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裏幕、黒幕、赤幕

 

・ ・ ・ ・ ・



 イリー混成軍をすっ飛ばし、新生テルポシエ・エノとカヘルらイリーの共闘軍が善戦を続ける、そのはるか後方。


 市民墓地の片隅で腰を抜かしかけていた二人の平傭兵は、ようやく立ち上がれたところだった。



「み、見たかよ? おぇ」


「あ……ああ。穴ん中の骨と灰が……。ふくれ上がって、化けもんになった!!」



 火葬の済んだ身元不明の遺体を、彼らは埋めようとしていた。


 新たに掘ってだいぶ湿り気を帯びた穴の中へ、まだ熱い骨と灰とを入れて土をかぶせかけた時。その穴の中で何かがもわり、と膨らんだのである。


 円匙しゃべるを手にしたまま、平傭兵らは思わず後じさった。その途端、骨となった黒い手が、穴の上に差しのべられる。くしゃくしゃと空を握るようにうごめいてから、その手は穴の縁をつかんだ!


 そうして、しゃれこうべ・・・・・・が……。赤い二つの眼玉をぬらぬらと光らせて、黒い骸骨が地上に顔を出したのである。



「――!!!」



 そいつは素早く立ち上がると、息をのむ二人の傭兵には全く注意を向けず、骨だけの身体でぎしぎしと歩き始めた。ちょうどその時、ひょろひょろと通り過ぎて行ったデリアド衛生文官の後を追うようにして。


 ぎし、ぎしぎし、ぎしみし……!


 異様な音がいっぱいに響く。最初の一体に続いて第二、第三の骨の化け物が、穴から顔を出して立ち上がり、赤眼をぎょろつかせて続いてゆく!



「うわ、うわあああ」



 ぎしゃああああああ!!!


 直後、黒い爆発のように何十体もの骨ばけものが穴から噴き出した。


 一挙にかえった百足むかでの幼生がのたうつように、それは巨大な黒い波となって天幕の方へ流れて行ったのだ。平傭兵二人には、やはり見向きもせずに。


 彼らは膝肩のわるい予備役だったから、遺骨調査の天幕の方へ加勢に向かおうとはしない。肘をとるように助け合って、どうにか墓地の入り口へとたどり着いた。市内にいる本隊に、何とかして知らせなければ!!



・ ・ ・ ・ ・



「ふふふ」



 テルポシエ市内、海側にそそり立つ本城。


 白亜の城塞都市の核からは幾つも見張り用の小塔が立っているが、北方面を広く見渡せる東の鐘楼に人影はない。


 ただ一つ、空に向かってのびている崩れかけた石段の高みに立って、あかい髪をくゆらせている少女の姿があった。


 年齢の頃は十かそこいら。まだまだあどけないはずの子どもの表情は妙に引きれて、男たちのを欲する女の顔になっている。


 湿った風に、若草色の巻き外套がふわりとひるがえってふくらむ。



「じつに、たのしいの。別の色した他の国の騎士どもが、たーんと来た……。それも老い先みじかいのが、いっぱいじゃ」



 かわいらしい唇が、囁き始めた。



「でもっておあつらえ向きに、ねじくれて死んだやつの骨と灰がある。灰つぶひとつから、ほね戦士がひとり。骨ひとかけらからも、ほね戦士ふたり。たくさん作って、遊ぼうかいの」


「黒いやつには、ばれないのかい?」



 少女の声を使って、べつの存在が話しかける。



「あー、だいじょぶ心配いらん。ほね戦士は静かじゃろ? これくらいのおいた・・・われがきゃっきゃと騒がん限りは、あのやぶっ蚊・・・・にはわからぬよ」


「なら、静かに観戦と行こうか」


「そうじゃ。上映中はお行儀をまもって、会話はつつしめ。今日はどのくらいの魂を、丘の向こうに送り込めるかのーう!」


「にしても、若い眼っつうのは良く見えていいもんだ。あいつが……アキルが、≪超老眼≫の術をかけてくれた時みたいに見えて面白いぞ。なつかしいな」


「誰それ、何それ」



 小首をかしげた少女の双眸は、大きく開かれて≪東の丘≫のふもとを見ている。


 明るい褐色の瞳の中央、漆黒の闇がまるかった。

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