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中継席ドルメンより戦況をお伝えします

 

・ ・ ・ ・ ・



「何と言うことでしょう! 春のテルポシエ戦役にて出現したほねほね兵士、異形いぎょうの怪物がふたたび大発生して、我らがマグ・イーレ退役騎士たちと交戦をくり広げています。我々霊感もなにもない普通のおじさんだと言うのに、同じ年に二度も怪異を見てしまうとは! アイレー大陸の秩序も、いよいよひっくり返りかけているのでしょうか!? 中継席お隣の識者、パンダルさん!」


「はい、その可能性は十分にあり得ますロランさん! しかし今回と前回の決定的な相違点、それはほねほね兵士の親玉と推測されていた、あの赤い巨人の姿が全く見当たらない点でしょう。つまりほねほね怪物と赤い巨人とは無関係である、という方向も無視できなくなってきました! 我々中継席としては曇りなきまなこをもって、その真実究明に挑まなければなりませんッ」



 ドルメンの入り口まぎわ、巨石の壁にぴとりと貼りつくようにして、古書店主ロランとマグ・イーレ王ランダルはしゃべりまくっている。


 ロランはゆで卵のような頭を真っ青にして、しかし悲壮な面持ちにて書類ばさみを抱え込んでいた。しゃべると同時に、そこに敷いた筆記布にものすごい勢いで硬筆を走らせてもいる。



「おおおおお、またひとつ! デリアド副騎士団長が、敵一体をかっ飛ばしたぁぁぁ! それにしても中継席が現場に近いですねぇっ。たのもしきマグ・イーレ老騎士らの剣戟が、びしばし腹底に響いてきませんか? 識者パンダルさんッ」


「全くです、お隣のロランさん! ここ中継席のドルメンと戦場とは、ほんの五十歩ほど。ただの史書家として同行したはずが、期せずして従軍記者になってしまいました! ああっ!? 濃灰色に輝くファランボ理術士の根っこ壁を回り込み、右側から流れ込んで来た一群がいます!」


「大丈夫です、すでに予想していたテルポシエの巡回騎士らがそこに対応ッ。彼らが使っているのは概して短槍! 小回りのきく武器で、巧みに骨の斬撃を受け流しては、目玉を突いていきます! さすがお家芸が槍道の国!」


「そこに組み入るように突入してゆくのは、墨染すみぞめ衣のエノ傭兵です! 近年大々的に導入され、主力支給武器になったとみられる戦闘棒を行使。数人がかりで一体を押さえつけては、頭部へ巡回騎士の一撃! マグ・イーレ騎士がとどめを刺しに来てもいます、何とすばらしき火事場の連帯力なのでしょうッ」



 ランダルとロランは、手のひらに汗を握りながら実況している。ちなみに二人の親友は大まじめである、こうでもしなければあまりの恐ろしさに輪郭が波線描写になってしまう……どころではない、失神してしまうかもしれないのだ!



――フィングラスの森の中でイリョス山犬に囲まれた時も、昔エノ軍に追跡された時も恐ろしかったが……! こんな怪異の戦闘に巻き込まれるのは、パンダル・ササタベーナ史上初ッ! がんばれ皆、がんばれカヘル君! と言うかゲーツ君、助けてー!!



 マグ・イーレ王がその第二妃の間男である、伝説の傭兵の名を心の中で叫んだ時である。



「パンダル先生、少し後方へさがってください」



 ドルメン入り口反対側の壁面に寄り添っていたファイーが、前に出ていった。その後ろにひょろひょろした衛生文官ノスコ、マグ・イーレ文官三人が続く。



「えっ……!? そんな、皆さん??」



 ぎくりとした王の視線の先……。護衛ブラン青年とハナン傭兵隊長がそれぞれの長剣を鞘から抜き、派手に振りかぶり始めていた!


 ついにドルメン方面にも、怪物たちのわずかな流れが到達しかけているのだ。


 しゃーッ!!


 手首の代わりに、かまきりの鎌のように長く鋭くとがった骨の両腕先をかざして、一体が躍り込んで来た。


 ブランはひょいとかわして、首の骨を長剣で一閃する。


 ころんッと地面に転がったしゃれこうべは、赤い眼玉をぎょろりと回すと――ぬういッ。その下に新たなる骨の身体を生やした。


 よろめきかけた身体の方も、にゅるん! 新しい頭を生やしてぶんぶん振った後、気を取り直した様子で再び襲いかかってくる。


 ばっきぃぃぃん!!



「と言うことなんだ、ブラン! 春の時とおんなしで、このくッそ気色きしょい眼ん玉をつぶさねぇことには、無限に敵がえちまうって寸法だ。確実に両方つぶせッ」



 再生したうち、一体の頭を派手に長剣上段の切り込みで粉砕しながら、ハナン傭兵隊長がどなった。



「はい、ハナンさん」



 すいっと身を落とし、化け物の刃のような腕の一撃をかわしたブランは、くるり! 一回転してそいつの頭に長ーい足を……打ち下ろした!


 ぶしゃんッ。


 ブランの強烈なかかと落としは健在である。どころか磨きがかかって、邪悪なしゃれこうべは眼玉ごと弾け飛んだ。


 ちなみにもう、靴底にお小遣いは入れていない。




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