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人間側に疲弊が見えてきました

 

・ ・ ・ ・ ・



 がすッ! どすッ! ぶしゃん。


 カヘルは波のように押し寄せる骨の化け物たちと、最前線で対峙している。


 いぼいぼ戦棍を縦横ななめ、八方厄除け全方向にふるっていた。


 正面に迫ったやつの横面を張るように、水平――ずどん!


 返す勢いで左ななめ下――ぐぼん!


 文字通りの千本打撃のっくである。


 カヘルの右ではローディアがもじゃもじゃ、ふかふか、かさばる髪と毛を華麗になびかせながら、すいすいと怪物の頭部を的確に切りさばいていた。


 安打・・の音とともに、副団長の冷気が流れてくる。側近騎士は安心して、冷静なる明鏡止水の境地に入っていた。



「ほっ。はっ」



 右手の片刃刀(骨董品)をひらひら軽くひらめかせて、カヘルの左側ではバンクラーナが怪物たちを翻弄していた。


 つかみどころのないような、ふらつくような足取りでゆらりと横にまわっては――すらッ! 風のように刃を刺し入れ、怪物の目玉を貫いてしまう。安打安打でやかましいカヘルと異なり、鑑定騎士の戦闘は、静かなる舞踊のような立ち回りである!


 さらにその横では、プローメルが渋さ全開で捕縛網を放っていた。


 じゃッ!


 もともとは北部穀倉地帯で巡査らが使っているものらしいが、プローメルの性格におあつらえ向けの得物なのである。ついでに昨夜の怪我もある、プローメルは自重して無理はしない。慎重さも渋さのうちと思っているのだ。


 小さなおもり付きの網――それにからめ捕られて、動きを封じられる骨の兵士。じゃくん! その頭部に中剣を突き刺して、プローメルはまた一体、確実に敵を仕留めた。ざらざらと砂塵のようになる骨の化け物、そこから網を持ち上げて次の対象を見る。



「網を外す手間がかからない分、楽だな。こいつら」



 余裕しゃくしゃく、絶好調なりデリアド騎士勢。



――しかし……。



 カヘルの胸中には、危惧があった。



「侯ッ。侯の腕がッッ」


「退いてください、ドレル老侯ーッ」



 マグ・イーレの遺族騎士たちに、疲弊が見えてきた。ついに負傷者も出てきたらしい。


 イリー世界において屈指の持久力をうたわれる、デリアド騎士のカヘル達はまだまだ問題なく戦える。左翼・右翼にまわるエノ傭兵とテルポシエ巡回騎士らも、大丈夫そうだが……。



――敵の数が多すぎる!



 このままではマグ・イーレ騎士らの中央に穴を開けられてしまう、とカヘルが考えた時。



「カヘル侯! いったん≪うらっこ≫を解いて、攻撃かけますよって! 退いてくださーいッ」



 振り返ると、獅子頭の術士帽をかぶったファランボが、聖樹の杖を両手にぎりぎり握りしめていた。その杖の先端、こぶこぶ三つが白く強く光る!



「いざ来たれ 群れなし天駆あまがける光の粒よ、高みより高みよりいざつどえ  つどい来たりて 我が敵をつ あかき春雷となれ――」


「攻撃理術展開! 全員、後退――ッッ」



 カヘルの咆哮とともに、騎士らの前に立ちはだかっていた濃灰色の根の巨壁が、ふいと消滅した。その向こうから、見渡す限りに広がった骨の兵士の軍勢が、なだれ込んでくる!



花麗かれいなる、一撃ぃ――ッッ!!」



 ずどおおおおおん!!


 真っ赤ないなずまが宙を走り、さらに煌々こうこうと光る雷撃が怪物どもの上にはじけた。


 蜘蛛くもの子を散らすかのごとく、骨の兵士たちは衝撃で空中に投げ出され、びりびりとそこで硬直してから崩れていく。大量の怪物が砂粒にかえったかに見えた……が。



「あああ、我らがファランボ理術士の大型攻撃を受け、数は相当減ったはずなのに!? 敵はまだまだ出てきますッ。いったい何頭いるのでしょうかッ!? せまる戦場はすぐ目の前、中継席お隣の識者パンダルさんッ」


「わかりませんね、実は戦闘要員だったロランさん! ついでに言ったら数え方も不明の敵です、何頭、何匹、何体? 人型だから何人としたほうがよいのでしょうかッ」



 ドルメン入り口付近で蔵書目録をぶんぶん恐ろしげに振りながらも、やはり熱心に実況しているロランの後ろ。マグ・イーレ王はあることを考えていた。



――あの怪物たちに、恐怖や警戒心というものはないのだろうか……?



 骨の怪物たちは見かけこそ猛々たけだけしく、とがった腕先を武器としてぶん回しているのは恐ろしい。しかし動き自体は実に単調で、数体で連携している様子も全くない。



「やあっ」


「とうっ」


「もも色、みかーんッッ!」



 その証拠に、ドルメン前の文官たちでも、数人がかりであれば十分に対応できているではないか。イリョス山犬や狼、猪相手ならこうは行かないだろう。獣たちは素早くこちらの動きを学び、人はさきを読まれて隙に付けこまれる。それが動物、生きものの自然だ……。


 ぶあっしーん!!



「万引きは、犯罪だーッッ。立ち読みは、大歓迎ーッッ」



 また一体、古書店主が単独で怪物をはたき落としている。わりかし強い、荒ぶる蔵書目録なり!




――これは本当に、私の感覚に過ぎないが。怪物たちは全部がぜんぶ……ただ一つ『目の前の人間をほふれ』という、単純な命令・・に従って動いているような感じがする。つまり怪物どもは生きものではない、……精霊でもなさそうだ。あえて言うなら、あやつり人形のようなもの……?



 ばっこーん!!


 最前線のカヘルもまた、新たに一体をかっ飛ばしつつ、マグ・イーレ王と同じことを考えていた。



――この群れをあやつり、けしかけている存在があるのではないか?




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