免税お土産定番と言えばスカーフ
「いま、ベッカさんの話してましたかー? ただいま帰りました、先生」
「おや、お帰りブラン君……て、何!? その荷物はッ」
寒い中をひょろひょろ走ってきたと見える。護衛役の青年騎士は頬を上気させ、微笑しながら手にした大きなふろしき包みを、ハナンの脇の長床几に置いた。
「どこかへ行ってきたの? ブラン君」
ローディアの問いに、青年はふろしきを解きながらうなづいた。
「ええ。先生にお許しをもらって、ちょっと買い物に行ってきたんです。友だちのお母さんがオーラン市内でお店やってて」
包みの中からのぞいた極彩色に、がたーッ!! つんのめるように、バンクラーナが立ちあがる!
「何じゃこりゃあああ、この大量の≪磯織り≫はぁぁぁぁッ!?」
「いやブラン君、いくらロイちゃんにねだられたからって!? そりゃ買いすぎでしょッッ」
マグ・イーレ王も、ぐぐうっと身を乗り出して突っ込んだ。
「いえ、ロイちゃんのてがらは別に買ったんです。そしたらゼールのお母さんが、これ今年の首巻き在庫一掃したいから持っておゆき、って。だから皆でお土産用に山分けできるかなーと思って、もらってきたんです」
「そんなことがあって、いいわけがなーーいッ。ど希少なんだぞブラン君、これはぁぁ」
赤黄青緑、蜜蝋灯りの下ですら目に鮮やかな彩りを放つその布の小山を前に、バンクラーナはぶるぶる身もだえている。そんな鑑定騎士に、カヘルは冷やりと問いかけた。
「これは珍しいものなのですか、バンクラーナ侯?」
「ええ! 東部大半島で製作されている伝統織布で、海藻の繊維を混ぜてあるんです。独特の手触りとイリーにない発色および配色が特徴……。現在はオーランとガーティンローのご婦人でも、知る人ぞ知る逸品ですが。もう数年もたてば全イリーにおいて流行するのではないか、と私はふんでいますッッ」
ふがふが鼻息を荒げながら、綿手袋をはめた手でバンクラーナはそうっと上の一枚を広げた。
「黄金根でもない、黄土でもないッ。何と言う色味、いい仕事してるな~!!」
「でしょう? なので皆さん、よかったらどうぞ。先生、このりら色あたりミーガン様にどうですか。ニアヴ様とグラーニャ様にも、あげたら喜ぶんじゃないかなー」
「そ、そう? じゃあ遠慮なくいただきます。きれいなものだねぇ!」
マグ・イーレ王はちょっと照れくさそうに、王妃三人ぶんの首巻き布を手にした。……さらっと述してしまったが、やはりすごい事実である。ランダルには三人妻がいるということ……もっとも、本当の意味での奥さんは一人だけだが。
「ファイー侯もどうぞ。なに色がいいですか?」
なごやかな雰囲気の中で、ブラン青年は朗らかに女性文官に声をかける。言われて、ファイーはちょっとまごついたようだった。
「えっ。いいんですよ、本官は」
「キルス若侯。濃いめの青はありますか?」
遠慮しかけた女性文官の隣から、ふいと立ってカヘルは布山をのぞきこむ。
「はい、この辺にあったはず……これかな」
カヘルにとっては叡智そのものの色に思える、深い青の首巻き一本である。それを手に取り、カヘルはファイーを振り返った。
「どうでしょう?」
「……」
同じ色の瞳をまるくして、立ってきた女性文官はそれを受け取る。ふわりと肩にまわした。
「かっこ良いですよ。ザイーヴさん」
知らない人には冷々淡々、冷やっこいとしかわからぬ平らか調でカヘルは言った。
「すごく似合ってます!」
ひょろい護衛騎士が、にこにこして首をたてに振っている。
「そうですか。……では遠慮なくいただきます。ありがとう、ブラン君」
やはりびしッと低い声にて、ファイーはブランにお礼を言った。
その脇、すぐ近くでなりゆきを見ていたバンクラーナは、切れ長の双眸をこあああッと開けていた。そのままゆっくり、同僚一同を振り返る……。
――皆。見たか、聞いたかぁぁぁぁッッ!?




