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副団長は西へ帰る

 

――皆。見たか、聞いたかぁぁぁぁッッ!?



 バンクラーナはするどき切れ長双眸をくわーと開けて、長床几ながしょうぎに一列かけたまんまのデリアド勢を見た。


 プローメル、ローディア、ノスコとその視線がぶつかる順で、彼らはがくがくがくっとうなづいていった!



――見た見た見た、しかも確かに≪ザイーヴさん≫と個人名で呼んだぞ! 俺らの眼前でッ! つまりこれは公表・・だ、副団長とファイーねえちゃんはくっついたのだ!


――あああ、この生あたたかさー! やっぱり二人が消えてた間に、決定的な何かがあったんだよ。おめでとう副団長ぉぉぉー! 俺ほんと嬉しい!!


――おお……我らがイリー守護神、黒羽の女神様。二人にもも色みかんの祝福を! 不肖イアルラ・ナ・ノスコの予想はぶっちぎり外れましたが、めでたい結果ならそれで良し!



 口を四角く開けたまま、プローメルとローディア、ノスコはバンクラーナの目線会話にこたえていった。


 しかしその衝撃のあまりの強さに、四人ともがしがし瞬間冷凍状態である。そこへくるっと、カヘルが振り返った。



「貴重な機会です。皆さんもキルス若侯の好意に甘えて、ご家族へのお土産にいただいてはどうでしょう」


「どうぞ、どうぞー!」



 それで黄土色外套のデリアド騎士勢は、またたく間に解凍された。



「そ、そうですね。じゃあブラン君、うちの家内にそこの渋い灰ねず色のをいいですか」


「はい! プローメル侯」


「いかにもありそうなのにあんまりない! 緑・白・だいだい、この尊き配色のをブラン君、うちの嫁用にくださいッ。いい仕事だッ」


「よろこんで、バンクラーナ侯!」


「ば、バンクラーナ侯~。私の許嫁いいなずけさんにあげたいので、見立ててもらえますかぁ~?」


「任せておけ、ローディア侯ッ」



 わらわらと皆が立ち上がって、首巻きの山に群がっていった。



「ちょっとー、ロラン。この栗と褐色のなんて、じつに君に似合いそうだよ? 理知的雰囲気が、さらにとんがっていいんじゃないの?」


「そうかね、パンダル~? 僕は外見さむざむしいから、いただいちゃおうかなぁ」


「そうしたまえ。ゆで卵から、ますます味のしみた煮玉子になるよ!」


「これをおばさんに、どうです。おじさん」


「はっはっは。どれも全部すてきだのう、ザイーヴちゃん!」



 予期せぬお土産選びの楽しい輪から、少し離れてノスコがもじもじ額の布包帯をいじくっているのが、カヘルの目に入った。


 副団長が冷やりと声をかけようとした時、ブランがひょろんとノスコの前にゆく。



「はい、これ……」



 護衛騎士は小さな、しかしずしりと重そうな包みを外套かくしから取り出し、衛生文官に手渡している。



「ああ……ありがとう!」


「昨日のお店に寄って、分けてもらったんです。必ず今日じゅうに食べきって下さいね、って言ってました」



 若き衛生文官の顔が、幸せのばら色に輝いてにきびを引き立てる。



「キルス若侯。貴侯とぶどう巻きに、もも色みかんの守護あれかし」


「あれ? ブランくーん。何や、ふろしきの下の方に……別の包みがあんねんけど?」



 その時、ファランボ理術士の声にぎくっと上げた護衛騎士の顔が、まるきり違って毛筆描きのような濃ゆさになった。変化に気付いたカヘルも、内心で驚くほどの豹変である。



「それ、それは開けないでッ。自分用お土産なんです!」


「え、でもなんか……。かすかに匂いが……?」



 もしゃもしゃお団子頭を振りたてて鼻を寄せたハナンの手から、ブランはしゅぱっと包みを抜き取った。すさまじい速さである。



「≪ひもののツルメー≫自工房製のにぼしと、ファダン産の高級するめ五枚ッ」



 カヘルは、ひょろ長い青年を見上げた。


 そんなに長い時間オーラン市内に行っていたわけでもないのに、ずいぶん効率よく買い物をするのだな、とカヘルはちょっと感心したのだ。副団長にそういう才覚はない。さすがはフラン・ナ・キルスの孫、朴訥顔をしていても如才ないらしい。


 にぼし包みを胸に抱えて、ブランはデリアド副騎士団長の視線に気づいた。ちょっと照れたように、そうっと言う。



「……そこのひもの屋さんちで、磯織いそおり布を売ってるんですよ」



・ ・ ・ ・ ・



 翌朝。白く明けた空に、ほのかなばら色の曙光がさす。


 ルニエ老公とオーラン近衛騎士、各国駐屯騎士らに見送られ、マグ・イーレ遺骨調査団は混成イリー軍駐屯基地をあとにした。


 イリー街道に出る。


 濃灰外套のマグ・イーレ騎士らの流れは、黙々西へと方向をとる。もう東にはゆかない。


 しかし最後尾についたデリアド騎士の黄土色のひとかたまりは、いまや目の中に温かく映る東の空と、そこに浮かぶテルポシエ城塞の姿を遠くに見た。


 濃くなった明るいばら色の空にひとすじ、狼煙のろしのように立ちのぼる煙がある。あれは市の脇、東の丘あたりだろうか。約束どおりにパスクアが、遺品を燃やし土にかえしているのだ。


 それを別れの合図しるしと取り、さっとカヘルは軍馬上から騎士礼をおくる。


 ≪丘の向こう≫へ去っていった、すべての人たちへ。



「さあ、帰りましょう――西へ」



 プローメルが、バンクラーナが、ノスコがうなづいて馬の頭をまわしてゆく。ローディアがもしゃっと微笑む。


 ファイー騎が隣にびしッと寄り添って、カヘルは祖国へつづく道を見た。黄土色の衣をまとった騎士らは、西へと帰路をとる。


 帰ろう。その名も≪ながき樫の森≫、イリー最西端さいはての国デリアドへ。





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