エイドに投げた。
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小石は、
容赦なく、エイドの額を割った。
血が流れた。
誰も止めなかった。
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兵士たちは、
ただ笑って見ていた。
王族たちは、
窓の奥で見物していた。
そして、
民衆たちは、
さらに大きな石を投げた。
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エイドは、
声を上げなかった。
どれだけ打たれても、
どれだけ罵られても、
ただ、立っていた。
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なぜなら。
まだ、
エステラを信じたかったから。
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でも。
でも──
広場の向こうで。
エステラは、
泣きながら、
民衆に交じっていた。
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彼女もまた、
震える手で、小さな石を持っていた。
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エイドは、
見た。
エステラが、
泣きながら──
石を、
投げた瞬間を。
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その石は、
エイドの胸に当たった。
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痛みよりも、
冷たさが、
心臓を突き刺した。
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民衆は、
歓声を上げた。
「見たか!? あの女も英雄を見捨てた!!」
「裏切り者に相応しい末路だ!!」
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エイドは、
何も言わなかった。
目を閉じた。
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涙は、出なかった。
血だけが、流れ続けた。
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やがて、
彼は、膝をついた。
体が、限界だった。
でも──
心は、まだ、
かすかに灯っていた。
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(……エステラは、仕方なかったんだ。)
(きっと、脅されてたんだ。)
(本当は、俺を……)
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必死で、
必死で、
言い訳を探した。
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でも。
民衆の怒声と笑い声が、
そんな希望を、ひとつずつ、削り取っていった。
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エイドは、
壊れかけた心を抱えながら、
地面に崩れ落ちた。
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空は、
雲に覆われていた。
もう、
星も、月も、見えなかった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
この章で、エイドは心の支えの最後の一片さえも奪われていきます。
それでも彼が完全に崩れきらないのは、
“自分の弱さを守るための言い訳”すら、彼にとっては“誰かを信じる行為”だから。
次回、いよいよ壊れかけた心に、ある“疑念”が芽生え始めます。




