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第十二話 折れない心

『英雄の代償』第12話です。

今回は、完全に孤独となったエイドが、

信じる気持ちだけを武器に、ただ耐える章です。

世界がどれだけ残酷でも、

人がどれだけ嘲っても、

「信じたい」と思うことは──決して、弱さではない。


 


 鉄と血の匂いが、

 鼻を突いた。


 


 王都ルヴァーン、地下牢。


 


 そこに、

 エイド・グレイヴは連れてこられた。



 手錠。

 足枷。

 首輪。


 


 英雄を称えたあの民衆たちが、

 今は彼に石を投げ、唾を吐きかけた。



 拷問室へ引きずり込まれる。


 


 抵抗する力は、

 もう残っていなかった。



 待ち構えていたのは、

 王国直属の尋問官たちだった。


 


 彼らは、

 無表情で道具を並べた。



 焼きごて。

 針。

 鞭。

 鉄爪。



 エイドは、

 ただじっと、それを見ていた。


 


 恐怖はあった。

 痛みも怖かった。


 


 でも、それ以上に──


 


 何も信じられない世界が、

 何よりも痛かった。



 最初に、

 鉄の棒で肋骨を折られた。


 


 次に、

 焼けた鉄で背中を焼かれた。


 


 爪で、皮膚を剥がされた。



 エイドは、

 歯を食いしばった。


 


 声を上げなかった。



 尋問官たちは、

 笑った。


 


 


「ほう、英雄様は我慢強いな。」


 


「だが──

 どこまで耐えられるかな?」



 彼らは、

 エイドの身体を蹂躙しながら、

 嘲笑を浴びせた。



 


「裏切られた気分はどうだ?」


 


「お前が命を懸けて守った国に、

 こうして殺される気分は?」



 エイドは、

 何も答えなかった。


 


 ただ、心の中で、

 エステラの顔を思い浮かべた。



 あの日、

 花をくれた彼女。


 


 あの日、

 優しく笑ってくれた彼女。



 エステラだけは──

 本当に裏切ったのだろうか?


 


 あれは、

 誰かに強制されたのではないか?


 


 そんな希望を、

 まだ、捨てきれなかった。



 拷問官は、

 ニヤニヤしながら、耳元で囁いた。



 


「お前、まだ信じてるのか?」


 


「女なんて、とっくにお前を売ったんだよ。」



 エイドの心臓が、

 きりきりと痛んだ。


 


 でも──


 


 それでも──


 


 彼は、うつむきながら、

 小さく呟いた。



 


「……エステラは……

 そんなやつじゃ、ない。」



 尋問官たちは、

 どっと笑い声を上げた。



 だが、

 エイドは、

 目を閉じたまま、

 必死に耐えていた。



 心だけは、

 まだ、

 折れなかった。



 世界に裏切られても。

 民衆に石を投げられても。

 仲間に見捨てられても。


 


 たったひとつの希望だけは、

 手放せなかった。



 夜が来た。


 


 地下牢に光はなかった。


 


 闇の中、

 エイドは、

 ぼろぼろの体で、

 ただひとり、立っていた。



 その胸の奥で、

 かすかな灯火が──

 まだ、消えずに揺れていた。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

ボロボロになっても、地に這いつくばっても、

“希望だけは捨てない”という意思。


第13話では、エイドが“希望を守ること”の代償を、

さらに思い知らされていきます。

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