東パスクア西カヘル
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マグ・イーレ遺骨調査団の一行は、予定を遅らせたものの全員そろってオーランのイリー混成軍駐屯基地へと帰営した。
遺族の中には骨の怪物との戦闘で重傷を負った者もいたが、ノスコとエノ軍医の応急処置、およびファランボの理術による治療が功を奏して、大事に至らず済んだ。
そういった負傷者たちは軍馬から鞍を外し、相乗りしたエノ傭兵やテルポシエ巡回騎士に支えてもらって、オーラン国境まで送られたのである。
雨風はすでに、足早にテルポシエを過ぎて行ってしまっていた。嵐がもたらした冷たい空気の中、最後まで付き添ったエノ軍幹部のパスクアはカヘルに告げる。
「判別されずに残った遺品は、私が責任を持って処分します。必ず明朝、全焼却としますので」
「ええ。よろしくお願いします」
カヘルはオーラン国境までの道のりにおいて、ごく簡単にパスクアに進言をしておいた。専門家筋の話として、≪巨石記念物≫の危険性を教えたのである。
ドルメンを含む巨石は、周囲の環境に影響を与える可能性がある。今回の身元不明男性のように、何らかの健康被害があるかもしれない。人々が今後迷い込むことのないよう、ドルメンを閉鎖し封印をした方がよいと、カヘルは冷ややかにすすめた。
「本当ですね。墓地の裏手は人通りのあるところではないですが、後で何かでふさぐことにします」
カヘルとファイーがその中に消えていたことを知らぬエノ軍経理関連責任者は、それでも真面目に受け取った。
地元の子どもが入り込んで大事があってはえらいことになるぞ、と眉根を寄せている。
最近、なくしたはずの息子と衝撃の再会を果たし、じきに次の子も生まれる元二枚目のエノ軍幹部パスクアは、ついそういった視点でものを考えるようになっていた。
「カヘル侯。ごたごたとありましたが、この三日間ご協力ありがとうございました。帰りの旅も、どうぞ無事で」
「こちらこそ、数々のご配慮に感謝しております。パスクアさん」
そっけなく、しかし本当の誠意を互いに示し合わせて、カヘルとパスクアの二騎は別れる。
国境の向こう、オーラン側で一列に待ち構えているマグ・イーレ騎士隊のミガロ侯に状況を説明しなければならない。マグ・イーレ文官らとともにそちらへ行って、カヘルはもう東を振り返ることはなかった。
――怪物の正体その他について、やはり最後まで触れることはなかったか……。
国境の西と東とで、カヘルとパスクアは胸中おなじことを考えてもいた。西のカヘルは数々の証言をもとに、近くあばいてみせようと冷やっこく意気込んでいる。一方で東のパスクアは、もう気づいてんのかなと一抹の不安を感じていた。
さらにどちらも内心では、互いにあいつ悪くないな、とも思っている。組織の中で苦労している者どうし、実は波長が合うのかもしれない。
ふっ、
するどい冷風がイリー街道を吹き抜けた。




