第十一話 崩壊の始まり
『英雄の代償』第11話です。
積み上げてきたものが、一瞬で瓦解する──
それが、信じていた人からの言葉だったなら。
今回は、この物語の核心、そして最大の裏切りの瞬間です。
胸を締め付けられるような痛みを、どうかそのまま受け取ってください。
王都ルヴァーン、中央広場。
今日の空は、
どこまでも晴れ渡っていた。
まるで、
これから始まる地獄を、祝福するかのように。
⸻
人々は集まっていた。
貴族たち。
民衆たち。
王族たち。
侍女、兵士、子供たち──
みんな、
誰かの”命令”でも受けたかのように、そこに立っていた。
笑顔ではない。
期待でもない。
ただ、
何かを待っている、空っぽの目だった。
⸻
エイド・グレイヴは、
その中心に立っていた。
王族の命令だ。
「英雄として民衆に演説しろ」と。
だが、
違和感は拭えなかった。
なぜ、兵士たちがこんなに多い?
なぜ、みんながこんなに黙っている?
⸻
エイドは、
それでも、
信じたかった。
この世界を。
この国を。
そして、
エステラを。
⸻
壇上に上がると、
遠くから見えた。
エステラが、
群衆の端に立っていた。
銀の髪。
白いドレス。
太陽を受けて、
きらきらと輝いていた。
その姿だけが、
救いだった。
⸻
エイドは、
深呼吸をした。
そして、
民衆に向かって、声を上げた。
⸻
「俺は──」
「この国を、守るために戦った!」
「これからも、みんなの未来を守りたい!」
「だから……!」
⸻
その瞬間だった。
⸻
静寂を破って、
一つの声が響いた。
「嘘だ!!」
⸻
声は、
エステラのものだった。
⸻
エイドは、
息を呑んだ。
⸻
エステラが、
震える手で指を差していた。
その指先は──
エイドを、正確に、撃ち抜いていた。
⸻
エステラの瞳は、
泣いていた。
でも──
口は、はっきりと動いた。
⸻
「エイド・グレイヴは……
魔王の力を吸い取り、
この国を乗っ取ろうとしています!!」
⸻
広場に、ざわめきが広がった。
⸻
エイドは、
頭が真っ白になった。
何が起きているのかわからなかった。
目の前が、歪んだ。
エステラだけが、
はっきりと見えた。
⸻
彼女は、泣きながら叫び続けた。
⸻
「エイドは……
裏切り者です!!」
⸻
民衆たちが、
ざわめきから怒号へ変わった。
「反逆者だ!!」
「英雄なんかじゃない!!」
「捕らえろ!!」
⸻
兵士たちが動いた。
剣を抜き、
槍を構え、
エイドに迫った。
⸻
エイドは、
動けなかった。
何も、できなかった。
ただ、
エステラだけを、見つめていた。
⸻
彼女は、
泣いていた。
泣きながら──
裏切っていた。
⸻
エイドの心に、
音もなく、
ひびが走った。
⸻
広場は、
怒声と、罵声と、悲鳴に満ちた。
⸻
だがエイドには、
何も聞こえなかった。
ただ、
あのとき、エステラがくれた花飾りが、
ポケットの中で砕ける音だけが──
耳の奥に、
いつまでも響いていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
信じていた声が、
信じていた瞳が、
自分を“殺すために”向けられたとき、
人は、それでもまだ──信じたいと思ってしまうのかもしれません。
次回、完全に崩壊したエイドが見せる“最初の抵抗”へ。




